TVプロデューサー河瀬大作 Bike New York参戦記!
恋するニューヨーク vol.4
NY自転車生活・初級編 セントラルパークでサイクリング

ブロンプトン持参でニューヨークへ乗り込んだ。
しかしNYでの自転車生活には一抹の不安があった。

なんといっても、ニューヨークは、あのメッセンジャー文化を生んだ、自転車先進都市だ。日本と違い、自転車は車道ということが徹底されている。また自転車は日本とは逆の左側通行だ。ハワイではロードバイクで街を走ったことがあるけれど、ここは世界一の街・ニューヨークなのだ。ドキドキしないほうがおかしいだろう。

今回、ニューヨークに一緒に渡ったのは、カレンちゃんことランナーでありサイクリストでもある丸山果恋さんと、大学時代は自転車選手でならしたという友人だ。本当は鈴木おさむさんもその一人だっただが、なぜか石垣島へ旅立った。その顛末は前号に詳しい。

もちろん同行メンバーの誰もニューヨークを自転車で走るなんて経験をしたことはない。誠に心許ない。

そこで今回は、まずガイドさんをお願いすることにした。

今回ガイドをしてくれたアルベルト・トレスさん

自転車を持って世界中を旅するニューヨーカー、アルベルト。MTB乗りでレースにも出場する筋金入りのサイクリストだ。セントラルパーク近くのレンタサイクル屋さんで待ち合わせ。コミュニケーションに不安はあったが、わかりやすい英語を話してくれるし、良い人っぽくて、まずは一安心。
それぞれクロスバイクを借りて、セントラルパークを目指す。

カレンちゃん
大学時代は自転車部だった友人

セントラルパークといえば、「ティファニーで朝食を」「クレイマークレイマー」から「ホームアローン2」、「Sex and the City」に至るまで数々の映画の舞台となった場所だ。南北に4キロ、東西に0.8キロ、園内にある道路を一周すると10キロくらいあり、アップダウンもあり、それなりに走り甲斐がある。ランナーだけでなく、サイクリングをしたい人たちが集う場所でもある。

公園といいながら、道路は広く、一方通行だ。信号機もある。かなり走りやすい。ニューヨーク名物の馬車で移動している人、ウォーキングしている人、そしてもちろんサイクリングをしている人など、みんな気持ちよさそうだ。

身体が温まってきたところで、本気で走ってみようと思い、上り坂の前でギアを一段シフトダウン。スタンディングでグイグイと踏み込み、グイグイと登っていると、横にアルベルトが並んだ。さすが、レースに出場するだけあって、余裕がある。お互いに目配せしあいながら、しばらく雑談しながら並走する。

「日本ではヒルクライムとかやっているのか」
「いつもはロードバイクで山にも走りに行ったりするんだ」
「それはいいね。今度日本にも走りにいきたいよ」

会ったばかりだけれど、友だちになれた気がした。サイクリスト同士だから、言葉をこえて、通い合う”何か”がある。

セントラルパークは空が広い
道路も広い
並走するアルベルトをぱちり

広大なセントラルパークには、見るべきスポットがたくさんある。そのひとつが「ストロベリーフィールド」。そう、あのビートルズの名曲「Strawberry Fields Forever」にちなんで名付けられた場所。ジョンレノンが暮らし、銃撃された、ダコタハウスの真向かいにあたる。「Imagine」と書かれた円形のモザイクが目印だ。僕らが訪れた時にはストリートミュージシャンが歌う「イマジン」にあわせて、集まった人々が大合唱をしていた。

ストロベリーフィールド

セントラルパークを、ぐるっと一周したのちに冷たいものが飲みたいと、アルベルトに伝えたら、「じゃあパークの外にでてみよう、おすすめのカフェに連れていくよ」と。

ということで、ニューヨークの街へ。まさに路上教習だ。完全に自動車と同じ扱いなので、車道を走るのが当たり前。歩道を走ると注意されたりもする。日本とは逆の右側通行だ。逆走なぞしようもんなら、クラクションの嵐だろう。アメリカは自己責任の国という印象が強いが、命に関わることだから、みんな自分ごととして捉えていて危険な行為は絶対に許さない、という空気がある。一旦、ルールさえ理解できれば、歩行者とは完全に分離されているので、とても走りやすい。ただスピードをそれなりに出さないと逆に危ない。もちろんヘルメットはマスト。

ニューヨークのカレンちゃん
この白いけむり、ニューヨーク感満載

アルベルトが連れて行ってくれたのは、アパレルブランドのラルフローレンがやっている「Ralph’s Cafe」。かなりの人気店で、席はテラスも含めて満席。お店の前で立ち飲みした。キリッと冷えたカフェラテ、最高でした。

Ralph’s Cafe
アルベルトとカレンちゃん
冷たくて、コクがあって美味しかった

一息ついたあとは、ふたたびセントラルパークへ戻り、今回のサイクリングのクライマックスの場所へ。ベセスダの噴水とテラス。ここはセントラルパークのなかでも最も美しい場所のひとつで、常に多くの人で賑わっている。テラスの天井には美しい装飾がなされていて、荘厳な気持ちになる。
大道芸人もちらほらといて、ジャグラー、バイオリンを演奏する人、変わったところでは即興で詩を書く、という人がいて、かなりの人気だった。

ベセスダの噴水
ベセスダテラスから噴水をのぞむ
天井のモザイクが美しい
即興で詩を書いてくれる女性

たっぷりと3時間、セントラルパーク界隈を堪能した。レンタルした自転車を返却したところで、アルベルトとはお別れ。彼とは、またいつか世界のどこかでバッタリ会える気がしている。その時には、一緒に走りたい。

ホテルのあるチェルシーまではちょっと距離があるので、みなはタクシーで、僕はひとりで向かうことになった。

たった一人で、マンハッタンを走る。 事故したりしないだろうか。ルールが分からずご迷惑をおかけしないだろうか、とまた不安に駆られる自分がいた。
しかし結果的に、路上で僕は人ではなかった。地元のサイクリストたちがたくさんいて、彼らの背中を見ながら走った。もう気分は完全にニューヨーカー、そう思うと不安はいつのまにかなくなっていった。

ロードバイクの女性、めっちゃ速かった
オールドファッションな自転車が渋い

結論からいうと、マンハッタンは自転車天国だ。そしてその理由は明白で、交通手段として、優れているからだ。地下鉄やバスと違い、直接目的地に行けるし、タクシーのように渋滞に巻き込まれることもない。
そして何より、地元のサイクリストたちが、皆かっこよい。

NY自転車生活初日は、そんなふうに過ぎた。

明日はいよいよ僕たちだけで街へと繰り出す。チェルシーからSOHOへ抜けて、911メモリアルミュージアムやギャラリーなど。NYのいたるところにあるciti bikeを借りてのシティライドに挑戦する。

次回に続く。

Text & Photo_Daisaku Kawase

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Profile

河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表、GlobalRide コミュニケーションディレクター
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。