本州最北端、青森にて
桜と建築をめぐる弘前ライド

日本列島、本州最北端に位置する青森県。一年を通じて楽しめる海や山の幸、奥深い自然はもとより、春に賑わう桜の名所も各地に。今回の桜ライドは江戸時代から栄えた城下町の青森県・弘前市を中心に巡ります。弘前城に広がる桜を眺めて心を癒し、ゴールは800年の歴史を持つ大鰐温泉。最後には身体も癒されます。フルーツや野菜、そして海鮮など、食の彩も豊かな春の青森ライドに出発です。

目次

 1. 青森空港をスタート
 2. の、その前にちょっとご紹介
 3. いざ南へ向かってスタート
 4.青森といえばりんご
 5.一気に弘前城まで
 6. 桜の名所、弘前公園
 7. ランチは弘前さくらまつりで堪能
 8. 日本の近代建築を眺める
 9.若手建築家によるリノベーション×美術館
 10.青森の富士山を背に温泉へ
 11.歴史のなかにあるいま

1. 青森空港をスタート

青森空港に到着。今回はここからスタートです。青森空港では、2021年より期間限定となりますが、サイクルステーションが設置されています。自転車の組立・解体用のスペースとサイクルラック、そして空気入れまで常備されており、ライダーにはとってもやさしい空港となっています(例年4月下旬から10月中旬まで設置)。空港が位置するのは青森市。北には海が広がり、そこを渡れば北海道の大地が広がりますが、今回向かうのは南。江戸時代には城下町として栄えた弘前市です。向かうは桜でも有名な弘前城。さあ、準備を整えていざ出発。

青森空港からのサイクリングロードの一部。前方に見えるのは岩木山

2. の、その前にちょっとご紹介

今回のルートには含まれていませんが、青森県を訪れた際にはぜひ行ってみたいのが、青森県立美術館。なんといっても有名なのが、大きな犬のモニュメント。これは今回のライドで向かう弘前市出身の世界的アーティスト奈良美智さんによる「巨大な犬」という作品。写真で見ても巨大ですが、生で見るともっと巨大です。迫力がありますが、でもどこかかわいらしくて、この白い犬のいる空間にいつの間にか溶け込んでしまう。そんな作品です。青森県は、ほかに版画家の棟方志功などさまざまなアーティストを輩出していますが、何よりねぶたのアーティスティックな山車は圧巻です。機会があればぜひご覧ください。ちなみに、青森市で行われる「青森ねぶた祭」と、弘前市の「弘前ねぷた祭り」があります。「ねぶた」と「ねぷた」の違いがあるのでお気を付けください。

3. いざ南へ向かってスタート

閑話休題。いざ弘前ルートへ出発です。青森空港を出たらまず県道27号を通って国道7号に向かいます。まず見るべきスポットは「木々」です。青森は日本でも北に位置するところ。4月になっても平均気温は8度前後。朝夕は「本当に日本は春になったの?」と思うぐらい冷え込むこともあります。だから、じめじめしておらず、すっきりさわやかな空気のなか走れます。起伏はありますが比較的穏やかなので、左右に広がる林や森を眺めながら気持ちよく走れるはず。風を切って走る。そんな表現がぴったりのライドです。

4. 青森といえばりんご

最初の休憩スポットとして最適なのが、「道の駅なみおか」です。県道27号から国道7号に入り、南へ少し行ったところにある道の駅。青森県内の道の駅で満足度第一位を獲得した場所です(じゃらん全国道の駅満足度ランキング2022)。さてさて、青森を代表する食のひとつが「りんご」。青森県はりんごの収穫量が日本一。日本の約60%が青森県産です。文字通りのりんご王国なのです。しかも、この「道の駅なみおか」のレストラン名は「あっぷるひる」。ならば、食さない手はない。メニューを探してみると、ありました。特製りんごパイ。りんごはもちろん青森産。そのお味は、ジューシーで、甘くて、爽やかな酸味で……、百聞は一見に如かず、ぜひご賞味あれ。

5. 一気に弘前城まで

休憩を終えて向かうのは、今回のメインイベントのひとつ、弘前城。直線で20キロほどなので、一気に走り抜けます。五能線の踏切を越えるとかつて城下町として栄えた街並みが見えてきます。さらに行くと、歴史小説家の司馬遼太郎が「日本七名城の一つ」とその著書のなかで評した名城、弘前城の天守が姿を現します。その天守は江戸時代に建造されたものが現存しており、そのほか櫓なども修復は繰り返していますが、当時のままの姿を見ることができます。

6. 桜の名所、弘前公園

そして、桜です。弘前城のもとに広がる弘前公園は、日本さくら名所100選にも選ばれており、春には約50種、2600本もの桜が咲き誇ります。ロケーションも抜群。弘前城をバックに空一面に広がる桜は見上げていると時間をさかのぼっていくようです。弘前公園が一般公開されたのは1895年のことですが、それ以前の江戸時代にはお城の中から桜のピンク色を見下ろして、お酒を飲み、おいしいものをつまんで花見をしていたのかも、なんていう空想にも駆られてしまいます。

7. ランチは弘前さくらまつりで堪能

ちなみに弘前公園には「冬に咲く桜」もあるそう。冬には桜の枝にも雪が降り積もります。それをピンクにライトアップして、夜だけに咲く冬の桜が見られるそうです。

さてさて、ここでランチ休憩。弘前は城下町として栄えたこともあり交易が活発で、海からの魚も豊富です。もちろん、野菜もくだものもおいしいものが集まります。だから、おいしそうなお店にはことかきません。どこにしようか迷っていたのですが、せっかくなので桜の弘前公園で屋外ランチを。4月12日から5月5日まで弘前公園では「弘前さくらまつり」が開催。桜が満開になるのは4月20日ごろからの予想です。そこから5月上旬まで種類の違う桜が常に満開でいるとなるということです。散りゆく桜と満開の桜を眺めながらのランチ。贅沢な時間ですね。

8. 日本の近代建築を眺める

屋外でリラックスするのも良いものですが、せっかくなので公園で腹ごなしを。すると見えてくるのが近代的な建物。近づいてみると市民会館なのです。弘前市民会館は前川國男により1964年に建造された建物。前川國男はル・コルビュジエやアントニン・レーモンドの元で学び、モダニズム建築の旗手として日本建築界をリードした建築家です。こんなモダンな建物が市民会館だなんてまたまた贅沢だなあと思ってしまいます。弘前市は、第二次世界大戦時には日本の陸軍の拠点として首都・東京と様々な交流があったそう。意匠を凝らした建造物が市内に点在しているのも頷けます。

保温・凍害対策も考慮した木目型枠のコンクリート打ち放しの外壁に、一定のリズムをもった大小のスリット状の開口部が陰影を生む外観(「HIROSAKI Heritage」より)

9. 若手建築家によるリノベーション×美術館

さて、公園散歩で腹ごなしをしたら、ゴールの大鰐温泉を目指してライドスタートです。大鰐温泉は弘前城から南へ向かったところにあります。自転車を走らせてすぐに見えるのが、弘前れんが倉庫美術館。この美術館の建物は100年ほど前に酒造工場として建てられたもの。戦後は青森の特産品であるりんごを使ったシードルの製造工場として使われていた建物です。のちに使用されなくなってしまいましたが、近代産業の遺産を未来へつなぐために、飛行場の滑走路跡地を活用した「エストニア国立博物館」の設計などで知られる、建築家・田根剛氏がリードして改修され美術館として生まれ変わりました。

10. 青森の富士山を背に温泉へ

あとはゴールの温泉に向けて一気に駆け抜けます。弘前れんが倉庫美術館から大鰐温泉までは約13キロの道のり。その雄大な立ち姿から津軽富士と呼ばれる岩木山を背に温泉を目指します。実は大鰐温泉は「もやし」でも有名なところ。なんでも温泉の熱と水を利用して育てるという独特な栽培方法で、350年以上前から続く伝統野菜として知られています。その特徴はしゃきっとした歯ざわり。秘伝の「温泉じめ」で一般的な水耕栽培では表現できない歯ざわりを作り出しているとか。普段は脇役になりがちなもやしですが、ここでは主役にすらなります。ぜひ召し上がってみてください。

11. 歴史のなかにあるいま

そしてゴール。大鰐温泉に到着です。大鰐温泉は800年前に開かれたという、長い歴史を持つ温泉地。傍らには清流、平川が流れ、またまた贅沢な空間を堪能できます。江戸時代には津軽藩の湯治場となり藩主もたびたび訪れていたとか。もちろん地元の人たちの療養場としても賑わっていたようです。そしてゴールとなるホテルは大鰐温泉駅からすぐ近くの「星野リゾート 界 津軽」。まさに温故知新。800年という歴史のなかに「現在」が溶け込んだような場所。温泉にゆっくりつかり、大間のマグロで舌鼓を打つ。本州最北端の地を堪能する「贅沢」尽くしの50kmの旅へようこそ。

🚲本日のライド行程

Profile

海老沼邦明/Kuniaki Ebinuma
編集者・ライター。埼玉県生まれ。都会暮らしが嫌になり新潟県に移住。そこかしこにある温泉に行きまくる、週末温泉生活を堪能。最近になってUターン。久々の都会暮らしにふらふらしながらも、移住前には目の行かなかったおもしろスポットを巡っている。

TRIP&TRAVEL
広島の知られざる名所 東城町・帝釈峡を走る

関西地方を中心に活動している温玉ねぎとろです。とにかく走るのが好きで地元ライドから四国一周、日本縦走ブルベまで縦横無尽に走った結果、「道あるところに絶景あり」を噛み締める今日この頃。今回は数多ある日本のライドコースの中でもニッチかつ自然豊かで歴史探索も堪能できるコースをライドしてみました。建築好きな方もぜひ。 広島県東部庄原市東城町へ! 目次 1. 交易路のなごり2. 江戸から継がれた饅頭の味3. 国登録文化財の近代和風建築「三楽荘」4. カルスト大地が織りなす名勝の数々へ 1. 交易路のなごり 広島県東部庄原市東城町はカルスト台地にダイナミックな自然が広がる帝釈峡があり、かつての山陽、山陰を結ぶ交易路として栄えた軌跡が残る町。鳥取県と岡山県に面する中国山地の中央、険しい山中にあります。 車やレンタカーの場合は中国道東城ICへ。岡山IC、広島ICからは約90分。福山西ICからは約80分。鉄道では芸備線東城駅を下車。岡山駅から2時間30分・広島駅から3時間で到着します。 かつて東城町は戦国時代である1500年代の前半に築城された五品嶽城(ごほんだけじょう)を中心に、城下町として、また山陽と山陰を結ぶ「たたら製鉄」の交易路として栄えました。 現在は東城川を中央に東岸は幅員の広い道とショッピングセンターが建ち、西岸はかつての城下町の面影を残す中心街です。今回は西岸の中心街をゆっくりとサイクリング。 日曜日の昼下がりでも人影はまばら。趣ある商店街を友人と二人占めです。今回、この商店街を訪れたのには理由があります。 2. 江戸から継がれた饅頭の味 竹屋饅頭店。ここが以前から気になっていま […]

#Hakuundo #Ride
FEATURE TRIP&TRAVEL
愛媛県主催
海外メディア向けサイクリングモニターツアー参戦記 #03

*参戦記 #01、#02はこちらからhttps://globalride.jp/trip-travel/ehimemonitortour24_01_jp/https://globalride.jp/trip-travel/ehimemonitortour24_02_jp/ 目次  1. 南予の漁村たちと岬めぐり(宇和島市) 2. 私達の日常が、誰かのエンターテイメントになる(宇和島市〜松山市) 愛媛周遊ツアーも早5日目の朝を迎えた。内子滞在の2日間をお世話になった農村の小さなドミトリー“古久里来(こくりこ)”さんお手製の和朝食を頂きながら、愛媛弁のオーナーご夫妻とのローカルトークにもいよいよ花も咲こうというのに……。早い別れが惜しい。1996年のオープンから、地元に根ざしたグリーンツーリズムを牽引してこられたご夫妻の温かいおもてなしに癒やされた、内子・大洲の滞在だった。同宿のクーパーは、別れを前に涙目だけれど、みなで記念撮影をしてさよならを。思えばこの4日間にしまなみを周遊し、石鎚山系に深山幽谷を駆け、内子や大洲の人と文化にも触れ、すでに愛媛県を2/3周してしいる。この上に何を求めるものがあろう?と、疑問を抱くほど、すでに愛媛に満たされている。が、行程はまだ2日残されている。あらためてルートを眺めれば、地図の上にむくむくあらたな期待が湧き上がる。今回のツアールートに込められた主催者の想い、ただならない。 1. 南予の漁村たちと岬めぐり(宇和島市) その期待の正体を確認すべく、この日に目指すのは、愛媛県南西部、南予地方の中心地、宇和島だ。内子から宇和盆地を抜け、景勝名高いリアス海 […]

#Ehime