日本贔屓の引き倒し
目次 1 村上春樹、芭蕉2 ロマンチストたち 1 村上春樹、芭蕉 フランス人の日本贔屓といえば知られるところだが、日本と縁が無いと見えた彼ら(The Japanese Odysseyの主催者であるエマニュエルとギョーム)も、じつは日本の文化に魅了された者たちだった。特に二人の心を惹きつけたのは、欧州でも人気の高い村上春樹の小説群や、芭蕉の俳句といった日本的な叙情文学だったという。 2016年のレースのあとに、初めてインタビューした際、安易なツーリズムやエキゾチズムでは説明のつかない彼らの熱意に、驚いたものだった。文学的な情緒が異邦人の心に火を付け、見知らぬ地まで運んだとすれば、言葉のチカラは偉大と言わざるを得ない。この時点で二人は日本を訪問したことさえなかった。 故郷を走りながら日本への憧憬を育み、構想の実現に向けて動き始めたエマニュエルとギョーム。想いが爛熟した2015年の蒸し返す夏、彼らは、数こそ少ないが、企画に共鳴した仲間たちと車輪の上にいて、日本を走っていた。想いは、山をも動かす。 第一回「The Japanese Odyssey」が開催されたのだった。 2 ロマンチストたち サイクリストの多くは叙情的でロマンチストであると思う。孤独なサドルの上、流れる美しい景色に無言のまま身を委ね、おのおのなにやら饒舌な想いを抱えているものだ。 憑かれたように自転車を駆って目に見えない自由を追い、長い峠道に苦悶しながら、同時に得難い幸せを感じている。エマニュエルとギョームの例もそうだが、世界的なウルトラディスタンスレースのトレンドには、複雑な現代を生きるサイクリストたちの個々の想いが […]