フランスのサイクリングルート「ヴィアローナ」を走る!
南仏ワインと古都をめぐる自転車旅

真夏以上の暑い日が続く日本から、大陸のはるか西のフランスも猛暑続きだ。そして、自転車ラヴァーが忘れてならない祭典、ツール・ド・フランスが、彼の地で白熱の真只中にあったばかり。夏の太陽に照らされフランス一周する選手たちを見て、走りたい!と願ったのは自然だろう。
しかし、ひまわり咲く穀倉地帯は灼熱の日晒しだし、かのモン・ヴァントゥーは、”死の山”だし*、自転車でとなるとビギナーには難易度高そう…。ただ、諦めるのはまだ早い。のんびり楽しめるサイクリングルートもフランスにはたくさんあるのだ。

例えば、毎年ツールも駆け抜けたローヌ川流域〜南仏は、サイクリストを魅了する特別な地。かのゴッホをも魅了した魅惑の地で、イージーサイクリングには最善の選択なのだ。

おすすめは公設サイクリングルート「ヴィアローナ(ViaRhona)」。
「ヴィアローナ」とはアルプスから南仏へと流れる豊かなローヌ川に沿って敷設された、自転車先進国フランスが誇るサイクリングルート。「Via」はルートや道、「Rhona」はローヌ川を指す。
総延長は815kmにも及び、しかし様式は日本人にも馴染み深い河川敷自転車専用道で、敷居・難易度とも低い。ビギナーサイクルツーリストにはうってつけの入門ルートと言えよう。北はスイス国境ジュネーブ近郊から、南は地中海沿岸部へと、南北に長いルートのうち、今回紹介するのは、リヨン南部の古都ヴィエンヌ(Vienne)から、南仏の宗教城塞都市アヴィニヨン(Avignon)に至る南下ルートだ。総距離350kmを3日間で走ってみた。

*ヴィアローナをライドする日本からのツアー情報を本ページ下部に掲載しております。ぜひご参考ください。
*本記事はフェロートラベル社のプロモーションを含みます

Text&Photo_Eigo Shimojo

*山口和幸氏によるモン・ヴァントゥーのサイクリング紀行はこちらをごらんください
https://globalride.jp/trip-travel/tdf2025_02_jp/

ViaRhonaは全長約815km。スイス国境近くのレマン湖付近からマルセイユまで伸びる、フランス公設のアップダウンが比較的少なく走りやすいサイクルルートだ

目次

Day_1リヨン南部の古都からワイン畑へ/ヴィエンヌからタン=レルミタージュへ(Vienne〜Tain-l’Hermitage)
Day_2ローヌ川の中州を走り修道士の学舎で夜を過ごす/トゥルノン=シュル=ローヌからヴィヴィエへ(Tournon-sur-Rhône〜Viviers)
Day_3アヴィニョンを目指し中世キリスト教の歴史を辿る/ヴィヴィエからアヴィニヨンへ(Viviers〜Avignon)

Day_1 ヴィエンヌ~タン=レルミタージュ

リヨン南部のヴィエンヌは、ローマ帝国の要衝としてはじまった古都。この街から旅をはじめよう。小さな町でも重要なローマ遺跡や神殿が点在し見所多し。充実のプロローグライドから、いよいよヴィアローナ本線へ入る。河川敷に近年整備された自転車専用ルートは、信号や交通障害がなく路面状況も管理され、走りやすい。起伏が少なくローヌの流れに沿って移ろうフランスの景色を、悠々と楽しみながらも、いつの間にか距離を稼げてしまう。

ヴィエンヌから南下すると、河岸の切り立った丘陵の斜面に美しい葡萄畑が広がる。ローヌ・アルプ地方は良質なワイン産地として広く知られるが、特にこの地はハイエンドワインの産地として名高い。歴史ある生産地コート・ロティの老舗ワイナリー、ギガルを訪ね、併設の博物館でワインの歴史に触れる。今日のアフターライドが楽しみだ。なんとワイナリーをMTBライドできるツアーもあるとか。

ローヌの流れをさらに辿って走る。河岸にオレンジの瓦屋根と教会の尖塔、砦や中世の古城が過ぎていく。両岸の景色は、様々な表情を見せてくれる。東岸のドローム県、西岸アルデーシュ県は、それぞれ異質の自然と文化圏を形成しているのだとか。ヴィアローナは、意図的にローヌ両岸を行き来するように敷設されているので、見て走って食べて、その土地の風土を感じながら旅ができるよう設計されているようだ。河沿いに走るだけで、オートマチックに体験が充実していく。ルートメイクの妙だろう。目ざとく良質な河川敷グラベルを見つけ突撃したり、固有生物のビーバーを探したり、風を感じ、土を踏みしめて走る自転車旅の楽しさを、ヴィアローナは感じさせてくれる。

日の終り、目的地タン=レルミタージュに到着。ワイン通憧れのコミューンだ。アフターライドの、お待ちわびたワイン三昧。名門ワイナリーM.シャプティエの葡萄園を散策し、アカデミーで愛あふれるワイン講座を。この日のローヌの景色を思いながら、土地の恵みのワインが沁みる。

旅の出発地、古都ヴィエンヌ。独特な青灰色のローヌの流れが、緩やかにカーブを描いて美しく景色に溶け込んでいる。ローマの砦がそれを見下ろしていた
南北総延長815kmもある”ヴィア・ローナ”には、各所に道案内や、名所旧蹟を紹介するサインボードが多く設置され、サイクリストの安心を担保してくれる
ローマ期にはじまり二千年の時を超えた古都。小さな町なのにローマ期の遺跡など、みどころ満載。街の中心に鎮座するローマ時代の神殿
この旅の途中度々すれ違ったフランス人女性サイクリスト。ワイン産地の葡萄畑を、軽やかに走り抜けていった
ローヌ流域はワインの産地として名高い。ローヌ川が削った谷ごと、丘ごとに地、土、岩石が違い、それが葡萄とワインに地域独自の影響を及ぼすのだとか
老舗ワイナリー、ギガルが運営するワインミュージアム。葡萄園をMTBライドするツアーもある。丘が急峻なので、さぞ走りでがあるだろう
フランスらしい葡萄畑を抜ける道。ワインヤードを縫ってはしるのも、ヴィアローナライドの醍醐味
ローヌの流れ、丘陵にはワイン畑、教会の尖塔と、連なるオレンジの瓦屋根。典型的なローヌ河岸の街の風景
ツール・ド・フランス中継に観たような景色の中を走る
ランチのスズキのソテー、赤豆のマッシュソース、オイルドパプリカ添。ソースは甘くないあんこのよう。日本人にも馴染むアルデーシュ県郷土の味
街を離れると豊かな自然林が続く。ヴィアローナは、河岸だけでなく、大きな中洲にも専用ルートが引かれている
通り過ぎた対岸の街アンダンスの美しさに、しばしペダルを止める。手前は全長187m、ローヌの川幅いっぱいに架けられたアンダンス橋で、1827年に開通したフランス最古の吊橋の一つ
目立った起伏の殆ど無いヴィアローナのルートだが、最大の敵があるとするならそれは、向かい風。風がサイクリストを苦しめるのは万国共通だ
ローヌ川クルーズ船発着場。スイスからの観光船が停泊していた
西岸と東岸のタン・レルミタージュを結ぶマルク・セガン橋。19世紀に建設された鉄と木の複合建築が美しい吊り橋。現在は歩行者・自転車専用橋でヴィアローナのコースの一部
タン・レルミタージュ到着。小さなミューンだが、ワインとチョコレートで世界的に有名だ
エルミタージュは、午前中に訪ねたコート・ロティと双璧を成すローヌ最高峰ワイナリー。ボルドー、ブルゴーニュのグラン・ヴァンにも匹敵する
昼に自転車に遊び、夜に名門にワインを学ぶ。得難い贅沢だ。ローヌの名門ワイナリー、M.シャプティエのメゾンにて

Day_2 トゥルノン=シュル=ローヌ〜ヴィヴィエ

朝陽がローヌの川面を照らし、期待も膨らむライド2日目。早朝の爽やかな川風に、体が目覚めていく。中流域のローヌは徐々に川幅をひろげ、流れはより穏やかだ。自然豊かな巨大な中州に敷かれたルートを抜けていく。中洲のサイクリングロードは街から隔絶され、ほとんど貸し切りの贅沢だ。快調に距離を稼ぎ、ヴァランスの街に到着。ヴァランスは南仏の玄関口と言われる都市で、白熱した今年のツール17ステージのゴール地でもあった。

街道沿いの小さな集落に目を引かれた。丘の斜面のオレンジ色の建物群が美しい。観光ガイドでも紹介されないボーシャステルという小さなコミューンだった。歴史保全地区に指定され、小さくも力強い美観だ。伝統的にフランスが力を入れる歴史的景観の保全活動に支えられ、サイクリスト/ツーリストは恩恵にあやかることができる。

昼食は、小さな町の地元民で賑わうローカルレストラン「ボナペティ」へ。フランス版定食屋といった風情だ。ボリューム満点のフレンチフライと肉料理を、もりもりと平らげ、楽しそうにおしゃべりする老婆たちの片手にはワインが。フランス人が大切にする、食と、人生。そして旅である、まさに”C’est la vie! (セ・ラ・ヴィ!) ”。

西陽に傾く夕景のなか、断崖の古城ロシュモールの絶景に嘆息しながら、揺れる吊橋を渡ると、まもなく目的地ヴィヴィエに到着した。かつて司教座のおかれたキリスト教コミューンで、神学校だった建物を改装したホテルへチェックイン。かつての修道士たち学び舎は、なお神聖な雰囲気を残している。ライドとワインに高ぶった気持ちを鎮めてくれる、厳かな宿泊体験となった。

2日目の早朝、ローヌ川を照らしだす朝日
朝陽に映えるマルク・セガン橋を、東岸から西岸トゥルノン=シュル=ローヌに渡り、2日目のヴィアローナライドを開始
巨大な中洲地帯には、自然公園が整備され、同時にヴィアローナのルートが敷設されている
虹に出会う。フランス語で、”L’arc en ciel”。自転車レーサーの世界チャンピオンのみが着用を許されるジャージも”アルカンシェル”
南仏の玄関口ヴァランスにて
ローカルレストラン”ボナペティ”で、シェフ押しのボリューム満点フレンチフライと肉料理を注文。エネルギー補給も楽しい
おしゃべりしながら、山盛りフレンチフライと肉料理を難なく平らげるご婦人方に脱帽
ローヌの川辺に張り出した村、べ(Baix)。歴史を感じる石造りの堰提と南仏の花の路地を抜ける
古城ロシュモール遠景と、揺れる自転車/歩行者専用吊り橋。様々なバリエーションの橋を渡り心地を味わうのもヴィアローナの楽しみ方
ローヌ川をはさんで対岸に望む、中世からのキリスト教コミューン、ヴィヴィエ
かつて多くの修道士が寄宿して学んだヴィヴィエの神学校は、リノベートされモダンなホテルになっている
カエル足のバター香草焼きクイユ・ド・グルヌイユ。フランス、特にローヌ流域ではポピュラーな郷土料理だ。白ワインに合う

再び自転車に乗り換え、松山まで残された道は、起伏の少ない平坦ルートだ。大洲から瀬戸内海へと、南予の水を集めた肱川に沿って、伊予長浜まで北上する。肱川のおおらかな流れに伴走して、下り基調の快適な巡航であっという間に伊予長浜に到着した。風情ある赤い跳ね橋をわたり、坂本龍馬ゆかりの港町に入る頃、そろそろ昼時が近づいていた。この日はもう一つ趣向を変え、昼食はコンビニエンスストアでお好みの品を選んで、浜辺でのランチタイムにした。日本のコンビニは、ワンダーランド!と、おにぎりの具を悩むアニーが力説する。私達の日常が、誰かのエンターテイメントになる面白さ。みなで伊予灘に向かっておにぎりやら、唐揚げやらを頬張りながら、海岸線の先に目をやれば、松山の街が目と鼻の先に見えていた。国道378号、通称夕やけこやけラインは、そのスムーズな路面であっという間に私達を松山まで運んでしまった。

Day_3 ヴィヴィエ〜アヴィニヨン

最終3日目。修道士の部屋に差し込む光に、清々しく目覚めて支度が済むと、早朝のヴィヴィエ歴史地区を抜けながら出発する。
カテドラル(聖堂)を中心に、キリスト教の歴史を偲ばせる街並み。狭く入り組んだ無人の路地は、静かで幻想的だ。
そして、3日目のヴィアローナへ。昨日までの間近に迫っていたローヌ河岸の丘陵は、平地の奥に遠のいて、風景は南仏の平野となっていく。空が広く、かすかにだが海が近づくのを感じる。遠く見える丘に、今日も古城が見える。かの名将ハンニバルが、ローマ帝国侵攻のために象で渡河作戦を展開したのが、このローヌ中流域だとか。2千年前からローヌ河は戦略的要衝で、それを物語るように多くの史跡が点在するのだ。

それ以上のキリスト教史跡があり、その最たる例は最終目的地、アヴィニヨンだ。
ヴィアローナから街に近づくと、周囲を堅固な城壁に囲まれた巨大な城塞都市が、ローヌ川に浮かぶように超然と見え、圧倒される。教皇宮殿の高い尖塔は天をつくよう。14世紀にイタリア以外の地で唯一教皇庁が置かれた歴史的事件の舞台で、キリスト教信仰とローヌ川がもたらす豊かな南仏経済圏に支えられながら、発展と衰退を繰り返してきた数奇な運命を持つ都市。南仏を代表する観光地として人気が高い。
一日ではとても周りきれない市街地をポタリングしてもよし、周辺のコミューンを巡るへショートライドしてもよし。この街を”死の山”モンヴァントゥ”アタックのベースとするのも贅沢なプランだろう。

今回アヴィニヨンを終着地としたが、ヴィアローナは、この先も地中海まで続く。
アヴィニヨンの下流から、地中海に向け分岐するローヌ河に沿って、ヴィアローナも2つのルートに分岐する。一方は、東寄りに進路を取りつつ南下し、ゴッホが愛してやまなかったアルル村を経由して、河口の港町のポルト・サン・ルイで終着。もう一方は、西寄りに地中海沿岸都市モンペリエを経由し、これまた美しい港町セートで終着する。

ヴィアローナライドを企画している自転車専門旅行会社フェローサイクルさん曰く、地中海まで完走するが真のヴィアローナとか。
試走してビギナーからエキスパートまで楽しめる、最良の海外サイクリングルートと確信した筆者。海外サイクリング旅の候補に、ぜひ、ヴィアローナ!

 かつてキリスト教主教座が置かれ、多くの修道士が暮らした路地を探索
聞けばリヨン在住の学生さん。見るからにハードコアサイクリストだが、ふとヴィアローナで地中海まで行きたいと思い立ち、自転車と装備を揃えたんだとか!
フランスの交差点様式の定番ラウンドアバウトによく見かける、ツール・ド・フランス通過記念の自転車モニュメント
見るからに難攻不落の、名も知らぬ砦。かのハンニバルもローマ攻めのため象を引き連れ渡河したというローヌ河は、歴史上極めて重要な河川だった
ヴィアローナのルートから仰ぐモンヴァントゥ。40kmほど走れば、あの”死の山”山頂まで到達できるが…
街道沿いにランダムに現れるプラタナス並木。ツール中継でもプロトンが駆け抜けるシーンがよく登場する
アヴィニヨン対岸の高台に建つサン・タンドレ要塞へ、ヒルクライムのショートアタック!
カトリック教皇庁が歴史上唯一イタリアを離れ、他国フランスに置かれた14世紀の歴史的事件”アヴィニョン捕囚”の舞台。街全体が石造りの巨大な宗教城塞都市
アヴィニヨンを取り囲む重厚な城壁に沿って、特別なサイクリングを楽しむ
42 教皇庁宮殿の貴重なフレスコ画
南仏特有の鮮やかなオレンジ丸瓦が屋根に映える街並。アヴィニヨンの街の成り立ちは古代ローマ期まで二千年近く遡ることができる
市場には南仏らしい色とりどりの野菜や果物が並ぶ。キノコの種類が豊富
石造りの街並みもさることながら、市街地の街路の殆どが滑らかで整然と敷き詰められた石畳
ちょっと足を伸ばして、アヴィニヨン対岸のかわいい村ヴィルヌーヴを散策
南仏のみならずフランスを代表する観光都市アヴィニヨン。歓楽街は賑やかでアフターライドの楽しみも多い
ワインと料理のマリアージュ、これぞ、”セ・ラ・ヴィ!”

🚲ヴィアローナツアー情報

ヴィアローナツアーは、海外スポーツツーリズム専門旅行者フェロートラベルのサイクリング部門、フェローサイクルが企画・運営しています。フェローサイクルは、フランス、北イタリア(ドロミテ、ロンバルディア)、スイス、スペイン(カタルーニャ、バスク地方)、そしてカナダ方面のサイクリング旅を提供しています。
ヨーロッパ屈指の山岳エリアでのヒルクライム、湖畔や川沿いの絶景ロングライドなど個人ではハードルが高い海外サイクリングの旅を添乗ガイドやサポートカー付きの少人数グループツアーでご案内、出発から帰国まで安心安全にフォローします。ツール・ド・フランス他グランツール観戦ツアーでも待機時にサイクリングも可能。輪行箱、ロードバイク、クロスバイクのレンタルもサポートしています。
日本では味わえない豊かな自然、歴史、文化、ワイン、美食などの楽しみを探されてみてはいかがでしょうか。

フェローサイクルの詳細は下記よりご参照ください。
*2026シーズンのツアーラインナップは11月発表予定です。お楽しみに!
https://www.fellow-travel.co.jp/cycle/index.html

🚴‍♂️ヴィアローナ_info
フランス版河川敷サイクリングロード、ヴィアローナ・プロジェクト

2005年開始
年々距離を伸ばし、2024年現在、総距離は815km
公式HP
https://en.viarhona.com/

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける