愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025 帯同記
#03
走れば走るほどにその土地に根づく文化、懐の深さを知ることがあります。世界中、きっとそう。それでも、ここは特別なのでは?と思わせてくれるのが愛媛。海岸の波打ち際から1500m超えの山並みを隅々まで巡る道に、豪州のサイクリストたちから感嘆の声が上がり続けた7日間。フォトグラファーでありサイクリストの下城英悟氏による、サイクリングモニターツアー2025の最終回をお届けします。
Text & Photos by Eigo Shimojo
01、02の記事はこちらよりご覧ください
🚴♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025
#1日目~2日目
#3日目~4日目
目次
<DAY 5> 宇和海〜八幡浜市〜佐田岬
<DAY 6> 大洲市〜伊予灘〜砥部町、松山市
<DAY 5> 宇和海〜八幡浜〜佐田岬
昨晩は久しぶりの街の夜を楽しんだ。宇和島市内の居酒屋にて、地酒と豊後水道の魚介に舌鼓を打った。宿泊は歴史ある旅籠の木造建築をモダンに甦らせ話題を呼ぶ、木屋旅館へ。一夜明け、宿の暖簾をくぐり出てくる彼らは、アフターライドの”和”なしつらえに、ご満悦の表情だ。本日も晴天なり。風なく穏やかで、格好のサイクリング日和だ。宇和島を発ち、昨日に続き宇和海に沿って北上する。まずは西予の港町、八幡浜を目指そう。
入り組む海岸線、漁船や、養殖筏が浮き並ぶ入江の小さな漁村を通り過ぎる。係留された船の上、時おり人影が見えるだけで、港町は閑散として静かなものだ。漁も市も早朝終えたのだろうか、人気のない港に、小さな郵便局、小さな商店。入江の奥にはりつくような集落を過ぎ、また現れる坂を漕ぎ上がる。海岸から切り立つ斜面には野面積みの石垣が幾重にも層をなしている。その上の小さな土地に拓かれた蜜柑畑に、たわわな果実が太陽を受け、賑やかなオレンジ色を発色している。緑がかる石垣との対比がいい。石垣が緑なのは苔のせいだけでなく、地産の石材、緑色片岩の特色だという。旅人の旅情を刺激して余りある景色が続く。まだ1日は始まったばかり。一つ岬を回り込んで、大きな入江へのダウンヒル。目線の先に八幡浜の港が見えた。







みかん栽培と漁業で栄える港町、八幡浜は、九州と四国を繋ぐフェリー航路のハブでもある。港で小休止しながら、港から九州へと遠ざかるフェリー汽船を見送る。と、船の右舷、海から切り立つような海岸線が、西に向かって伸びている。なるほどこの先が佐田岬半島か。
南の宇和海と北の瀬戸内海を隔て、恐竜の尾のように細く伸びる四国最西端の半島は、基部の八幡浜周辺から先端まで全長約50km、最小幅が700mほどという日本一細長い半島だ。地形は険しく、それは海から突き出た山脈の稜線を思わせる。太古の日本列島の成り立ちの痕跡を残す、半島自体が地学的な標本だ。旅の目的地としても十分魅力的だが、走りでのある往復100kmのルートに美景が凝縮された折紙付きなのだと、西日本在の自転車仲間が口を揃えてリコメンドしてくれる。
期待に胸踊らす我らトレインも、西に舵を切り、魅惑の半島に突入した。海から突き出た山陵とは、百聞一見だ。海岸線からの急斜面は、時に切り立つ岸壁を成しながら、ヒダのように入り組んで続く。入江や高台の希少な平地に、かろうじて集落があり、道がそれを繋いでゆく。まるで山の斜面をトラバースするように道がついていて、海抜は低いが、さも山岳ルートのようなコースプロファイルだ。







パンチの効いたアップダウンが続く。俯瞰地図では、か細くみえる半島に隠された地形にみっちりと絞られ、トレインは早々散り散りとなってしまった。それでも、眺望は比類ない。昨日から走り繋いできた宇和海リアス海岸線の美景が、佐田岬に至って極まっている。今日は、めいめいがこの道と向き合うことになりそうだ。じっくり地形を味わうソロライドを。
小さな漁村からの急勾配を登り、高みから一望する豊饒の海と名高い豊後水道、宇和海。昨晩の肴、アジやシメサバは、この海の恵だろう。いまや皆の動力になっている。ひたすら西に向かって、傍に同じ海が見え、同じ道をゆくのだが、不思議に退屈することがない。蛇行し勾配の激しいルートが、景色を常にアップデートしてくれるからだろう。険しい半島に道を開き、狭い土地に暮らしを繋いだ先人の苦楽を想うと、敬意を禁じ得ない。たった50kmの道に、刻まれた時の厚み、濃縮された風土を感じる得難いライドだ。







近年は、半島頂上部をつなぐバイパスが繋がり、アクセスが容易になった。注目スポットも増殖中だという。その一つ、三崎港の「みなとオアシス佐田岬はなはな」に立ち寄る。ローカル色豊かな物産や飲食店が、佐田岬の自然と好対照をなすモダンでアーバンな施設に並ぶ。ランチに宇和島土着の漁師風鯛めしを喰らい、食後は海を眺めつつのカフェタイムでリカバリー。再びトレインを組み直すと、半島先端まであと少しだ。
岬の先端に向かう最後の登りは、なかなかパンチーだ。海を背にした坂道を、皆で登る。声を掛け合い、ときにアタックを掛け、子供のように競り合いながら終着点にたどり着いた。ずっと随走してきた海が、最後は遮るものなく眼前にひらけた。





せっかくなので、真の先端である佐田岬灯台まで、20分ほどハイクする。温暖な瀬戸内らしい植生が覆う遊歩道を、ペダリングに張った足でゆっくり歩く。眼下に旧軍事施設跡の重厚なコンクリート群が波に洗われている。佐田岬はかつては国防の要衝だった。その反対側、遊歩道に通じた磯の先に小さな浜を見つけたアダム*が、すかさず靴を脱いで海中に入って行った。思った以上に暖かいよ、と。サーファーの性だという。自然を愛するオージーらしい。最後の樹林帯を抜け出ると、豊予海峡の展望が開けた。関門海峡に並ぶ豊後水道の難所というだけあって、素人にも目視できるほど複雑な潮流が面白い。対岸には、九州がかすむ。今日を無事やり遂げ、フィストバンピン(グータッチ)する我々の頭上、白い灯台が、静かに日暮れを待って立っている。海峡を挟み込んで、空と海が、柔らかく色づいていく。
*編集部注 アダムは豪州サイクリングツアー会社「Bikestyle Tours」より






<DAY 6> 大洲〜伊予灘〜砥部町
佐田岬の夕焼けを後に、内陸の古都、大洲に移動した一行は、話題のホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」へ。かつて城下町として発展してきた貴重な街並みの色濃い大洲市街で、伝統的な建築群をモダンリノベートし、新たな街づくりを展開して注目を集めるホテルだ。また有機的に連動させ、商家や蔵、町屋など、日本固有の建築様式が、門や庭園もそのままにホテルの客室となっているから、伝統的な日本の居住空間を擬似体験できる。
例えば、町屋づくりの部屋を出て、浴衣着で街を散策、豪商河内寅次郎の「臥龍山荘」では風流の心に興じ、肱川に鵜飼の船遊び、そして大洲城に登城する。サイクリング愛媛一周に、こんな夢の散歩ルートが実現できる愛媛の懐の深さ。あの忘れ難い佐田岬ライドのあと、これが来るのだから、情報がオーバーフロー気味になって嬉しい悲鳴だ。自然もすごいけど、文化の深みが…ねっ!、とピーター、隣でまた唸っているロブ。自分が褒められたように嬉しいものだ。
*編集部注 ピーターはライドメディア「Pedal Brisbane」、ロブは「Ride Media」より







大洲に別れをつげ、この旅の最後のライドへ。船遊びを楽しんだ肱川に沿い、海を目指して北上する。緩やかな下り基調を川風に背中を押されて快走すれば、瞬く間に河口の街、伊予長浜の海へと出てしまう。伊予灘に沿う国道378号夕やけこやけラインへと左折すると、スムーズな国道で超特急と化した我々は、快速そのまま終点松山まで飛んでいきそうな勢いだった。しかし途中の”映える”駅、愛ある予讃灘線の下灘駅に寄り道なぞしながらも、ガイドのサムと目が合うと、とっておきのコースを用意してありますから!と不敵な笑みを浮かべている。最後まで侮れないのが今年のツアー。やっぱりか…







ゴールの松山も目鼻の先だというのに、愛媛県は仕掛けてくる。国道を切り上げると、伊予灘の海に背を向け、内陸へ。山登りの気配に、気を引き締め直す一行の心配をよそに、立ち現れる里山田園、山間村落は、この旅一番のなごみの景色を描いている。昔話にあるような日本の原風景に吸い込まれていく一行。観光スポットではないし、特別なことは何一つないのに、特別感がある。山村集落の佐礼谷で、素敵な古民家カフェnodoka saredaniへランチに立ち寄った。アットホームな畳の間でいただく、地産食材をふんだんに使った本格イタリア料理との出会いも、驚きと共に忘れられない時間だ。松山市内からほんの10km圏内の裏山に、こんな極上サイクリングルートが隠されているとは。松山市内観光と組み合わせたら、充実の1日になること請け合いだ。






日本昔ばなしの景色を辿って、最後のルートに遊んだ一行は、焼き物の街、砥部町を経て、松山へ。松山城で、茶の湯を嗜み、心落ち着けて終着地松山道後温泉へ。遍路道の四十四番札所、石手寺の山上に弘法大師が、今年も愛媛一周の旅を終えた一行を迎えてくれた。1週間みっちり苦楽を共にした仲間たちとハグの応酬だ。
今年は2年目のツアーだった。私自身愛媛県を2周目したことになる。にもかかわらず、単なる繰り返しにならないのが、旅のすごいところだ。旅は道連れとはまさに言葉通りで、オーストラリアの新しい友達も最高だった。彼らと行けなかった道の先が、無限にある。空海さんも、そうやって歩いたのかもしれない。旅に終わりはない。未知の愛媛をもっと知りたい。道後の湯に浸かりながら、愛媛再訪を、今年も誓うのであった。 完







🚴♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025
#1日目~2日目
#3日目~4日目
#5日目~6日目
🚴♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングモニターツアー2024
#01 今治市周辺
#02 西条市~石鎚山~内子
#03 宇和島市~松山市
Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける