愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025 帯同記
#02

昨年秋。サイクリングの聖地として世界にも名高い愛媛県へ、オーストラリアからサイクリストの一団が到着しました。メディア関係者、旅行会社スタッフ、インフルエンサーなどそれぞれの分野で活躍し、日常でも自転車と自然を愛する参加者は、愛媛県のサイクリング環境に「Amazing!」を連発の日々。そんな6泊7日間のモニターツアーの様子の第二弾を、写真家でありサイクリストでもある下城英悟氏による帯同レポートでお届けします。
ツールドフランスのルートやイタリアの山岳地帯も走り込んでいる彼らは、このエリアにどんな魅力を感じたのでしょうか?

Text & Photos by Eigo Shimojo

01の記事はこちらよりご覧ください
🚴‍♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025
#1日目~2日目

目次

DAY_3 久万高原町〜天狗高原〜四国カルスト〜成川渓谷
DAY_4 高茂岬〜愛南町〜上槙〜宇和海〜宇和島

DAY_3 久万高原町〜天狗高原〜四国カルスト〜成川渓谷

民宿の食堂に、朝餉の良い香りが漂う。前日の“UFOライン”の洗礼をモノともせず、白飯と味噌汁をモリモリ食するオージー様御一行、本日も好調のよう。今日とて山である。タフライドが待っているのを、知ってや知らずや、目指すは、四国が誇る山岳名勝”四国カルスト”だ。カルストとは、石灰岩質の地表が悠久の時を経て侵食され形成された地形のこと。なかでも四国カルストは、標高1500m程の高地に全長25kmにわたって広がる高原。国内カルスト地形の代表選手で、自然が作り出した地形の最高傑作なのだ。ちなみに石灰岩は、太古の珊瑚や海底プランクトンの化石。それが数億年の時をかけて四国の山上1500mまでせり上がったあと、風雨に侵食されカルスト台地となる。そんな地を自転車で走り回れるというのは、”UFOライン”に劣らぬロマンと謎がある。

宿を出発し、面河川渓谷沿いを南下する。今日も愛媛の渓谷は美しい。透明度の高い清流に、切り立つ岸壁や巨岩奇岩が配され、水墨画のような景色が惜しげなく立ち現れては過ぎていく。彼らが、しきりに”ジャパニーズガーデン(日本庭園)みたいだ!”という景色である。そんな渓谷の道、交通量の少なさも自転車乗りには天国だ。

さらに高みを目指して進む。渓谷を渡る橋を越え、鄙びた山村集落を抜け、引き続くジャパニーズガーデンの風景を追って走っていく。週末限定の物産所「ししまる」名物の草餅や補給食のどらやき、きんつばを頬張りながら、異国の山村を走る。海外ツーリストには、さぞ楽しい体験に違いない。自転車で異国、異文化に浸る愉楽は、言葉には尽くし難い経験を残してくれる。近年、目に見えて海外からのサイクルツーリストが増加している。この旅の途中でも、度々に彼らと出会った。都市でも観光地でもなく、名もない峠道や漁村の路地で、羊羹を齧ったり、うどんをすすっている彼らと出会うのだ。自転車という共通言語があるからすぐに打ち解け、しばしのサドルトークが弾む。彼らのほとんどが、日本に深いリスペクトを示してくれるのは、誇らしく嬉しいものだ。海外サイクリストのリピーターの多さもその証左だろう。ほんの束の間、旅路を共有し、See You soon!の一言とサムズアップのハンドサインだけ残し、それぞれの道に分かれていく。この地球上のどこかで、また出会えたらなんと素敵だろう。

UFOラインとは、また一味も二味も違う山道を苦しみつつ味わいつつ、四国カルストの東の入口、天狗高原にたどり着いた。ここから西に向かう標高約1500m〜1000mの高山帯に四国カルストが広がっている。天狗高原から東に向かっては、下り基調の快走ルートとなる。登りの鬱憤を晴らすように翼を生やし、皆あっという間に遠くに行ってしまった。が、360度の見晴らしのきく眺望が続く一本道だから、その背中を見失うことはない。遠くに嬉々として逃げていくピーターやロブの姿が、はっきり見えている。遅れて彼らを追いかける。高原に風を切りながら、なるほど、これは替えの効かないサイクリングルートだと理解した。起伏、路面、眺望、全てが、高次元で揃いぶみなのだ。長い登りの苦労がこう報われることも、そうはないだろう。極上のご褒美ライドに、不肖の中年サイクリストでさえ図らずも奇声が出てしまう、四国カルスト恐るべし。

白眉は、ルート中程の五段高原付近、無数の白い奇岩が屹立するミステリアスな草原だろう。カレンフェルトという四国カルストを象徴する景色は、”日本のスイス”と愛称されるようだが、岩の一つ一つがまるで緑の絨毯に鎮座する白い石仏群に見える。個人的には、山上の賽の河原、または緑の恐山とでも呼びたい。”あの世”感漂う草原と、空の間に吸い込まれるよう滑り降りていく。姫鶴平の茶屋で皆に追いつき、昼飯にうどんを噛み締める。茶を啜りながら、スイスもいいけど、お遍路的には”あの世”だよなと、ピーター*に伝えたいと思うが、伝わりそうもないので独りごちて仕舞うのみ。
*編集部注 ピーターはライドメディア「Pedal Brisbane」より

後ろ髪引かれつつ、四国カルストに背を向け、長い長いダウンヒルを滑り降りる。テクニカルなワインディングも、寝食を共にした3日目のチームワークが効いている。お互いをケアしつつ、安全でスピーディーなトレインに信頼感がある。高度を下げ、緩やかになる谷間の道に陽が差し込む。高地の寒さで冷えた体に、午後のあたたかい西陽がありがたい。日の名残りを受け、充実感と安堵が皆の横顔に滲んでいる。日に日に旅情と連帯とが昂まるのが楽しい。やがて宇和島市内も程近い、成川渓谷に面したネイチャーホテル・ナルカワに到着。自然との融合をテーマにしたモダンなホテルが本日の宿だ。昨日の民宿お座敷スタイルとは好対照に、今夜はレストランディナー。地産地消の上品な和洋食に舌鼓を打つ。見知らぬ日本の食材や調味料があっても、好奇心から楽しんでくれるオージーに、今宵もリスペクトを。

DAY_4 高茂岬~愛南町~上槙~宇和海~宇和島

前半戦に盛り込まれたハードな山岳ステージを無事終え、愛媛を半周。海沿いの宇和島方面に移動した今日こそ、いよいよ伊予の海ライドなのでは?…いや、ここまでを思えばそんなに甘くないだろ、と用心して向かったのは、愛媛最南部に位置する愛南町だった。ひとまず海沿いということでひと安心。今日は天気上々、スタート地点の高茂岬からの海の眺めは最高だ。山の絶景から一転、今日は海の絶景へ、となるのか?快晴の空を映し、豊後水道が一面青く照り輝いている。入江には、なにかの養殖だろう組み筏が整然と浮き並んで、朝潮にゆれている。海岸線のモーニングライドに束の間遊ぶと、進路は内陸へ…、嗚呼、やはり山なのですね。

まずは丘越えから愛南町の市街に滑り込んでいく。と、なにやら賑やかしい。目抜き通りは祭装束の人々が、神輿を差し上げ、山車を曳いて練り歩いている。おお、ラッキーにも地元の秋祭に出くわしたよう。しばし見物のつもりが、サイクルジャージが目立つ我々は、威勢のいい若い衆に捕縛され、祭りの渦に放り込まれてしまう。アダム*、マーク*、ロブ*は、半纏を着せられ神輿の下に押し込まれ、いまや立派な担ぎ手をやっている。傍を見ると、子供達が曳く巨大な天狗面の山車が目を引いた。愛南町は、古くから修験の霊山、また遍路道の番外札所として信仰を集める篠山への玄関口だ。真っ赤な天狗さまは、篠山の神さまかもしれない。いずれにしても、まったく予想外の異文化交流に歓喜のオージー諸兄、まさに旅の醍醐味だ。

*編集部注
それぞれアダムは豪州サイクリングツアー会社「Bikestyle Tours」、マークはバイクショップ&コミュニティ「Lifecycle Garage & Bespoke」、 ロブは「Ride Media」より

祭りの余韻を纏って、さらに内陸深く切り込むトレイン。向かうは、かの天狗の待つかもしれない篠山山系だ。しかし温暖な南予は、晩秋でも里山の緑が濃い。晴天に、ウールジャージでは暑ささえ感じるほど。篠山山麓の里山ライドを繋ぐと、今日も山登りが待っている。稜線に向かって、折り返す峠道を登る。稜線上では、風力発電の白い風車が連なって青空に風を切っている。空の青、緑と、風車の純白、三色のコントラストが、目に楽しい。この旅の3本目のクライミングは、昨日までに比べるとマイナーな峠だが、大岩道、小岩道という篠山参詣の古道につながる道という。遍路道と修験の山道が交差する、味わいのある峠。

ベテランサイクルジャーナリストのロブ、新米ジャーナリストのペーターと、サドルトークしながら峠を登っていると、突然ロブが言う。”ツール・ド・フランス取材中にお前を見たぞ!”。覚えていないがあるかもしれないと、グローバルな奇縁に驚く。さらに続ける”山でも海でも、どの道も、こうも道が整ってるのはなんでなんだ!?日本の道、良すぎだろう!”と。ペーターもはげしく同意している。僕も完全に同意だ。私ごとだが、国内外各地を走り散らした経験をもって、この国の道路交通インフラは、驚異的なレベルにあると感じる。市街地から僻地の山林、海岸線の小さな岬に至るまで、あらゆるところに道が張り巡らされ、しかもメンテナンスも行き届く。まったく先人の努力によるほかない。おかげでサイクリストたる我々は恩恵に浴すことができる。サイクリストが望む、あらゆるバリエーションの路面までが揃うのだから。先進国である欧米諸国でさえ、これほどの道路網は持たないから、30年間世界を走って取材してきたロブの質問は、的を得ているのだ。嫉妬混じりなのも頷ける。僕は、質問に答えながら、こう付け足した。”Roads like these must be kinds of luxuary things, even for us, Japanese cyclists.” (日本人サイクリストにとってさえ、この道は贅沢の類だと思う。)
道は、日本が世界に誇る資産の一つだと、強く思う。思うべきなのだ。

” 峠を越えると、ガイドのサムさんに先導され小さな上槙集落の公民館へ到着する。秋祭の最中のこの集落で、ランチとお祭体験を特別にセッティングしてくれたのだという。祭礼の旗がはためく鎮守の森の前の辻で、地元の人たちとお祭礼のご馳走を囲む。食後は、今日2度目の神輿体験だ。宇和島に伝わる牛鬼伝説を奉じた喧嘩神輿の神事に参加させていただいた。サイクルジャージ野郎どもが担ぎ上げる妖怪牛鬼みこしと、村の若い衆担ぐ神輿の激突を、長老衆が手際よくさばく。本日2度目の神事をこなした我々に、心身ともこれ以上クリーンな状態はないだろう、得難い出会いに感謝して、集落を後にした。

山を離れ、稲の穂が揺れる内陸の田園を抜け、ふたたび海岸線へ。朝の青かった海は、西陽に淡く色づいている。宇和海に入り組むのリアス式海岸線を、北灘半島から蔣淵半島へとスピンしていく。いくつも鄙びた漁村を抜け、いくつも岬の高台へのアプローチをこなす。海岸線の急斜面に、オレンジ色の柑橘が、愛媛らしい鮮やかさだ。交通量の少ない、贅沢な岬巡り。山だけじゃなく、海までもか!と、ロブがまた唸っている。そう、何もなくとも贅沢なのだ。山に海に祭りにと、丸一日南予を堪能し、一路宇和島市内へ。宿泊は、宇和島に200年以上続いた歴史的木造旅館をリノベートした、木屋旅館だ。建物と南予の中心地宇和島の歴史に触れる静かでアカデミックな時間。アクティブなサイクリングとのコントラストがまた良い。いわゆる”観光地”とはかけ離れた愛媛最南部のディープな深層を旅した、120キロの距離もあっという間のライドだった。

いよいよツアーレポートも最終盤へ。海へ山へ、そして街へ、とまだまだ続く第3回(最終回)、乞うご期待。

🚴‍♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025
#1日目~2日目
#3日目~4日目

🚴‍♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングモニターツアー2024
#01 今治市周辺
#02 西条市~石鎚山~内子
#03 宇和島市~松山市

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける