下町自転車散歩 04
空港出たら5分で下町!
~羽田空港、蒲田、馬込、大森~

下町のイメージは人それぞれ。
古い町。低地にある町。庶民的な町。寅さんや両さんがいそうな町・・・。
今回訪問したのは日本の玄関口「羽田空港」がある大田区。
空港にかかる橋を越え自転車で巡って見れば、ここも間違いなく下町でした。

Text & Photo_Shitamachi Kombu

目次

実は簡単!羽田空港から自転車で蒲田の町へ
狐推しの穴守稲荷神社
実は都内有数の温泉地域の蒲田
番外) 大田市場で新鮮な海鮮に舌鼓
道に迷いつつ池上本門寺
馬込エリアでジョブスも愛した画家の作品を堪能
締めは大森の名店「煮込み蔦八」


実は簡単!羽田空港から自転車で蒲田の町へ

小雨降る日の朝の羽田空港第3ターミナル。今回は羽田空港からの自転車移動をしてみることにしました。ごったがえす旅行客その他を横目に空港直結のヴィラフォンテーヌの駐車場に行くと、シェアサイクルのポートを発見。ドコモとハローサイクリングの2種類があったので、今回はハローサイクリングを使ってみることに。

羽田空港第3ターミナル。下町の個人店ではキャッシュカードが使えない店が多いため、必要であれば空港で現金(日本円)をおろしておきましょう
ハローサイクリングはスマートフォンで開錠、施錠、返却を行う。スマホの電池残量には注意!

ちょっと価格の高い(それでも30分200円)Eバイクタイプをセレクトしたので、乗り心地は快適。
最初の目的地は蒲田エリア。羽田空港につながる橋はいくつかありますが、一番南の道を道なりに進み弁天橋を目指すルートが車の通行量も少なくおススメでした。

自転車レーンもあり走りやすい

ポートから1キロ、時間にして5分ほどペダルをこぐと、羽田平和の大鳥居がたたずむ弁天橋が。ここを渡れば大田区本土に到着です。走りにくいのではと事前に不安もありましたが、実際は自転車レーンも整備されたサイクリストに快適な道でした。

弁天橋から羽田空港方面を振り返る
この大鳥居はかつてここにあった穴守稲荷神社の大鳥居が、戦後の米軍の取り壊しを免れて残ったもの。現在は地域と空港の共生のシンボルとして羽田空港の玄関口に鎮座しています

狐推しの穴守稲荷神社

弁天橋から5分程で、先ほどの大鳥居跡から移転された穴守稲荷神社に到着。確かに大鳥居の形がそっくりです。稲荷とは豊穣をつかさどる神をまつった社だそうで、狐はその聖なる使いとして御祭神と共に祀られています。コンピューターゲームをされる方なら、鎌倉時代後期を描いた和風オープンワールドゲーム「Ghost of Tsushima」でも狐が主人公を導く存在だったことを記憶されているでしょう。
この神社は敷地はそれほど広くはありませんが、とても素敵な神社でした。個人的に今後も推し神社になりそうです。

本殿横にある千本鳥居。鳥居をくぐる時って一瞬CTスキャンされたような気分になりますよね(私だけ?)

境内の最も高いところにある御嶽神社からの眺めは、北斎の富嶽三十六景「東都浅艸(あさくさ)本願寺」に似ている気がして面白い。晴れていたら富士山が見えたかも?

狐塚には神の使いがたくさん。ゲームならかなりパワーアップできそう

当日無料で持ち帰ることができた招福砂(左)と榊の枝(右)。地元に根付いている神社ならでは
燈明料100円を払って拝殿前の燈明にローソクを1本灯す。神社とのつながりが出来たような気分
(左)JALコラボの御朱印帳を発見!
(右)手水鉢に浸すと文字が浮かび上がる珍しい水みくじ。中吉でした

実は都内有数の温泉地域の蒲田

お参りをすませて3キロほど先の蒲田駅周辺へ向かいます。大通りには自転車レーンがありこちらも快適…と言いたいところですが雨が強くなりずぶぬれになってしまいました。このままでは風邪を引いてしまうため、午前中からオープンしている蒲田温泉へ。

蒲田温泉に到着。使い捨てタオルがセットになった入浴券を購入し、入場。銭湯の料金で温泉に入れるのは大変お得。蒲田はかつて海だったため、都内でも珍しい温泉が出る地域だそうです。うらやましい。
蒲田名物の柔らかい黒湯がゆったりと冷えた身体に染みわたります。極楽極楽。見回すと海外の方も何名か入湯されていました。海外の方は公衆浴場が苦手という印象がありましたが、今は変わってきているのかもしれません。
同じく名物という釜めしも気になっていたのですが、残念ながら食堂は改修中ということでまた今度にいたしましょう。

風呂上りの一杯はコーヒー牛乳派

番外 大田市場で新鮮な海鮮に舌鼓(別日に訪問)

お昼を食べ損ねたので別日に訪問したランチを紹介。魚、青果、花を扱う広大な大田市場の中の一般人も入れる施設、「やっちゃば横丁」にある三洋食堂で新鮮な海鮮を頂きました。
市場の正門前近くにはドコモバイクシェアのポートもあるので、大田区訪問の際は足を延ばしてみてはいかがでしょうか。羽田空港第3ターミナルのシェアバイクのポートからは自転車で9キロほどで30~40分くらい。空港の乗り継ぎで時間が大きく空いてしまったときの選択肢としてもオススメです。
但し、市場のためお昼ごろにはお店が閉まりだすのでお早めに!

黒マグロ定食。舌の上でとろけるようなトロはもちろん、旨味の詰まった赤身も最高。追加で頼んだ海鮮フライも産地直送の新鮮なうまさ

道に迷いつつ池上本門寺

温泉で身体を温めたあとは、池上本門寺へ向かいます。日本の代表的な宗派「日本八宗」の1つ、日蓮宗の開祖日蓮が寂滅した(亡くなった)地という由緒あるお寺です。
小高い場所にあるお寺への道のためか、坂が多くて細い道が多く、迷ってしまいたどり着くまでに少々苦労しました。慣れていない方は電動アシストなしの自転車は厳しいかもしれません。

参道に並ぶ屋台を抜けると、視界が開け巨大な本堂が現れました。
堂内の和尚さんたちの読経の声が響く荘厳な空気の中、お参りをすませます。

名高い五重の塔

馬込エリアでジョブスも愛した画家の作品を堪能

芸術の秋ということで、次に訪れた馬込エリアでは美術関連施設3館を一気見します。

まずは、近代日本画の巨匠と称される川端龍子によって建てられた大田区立龍子記念館。写真は同じく友人の画家、川合玉堂を悼んで制作された《御来迎》という大作。

次に訪れたのは、昭和の女性書家の第一人者という熊谷恒子記念館(石像の女性)。残念ながら館内の撮影は禁止でしたが本人の住居がミュージアムになっており、センスの良い昭和時代の邸宅に懐かしさを感じました。

それにしても、この辺りは坂が多いです

3館目は、地元になじみのある画家の企画展などをなんと無料で観られる大田区立郷土博物館
本日開催されていたのは日本版画の「高橋松亭 x 川瀬巴水」展。

展示会場の撮影はNGのようなので、エントランスの垂れ幕を

両名は江戸時代の浮世絵の技法をベースに生まれた、「新版画」の絵師だそう。特に明治後期から昭和初期にかけて活躍した川瀬巴水は新版画を代表する画家として、叙情豊かな表現が海外で高く評価されていたそうです。
彼の新版画は以前雑誌か何かで見て気になっていたので、原画を観られて大満足でした。ちなみに、東洋趣味をたしなんだアップルの共同創業者スティーブ・ジョブスは川瀬巴水の絵がお気に入りだったとか。確かにアップル製品のシンプルなデザインと共通点があるような気もしなくありません。

さすがに無料は申し訳ないので購入した川瀬巴水の絵の扇子。先ほど通った池上本門寺の五重の塔が描かれています

締めは大森の名店「煮込み蔦八」

アートを満喫したあとは下町風景の残る道を通りながら、最後の目的地、大森へ。小ネタですが、大田区の名称は「大森」と「蒲田」それぞれの頭とお尻を取って命名されたそうです。

展示保存されている蒸気機関車に入ることが出来る入新井西公園

駅前のポートでシェアサイクルを返却して今日の自転車散歩はおしまい。大森在住の友人と合流し徒歩で向かったのは…

大森の名店、居酒屋「煮込み蔦八」です。
行列必至の地元の人気店ですが、午後四時の開店時に合わせたことで並ばずに入ることが出来ました。
初訪問に少し緊張しながら扉をくぐれば、コの字のカウンター内には名物の煮込みの大鍋が鎮座。壁に並ぶ短冊メニューや、クローク札のようなプラスチックの会計チップ立てと、古き昭和時代のような店構えです。

まずは名物の煮込み(ゆで玉子入り)をつまみに、黒ホッピーで乾杯。根菜と牛ホルモンのうまみが凝縮された一皿に杯がすすみます。続いて頼んだのは刺身盛り合わせ。居酒屋ではいまいちなこともある刺身ですが、この店のものは新鮮そのもので驚きました。やはり市場が近いからでしょうか。

その他のつまみも呑兵衛泣かせのものばかり

いつしか日本酒の冷、熱燗と杯は進み。旧友と共に昭和にタイムスリップしたような大森の夜は更けていくのでありました。

🚴‍♂️今日のコース🚴‍♂️


🚴‍♂️下町こんぶの記事🚴‍♂️

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Profile

下町こんぶ
週末ライター。東京神田生まれ三代目の江戸っ子。下町再発見に興味あり。本格的な自転車経験はないが、通勤時の相棒として、電動自転車を日々重宝。方向音痴が悩みの種。私淑するエッセイストは東海林さだお。ライターネームは駄菓子屋の定番「都こんぶ」にあやかる。

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神田祭 ~日本橋、東京、神田、秋葉原~

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#Kanda
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