自宅でファンライド! 取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #03
〜伝説の上り坂、あの峠をライドする〜

※*TOP写真/ピレネーのオービスク峠

真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。
レースの結果はタデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)がダントツの個人総合優勝を勝ち取った。

さて、3回シリーズのコラム最終回は、日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は中級者向けでレンタカーを使えば初級者も実走可。ピレネー編は上級者向けの周回コースだ。

目次

1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズタイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう
2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない聖地ルルドから1日で行ける人気ルート

1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう

ツール・ド・フランス最高の舞台として知られるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズ。距離13.8kmの上り坂に世界中から熱心なファンが集まる。

夏場のスキーリゾートはMTBパラダイスになる

ふもとのブールドワザンにある最後のロンポワン(環状交差点)でラルプデュエズという看板のさす方向に進路を取ると、しばらくして幾多の伝説を生んだあの上り坂が始まる。

アルプスで。スマホを構えていたら「頑張るサイン」を出してくれた

上り始めていきなりの激坂が2km続く。ここからまさに「ヘアピン」と呼ぶにふさわしいコーナーがラルプデュエズ村の入り口まで21ある。数字をカウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいので、たいていのサイクリストは最初のコーナーで足を着く。

アルプスのラセドモンベルニエ。ラセはクツヒモという意味 © A.S.O. Pauline Ballet

ラスト6km地点にはエズ(Eze)村のゴシック様式の美しい教会がそびえる。このあたりは例年黒山の人だかりで、コーナーごとにオランダ人、ドイツ人、デンマーク人などが陣取り、一触即発の雰囲気だ。

エズ村の風景

ベースとなるのはホテルがたくさんあるグルノーブル。市内のホテルから走り始めれば片道は65kmほど。市街地は車の量が多く、あまり楽しくないと思うので、レンタカーを使って16kmほど離れたビジーユあたりまで移動してもいい。ブールドワザンまでの県道は最近サイクリングレーンが作られてとても快適に走れるようになった。

グルノーブルからブールドワザンに向かう県道

ラルプデュエズにせっかく挑戦するのなら、GPSデバイスでもサイクルコンピュータでも、手持ちのストップウォッチでもいいので、ふもとからゴールまで自己計測しておきたい。コースが一瞬地下道になるところにツーリストインフォメーションがあって、それを見せるとディプロマ(記録証)を作ってくれる。

スイスまで走れるロングトレイルもある。パスポート必携

かつて現地を訪れると計測開始地点に「デパール=スタート」という横断幕があった。見あたらなかったらロンポワンを過ぎて徐々に左に曲がっていき、上りが始まったところでスタートスイッチをオン。ゴール地点に「アリベ=ゴール」の看板があるので、そこまでがんばること。

アルプスの峠に向かうサイクリストたち

ちなみに最速タイムは1997年にマルコ・パンターニが記録した37分35秒。というか、パンターニがトップ3の記録をすべて持っている。ちなみにクルマでも半クラッチで1速や2速をいったりきたりしながら45分かかる。自転車選手って信じられないくらいに速いのだ。


(ルート概要)
宿が取りやすいグルノーブルを発着として、ツール・ド・フランスの山岳ステージの中で最も人気があるラルプデュエズを目指す。ラルプデュエズのみの獲得標高は1257m。復路はその分すべて下り坂となる。往路の所要時間は休憩を入れないで5時間。復路は時速30kmで帰れるので2時間ほど。まる1日のサイクリングだ。

距離 64.66km(片道)
獲得標高 2,379m

https://connect.garmin.com/modern/course/288426459

2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない聖地ルルドから1日で行ける人気ルート

1910年の第8回大会で当時の常識をはるかに超える難攻不落の峠が設定された。その筆頭が標高2115mのツールマレー峠(Col du Tourmalet)だ。周囲は針のように屹立した山岳が取り囲み、真夏でも天候が崩れれば降雪する。そんな過酷な条件が勝負どころとして定着し、大観衆が沿道を埋め尽くすようになった。ツールマレーはピレネーの重要な拠点であり、毎年登場することも人気の秘けつ。

ピレネーのツールマレー峠 © A.S.O. Charly Lopez

普段はヒツジの鳴き声やカウベルが風に乗って聞こえてくるだけの美しい原野だ。1913年にフレームを欠損したクリストフが鍛冶屋に飛び込んで溶接したというサントマリー・ド・カンパンは東麓側に16.5km下ったところにある。

フランスの峠にはサイクリストのための情報が1kmごとにある

ベースとするのは、不治の病を治す奇跡の泉がわき出るという聖地ルルド。聖母マリアを見たというベルナデットという少女が、岩の割れ目からわき出る泉を発見。これが治癒的効果を発揮し、以来ルルドは神にすがる思いの人たちが訪れるようになった。世界中から敬虔な信徒がやってくるから、それぞれの国の人たちが訪問者向けのホテルや飲食店を営むようになった。参道の土産物屋には病床の家族に届けるためのボトルが売られる。あるいは余命幾ばくもない人がベッドのまま運び込まれる。そのシーンは人生観が変わるほどの衝撃だ。健康でいられることに感謝しなければと強く思うはずだ。

ピレネーのオービスク峠でスペインのお父さんが娘たちに写真を撮らせていた

2018年の第19ステージはこの聖なるカトリック教会の参道にチームバスが問答無用に置かれた。教会の前庭は関係者のビラージュだ。毎晩のミサでは世界中から集まった人たちがロウソクを掲げて「アベマリア」を唱えながら行進するところだ。ツール・ド・フランスはなんてことをするんだと思ったが、これがその底力だ。

ルルドのノートルダム大聖堂


(ルート概要)
ルルドを発着として車を使わないでツールマレー峠を走る。右回りにしたのはルルドの東に小さな峠があって、これは序盤にクリアしたいから。食料とウインドブレーカーは必携。サントマリー・ド・カンパンとラモンジーで補給食や水が調達できるはず。下り坂はスピードを十分に落として無理しないように。

距離 101.60km(周回)
獲得標高 2,856m

https://connect.garmin.com/modern/course/288427465



🚴‍♂️取材歴30年ジャーナリストはこう観る ツール・ド・フランス2024(全3回)🚴‍♂️
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聖地を目指す巡礼者たち…この旅はツール・ド・フランス発案の原点だ
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Text_Kazuyuki Yamaguchi

Profile

山口和幸/Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ローイング競技などを追い、東京中日スポーツなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、『ツール・ド・フランス』(講談社現代新書)。ともに電書版。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

EVENT
HONOLULU CENTURY RIDE 2024
PHOTO ALBUM 🌈

9月29日(日)、6:22。気温は約23℃、風速7km/h。今年も日の出と同時にスタートが切られたホノルルセンチュリーライド。ハワイの海と山を存分に感じる絶景コースと気候の良さ、それを明るくフレンドリーなボランティアやスタッフがサポートする幸せ感たっぷりの大会。 お昼前後に160mileの折り返し地点手前付近でスコールが降り、せっかくのKamehameha ハイウェイではどんより…の場面もありましたが、復路のMakapuu岬は雨上がりで最高に綺麗だった、という声も。 2024年大会の素晴らしい景色&ライダーたちの晴れやかな勇姿を切り取った臨場感あふれるフォトアルバムをお届けします。 01 Start 02 Diamond Head 03 Kahala 04 Kalanianaole HYW 05 Hawaiikai 06 Makapuu 07 Waimanalo Beach 08 Waimanalo Mountain 09 Kailua AID Station/50mile=80km落り返し地点 10 Kailua 11 Key Project AID/75mile=120km折り返し地点 12 Kualoa 13 Swanzy beach AID/50mile=80kmゴール、100mile=160km折り返し地点 14 そして、復路へ 15 Finish そしてゴール!!! おめでとうございました🌈 2025年にまた会いましょう🤙 *走行コースは4種、当日の変更も可能25mile=40km→Sandy Beach Parkのエイドステーションで折り返し50mile=80km […]

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ツール・ド・フランス2024 #01

※TOP写真/ツール・ド・フランスは片側1車線のD線(日本の県道に相当)を使う ©A.S.O. Pauline Ballet 真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスが日本で注目されたのは、1985年にドキュメンタリー番組の「NHK特集」で報道されたのがきっかけだった。過酷なアルプスやピレネーを越えて、たった1枚しかない黄色いジャージ、マイヨジョーヌを目指して走る。箱根駅伝のようにいい区間もあれば悪い区間もあって、そこにドラマが生まれる。日本のスポーツファンの心を射止めるのは当然で、日本にロードバイクブームを巻き起こすほどの影響力があった。 今回の原稿を担当するボクは1989年から現地取材する記者。ツール・ド・フランスの存在を初めて知ったのは、小学校の図書室にあった『くまのパディントン』(マイケル・ボンド著)シリーズの『パディントン、フランスへ』。パディントンが偶然ツール・ド・フランスに出場してしまい、スプリント賞を獲得するという奇想天外な話だった。 目次 1 ツール・ド・フランスとは2 これぞフランス!3 美と落車のわけ 1 ツール・ド・フランスとは ツール・ド・フランスにはさまざまな賞が設定されていて、深みにハマれば興味は尽きないが、一番大事なことは極めてシンプルだ。毎日マラソンのような一斉スタートのレースを行って、その日までの所要時間を算出する。その合計が最も少ない選手が首位となり、マイヨジョーヌを着用する。23日間のレースが終わってマイヨジョーヌに袖を通した選手が個人総合優勝者となる。 ツール・ド・フランスが世界最大の自転車レースとなったのは、このフラ […]

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BIKE TALK 2022 「ハワイ・HBL編」
ライダーなら一度は走ってみたいハワイ最大の人気ライドイベント「Honolulu Century Ride」

Global Rideが手掛けるオンライン・トークイベント 「BIKE TALK」 ~ハワイ・HBL編~ を開催しました。 ライダーなら誰しも一度は走ってみたいハワイ最大の人気ライドイベント「Honolulu Century Ride」を主催するNPO団体「Hawaii Bicycling League(HBL)」。

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