# Hideki Inoue

CULTURE
CYCLE CINEMA⑬
『少女は自転車にのって』
女性が自転車に乗れない世界の物語

映画のおもしろいところは、多様な世界を見せてくれることだろう。マフィアの血の歴史を。遠い星で起こった戦争を。殺し屋と少女の出会いを。幕末の侍の生涯を。絶体絶命の兵士を。湖畔で襲いかかる殺戮者との戦いを。国境や時代、時空を越えて、私たちに驚きと感動を与えてくれる。 『少女は自転車にのって』(2012年)はアカデミー賞外国語映画賞やヴェネツィア国際映画祭国際映画祭にノミネートされたサウジアラビア映画(ドイツ共同制作)。監督と脚本を担当したハイファ・アル=マンスールはサウジアラビア初の女性映画監督だ。 物語はサウジアラビアの首都リヤドで始まる。主人公は10歳の少女ワジダだ。頭の回転が速く、小銭を貯める能力に長けている。その彼女の夢は自転車に乗ること。お金を貯めて自転車を買い、男友だちと自転車競走がしたいのだ。これを聞いた人は「はいはい、途上国の貧困映画ね」と思われるかもしれない。違うのだ。彼女の家はおそらく中流家庭より上。素敵なリビングには大型テレビやゲーム機がある。母の仕事の送り迎えにはドライバーがいる(乗り合いだけど)。基本的に生活には困りごとはない。両親は真面目に働き、彼女に愛情を注いでくれる。お金に困っていないのに、なぜ自転車を買えないのか。それは、女の子が自転車に乗ってはいけないから。 私たちの常識から考えると驚きの女性差別が劇中に登場する。学校でも大きな声で話してはいけない(男性に聞かれてはいけない)。顔や体のラインがわからないようヒジャブなどで覆わなくてはならない。婚姻前の年頃の男女が外で会ってはならない。ラジオでロックを聴いてはいけない(これは女性だからというわけでは […]

#Hideki Inoue
FEATURE TRIP&TRAVEL
本州最北端、青森にて
桜と建築をめぐる弘前ライド

日本列島、本州最北端に位置する青森県。一年を通じて楽しめる海や山の幸、奥深い自然はもとより、春に賑わう桜の名所も各地に。今回の桜ライドは江戸時代から栄えた城下町の青森県・弘前市を中心に巡ります。弘前城に広がる桜を眺めて心を癒し、ゴールは800年の歴史を持つ大鰐温泉。最後には身体も癒されます。フルーツや野菜、そして海鮮など、食の彩も豊かな春の青森ライドに出発です。 目次  1. 青森空港をスタート 2. の、その前にちょっとご紹介 3. いざ南へ向かってスタート 4.青森といえばりんご 5.一気に弘前城まで 6. 桜の名所、弘前公園 7. ランチは弘前さくらまつりで堪能 8. 日本の近代建築を眺める 9.若手建築家によるリノベーション×美術館 10.青森の富士山を背に温泉へ 11.歴史のなかにあるいま 1. 青森空港をスタート 青森空港に到着。今回はここからスタートです。青森空港では、2021年より期間限定となりますが、サイクルステーションが設置されています。自転車の組立・解体用のスペースとサイクルラック、そして空気入れまで常備されており、ライダーにはとってもやさしい空港となっています(例年4月下旬から10月中旬まで設置)。空港が位置するのは青森市。北には海が広がり、そこを渡れば北海道の大地が広がりますが、今回向かうのは南。江戸時代には城下町として栄えた弘前市です。向かうは桜でも有名な弘前城。さあ、準備を整えていざ出発。 2. の、その前にちょっとご紹介 今回のルートには含まれていませんが、青森県を訪れた際にはぜひ行ってみたいのが、青森県立美術館。なんといっても有名なのが、大きな […]

#Aomori
FEATURE TRIP&TRAVEL
日本最高峰の神社、伊勢神宮。
神々の山を巡る。

日本には数多くの神社仏閣があります。その中でも三重県にある伊勢神宮はとても大切な存在です。今回は歴史と文化に深い結びつきのある伊勢神宮をめぐる約20キロのルートをご紹介します。スタートは国際空港であるセントレア(中部国際空港)。船で三重県に渡り、伊勢神宮を経由してゴールの鳥羽駅へと至ります。 伊勢は神々の国とも言われます。途中、いくつもの鳥居に出合うでしょう。鳥居は神仏と人間の世界との結界を示すもの。鳥居をくぐる際は一歩手前で立ち止まり、一礼して参拝しましょう。それでは日本の文化を堪能する伊勢神宮ライドへ出発です。*神社の境内は自転車を降りての参拝がマナーです 目次  1. セントレアから港まで 2. 高速船でなぎさまち(津)へ 3. 自転車旅の始まりは津駅 4.やっぱり名物の伊勢うどんを! 5.伊勢神宮外宮へ参拝 6. 伊勢神宮内宮で神秘に触れる 7. 伊勢の門前町で遊ぶ 8. 300年の歴史を戴きます 9.ゴールの鳥羽駅へ 1. セントレアから港まで 旅のはじまりは愛知県のセントレア空港。荷をほどきたいのはぐっと我慢し、このまま陸路ではなく高速船を使って三重県の津市の港、「津なぎさまち」を目指しましょう。ところで「津」は「船着き場」という意味なのだとか。津が着く地域を思い浮かべると水辺が多いですね。さて、セントレアと津を結ぶのは片道45分の「津エアポートライン」。荷物をピックアップしたら公共の交通機関の乗り場があるアクセスプラザに向かいましょう。そこから「高速船のりば」の表示に沿って進んでいけば10分ほどで到着します。 2. 高速船でなぎさまち(津)へ 「津エアポートライン […]

#Mie #Isuzu Gawa
FEATURE TRIP&TRAVEL
天空を走る。神秘的な阿蘇ライド
サイクリングを楽しめる神社エリア #01

多くの日本人にとって九州は特別な存在だ。数々の神話が残る悠久のロマンが息づき、手つかずの大自然と都市の距離は近い。その環境が九州独特の文化を育んできたのだろう。なかでも熊本県は阿蘇山(高岳、根子岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の五岳と広い意味では外輪山や火口原をも含めた呼び名)、熊本城、温泉、湧水など、九州の自然と文化を堪能するにはうってつけの場所。今回は壮大な景色が広がる阿蘇中岳火口を巡り、この地の文化を育んできた阿蘇神社を訪れる熊本ライドをご紹介しよう。

#Aso #Kusasenri
CULTURE
CYCLE CINEMA⑫
『イエスタデイ』
偶然がもたらす、もしもの世界

「たら、れば」を語ると嫌われる。 それもそうだ。 「あの時、ああしていたらなあ」とか「もっと、勉強していればなあ」というような話ばかりの人と飲んでいて楽しいはずがない。だが、「仮の話」は想像力をかき立てる。「もし、この世に○○がなければ」というタイプの話だ。 もし、この世にエジソンがいなければ。もし、この世に手塚治虫がいなければ。 もし、この世にスティーブ・ジョブスがいなければ。 どうだろう。偉大な存在がいなければ、世界が一転する。エジソンの代わりに誰かが電球を発明したのだろうか。映画は存在したのだろうか。手塚治虫がいなければ、マンガはどうなっていたんだろうか。ジョブスがいなければ、私たちはどんなコンピューターを使っていたのだろうか。『イエスタデイ』(2019年)は、「もし、この世にザ・ビートルズが存在しなかったら」という、言うならば思考実験のような映画。パラレルワールド系映画なので、細かな突っ込みはいらない。ただ、身を委ねて楽しむのが一番だ。 元教師で売れないンガーソングライターのジャックはスターを夢見ていた。しかし、友人たちには応援されるものの、ライブはいつも閑古鳥。全く売れる気配がない。ある日、世界の電気が12秒間だけ消えてしまう不思議な現象が起こる。ジャックは唯一の移動手段である自転車(彼は車の運転ができない)で家に帰る途中、バスに跳ね飛ばされてしまう。彼が病院で目覚めると前歯を失っていた。しかし、世界が失った物はそれだけではなかった。この世からビートルズの存在が消えてしまっていたのだ。ビートルズのサウンドが頭の中にあるのはジャックだけ。彼が弾き語りで『イエスタデイ』を […]

#Colunm #Yesterday
CULTURE
CYCLE CINEMA⑤
『居酒屋兆治』
函館の坂道を自転車で行く健さんの格好良さよ

北海道を鉄道で旅していたとき、奇妙なアナウンスがあった。ドラマ撮影のため、次の駅の名前が変わっているから気をつけろという。車内がざわめいた。北海道・富良野を舞台にした人気ドラマだったからだ。列車は駅に着いたが、撮影隊らしきものを通り越してしまった。すると、ホームの隅に背の高い男性がいるのが見えた。帽子を深くかぶってはいたが高倉健だとすぐにわかった。恐らく、旧知の友(田中邦衛)の撮影現場に陣中見舞いに訪れたのだろう。僕らの視線に気がついた健さんは、はにかみながら片手を上げて挨拶してくれた。圧倒的な格好良さだった。以来、「世代」ではないけれど、高倉健の主演する作品を観るようになった。

#Column #Cinema
CULTURE
CYCLE CINEMA④
『少年と自転車』
父に捨てられた少年は自転車に乗り希望を探す

『少年と自転車』(2012年、ダルデンヌ兄弟監督)はその名の通り、少年と自転車が物語の中心となって話が進む。主人公はベルギーの児童養護施設で暮らしている少年シリル。ある日、父との携帯電話が不通になってしまう。アパートの管理人に連絡をしても「引越しした」と言う。信じられるわけがない。息子に黙って引っ越すなんて。しかも、大切な移動手段である自転車は父のアパートに置いたままだ。シリルは施設を逃げ出し、部屋を訪れるが、管理人が言う通り引っ越した後だった。自転車も見当たらない。シリルは父に捨てられたのだ。

#Column #Cinema
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