# SUBURBIA

CYCLE MUSIC⑦
B.J. Thomas「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」

20世紀を代表する名作曲家、バート・バカラックが亡くなって1年が経ちました。ソフィスティケイトされた切なくも美しいメロディー、まさに“バカラック・マジック”と言うべきコード進行やリズム・チェンジを駆使した鮮やかで洒落たアレンジに、大胆かつエレガントな構成といった、軽妙洒脱で創意に富んだ彼のアート・オブ・ソングライティングは、都会的で胸に沁みる歌詞(特にハル・デイヴィッドの詞作)とのマリアージュも相まって、今なお時代をこえて世界中の人々の心をとらえていると思います。 僕がバカラックの名を意識して購入し愛聴したレコードは、サントラ盤や数多くのカヴァーも含め軽く100枚をこえますが、最初に彼の音楽に惹かれたのは、中学生の頃たまたま聴いていたFM番組で流れてきた3曲がきっかけでした。忘れもしない、B.J.トーマス「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」(雨にぬれても)、ディオンヌ・ワーウィック「I’ll Never Fall In Love Again」(恋よ、さようなら)、アレサ・フランクリン「I Say A Little Prayer」(小さな願い)。今月のこのコラムでは、その中から自転車との関わりという観点で、「雨にぬれても」を紹介しましょう。 そう、B.J.トーマス「雨にぬれても」と言えば、何と言ってもジョージ・ロイ・ヒル監督が1969年に撮ったアメリカン・ニュー・シネマの代表作『明日に向って撃て!』で、ポール・ニューマンとキャサリン・ロスが自転車に乗ってデートするシーンで流れるのが印象的ですね。僕の友人にも、大好きな映画の […]

Read More

CYCLE MUSIC⑥
佐野元春 「アンジェリーナ」

あけましておめでとうございます。2024年最初の「CYCLE MUSIC」、新しい年の幕開けに相応しい、音楽好きとしての自分の人生の原点のひとつにもなった、日本人アーティストの楽曲を紹介しましょう。1980年代の、そして僕の青春時代の幕開けを告げた曲でもある、佐野元春の「アンジェリーナ」です。 彼のデビュー・シングルとして1980年春にリリースされたこの曲は、連載開始当初から、すぐに自転車ジャケットとして思い浮かべていましたが、最高のタイミングで筆の雫とできることを嬉しく思います。学生時代には、聖地巡礼という感じで、このジャケット写真が撮られた(ファースト・アルバム『BACK TO THE STREET』も)横浜の「赤い靴」という店を訪ねたりしたのも、懐かしい思い出です。 佐野元春はポール・ウェラーらと並んで、自分がミドルティーンの頃に最も影響を受けたアーティストのひとりで、僕は毎週月曜夜に、NHK-FMで放送されていた彼がディスクジョッキーを務める番組「Sound Street」を聴くことで、様々な素晴らしい音楽と出会い、レコードに夢中になっていったのでした。高校2年生のときの文化祭のテーマソングが、彼のキャリア初期を代表する名曲「SOMEDAY」で、仲間と夜の講堂で大合唱したのも印象深く、40年の時をこえて忘れられない青春のワン・シーンです。 この「アンジェリーナ」は、佐野元春の作品でもっと好きな曲はいくつもありますが、やはりデビュー・シングルとしてはこれがベストと思わずにいられない、いま聴いても胸をつかまれ、心震わされずにはいられない会心の一曲。“Born To Run” […]

Read More

CYCLE MUSIC⑤
Alulu Paranhos 「Bicicletinha」

僕が青春時代に夢中になったネオ・アコースティックと言われる音楽(1980年代のイギリスでポスト・パンク〜ニュー・ウェイヴを礎に新たに生まれた、ジャズやソウルやボサノヴァやラテンの影響を受けた繊細な感性のアコースティック・ポップス)には、自転車をモティーフにしたレコード・ジャケットが多いという印象がありますが、実は自転車にまつわる曲が多いような気がしているのがブラジル音楽。今月はそんな中から、ネオ・アコースティック好きにも薦めたいようなAlulu Paranhosの「Bicicletinha」を紹介しましょう。 今年23歳のAlulu Paranhosは、Ana Frango Elétricoらの登場以降、大きな話題を呼んでいる“リオ新世代”のブライテスト・ホープ的存在の女性シンガー・ソングライター。Caetano VelosoやCeuといったブラジル音楽の偉人たちにも賞賛され注目を集めた、2021年に発表されたファースト・ミニ・アルバム『Alulu』に収録されたこの曲は、彼女の優しい語り口に好感を抱かずにはいられない、アコースティック・フレイヴァーの名作です。「Bicicletinha」は小さな自転車という意味ですが、語尾が愛称風になっているところもブラジルらしいですね。 そして何と言っても、とびきりチャーミングな彼女が、そんな“小さな自転車ちゃん”に乗ってリオの街から郊外をめぐる、ちょっとヤンチャな姿が映しだされたMVも、とても魅力的です。Alulu Paranhosは新作EP『Compacto de Verão Deluxe』もリリースされたばかりで、その幕開きを飾る「Qu […]

Read More

CYCLE MUSIC④
Georgie Fame「Happiness」

この連載コラムが始まってから、音楽を聴くときは何となく、自転車のジャケットやMV、自転車にまつわるタイトルや歌詞を意識してしまうのですが、この曲を思いついたときは嬉しかったですね。Georgie Fameの大好きなグルーヴィー・チューン「Happiness」。この曲が収録された1971年の知る人ぞ知る名盤『Going Home』の裏ジャケットには、ボア付きのレザー・ブルゾンに身を包んで自転車に乗って走るGeorgie Fameの姿が映しだされているんですね。 それにしても、この曲の素晴らしさは、どう言葉にしたらいいのでしょう。聴いていると心が元気になる、若々しく晴れやかな気分になれる最高すぎる一曲。ポジティヴな歌詞、高揚せずにはいられないメロディー展開と躍動するアレンジメント、そして軽快なリズムの疾走感。裏ジャケットに写るGeorgie Fameそのままのような音楽。 僕は1995年に、日本のレコード会社ソニーが企画したリクエスト・リイシュー・シリーズ“こんなのどうだ?”のサンプラーCDにこの曲を推薦して、次のようなコメントを寄せ、晴れてアルバム復刻が実現したときにはライナーノーツも執筆しました。 ジョージィ・フェイムの『Going Home』は、ちょうどペイル・ファウンテンズやスタイル・カウンシルに夢中だった高校から大学にかけての思い出の一枚。久しぶりに針を落としてみても、オープニングは今こそ聴かれるべきホワイト・ヤング・ソウルだし、タイトル曲はお洒落なA&M調、ケニー・ランキンのポップなカヴァーも、メランコリックなボサ風味の「Stormy」も全く色褪せていない。今回 […]

Read More

CYCLE MUSIC③
Corinne Bailey Rae「Put Your Records On」

先々月にこの連載コラムの初回でご紹介したThe Style Councilの「My Ever Changing Moods」と並んで、自転車に乗っている映像が印象的なMVと言えば真っ先に思い浮かべるのが、1979年イギリス・リーズ生まれのシンガー・ソングライターCorinne Bailey Raeの「Put Your Records On」。初めてMVを観たときの瑞々しいときめきは忘れられません。若き日にフランソワ・トリュフォー初期の短編を観たときに感じたような(彼の映画には自転車をモティーフにした名シーンが多いですね)胸疼くような甘酸っぱさ。 木もれ陽の美しさと逆光の夕陽の輝き。木々の中を友人たちと自転車で走る優しくナイーヴな表情から、サビで解き放たれる彼女の笑顔。そして赤いリボンを大空に解き放つクライマックス。リラックスしてこの曲を聴いていると、幸せってこういうことなのかもなと、いつも思います。 大好きなこの曲の歌詞の意味合いから察するに、最初のフレーズはBob Marleyの「Three Little Birds」のメッセージへの共鳴も示しているのでしょうか。“Put your records on, tell me your favourite song”と繰り返されるサビの一節は、「好きなレコードをかけて」という意味だと解釈して、DJをするときなどに自分のテーマ・ソングのように頭の中でくちずさんでいます。女性(Corinne Bailey Rae自身)に向けて歌われているけれど、「リラックスして、好きなように、心のままに、夢をもって生きればいい」と、自分を励ましてくれ […]

Read More

CYCLE MUSIC②
Cordelia 「Play Pretend」

先月から始まりましたこの連載コラム、初回は自己紹介も兼ねて、「自転車で世界はもっと楽しくなった」僕の青春の一曲、The Style Councilの「My Ever Changing Moods」について綴りましたが、第2回はこの夏デビュー曲がリリースされたばかりのブライテスト・ホープ、胸を疼かせる美しい歌声に惹かれるイギリスの若き女性シンガー・ソングライターCordeliaを紹介しましょう。 その「Play Pretend」という曲は、ボサノヴァ風味の涼しげなギターの爪弾きに好感を抱かずにいられない、ほんのり内省的なメロウネスも香る軽快なグルーヴィー・チューンで、聴いてすぐに気に入りましたが、続いてMVも観た僕は、これはナイス・タイミングと思わずにいられませんでした。 自転車をこぐ自身の動画のバックに、移りゆく世界各地の様々な光景を組み合わせたつくりが印象的で、青春らしい心象風景を歌い奏でる彼女のキャラクターを、とても魅力的に映しだしていたのです。 2006年にCorinne Bailey Raeが「Put Your Records On」のMVで自転車に乗って登場して、新しい風と甘酸っぱいときめきを感じさせてくれたように、2023年の夏をフレッシュに輝かせスウィートに彩ってくれたサマー・インディー・ポップでした。 Text_橋本徹(SUBURBIA) https://www.youtube.com/watch?v=AYzn7dqh6Jw&list=WL&index=56 Profile 橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)編集者/選曲家/ […]

Read More

CYCLE MUSIC① The Style Council 「My Ever Changing Moods」

今月から連載コラムを始めることになりました。どうぞよろしくお願いします。 「自転車で音楽がもっと楽しくなるような」エッセイを、毎月お届けできればと思っていますが、初回は自己紹介も兼ねて。 1984年2月のある日、まもなく高校2年生を終えようとしていた頃、何気なく流していた当時全盛のMTVを観るともなく聴いていて、イントロのギターのリフからとてもキャッチーな、軽快でグルーヴィーなアコースティック・ナンバーに耳が止まりました。 イギリスらしい田園風景の中を、ちょっとコミカルで微笑ましい仕草を混じえながら、ロードレイサーで走るMV。その曲を一発で気に入ってしまった僕が、すぐに12インチ・シングルを買いに、渋谷のレコードショップまで自転車を走らせたのは、言うまでもありません。それ以来、自転車通学だった僕は、登校時にくちずさむのもいつも、この曲になりました。 そんな僕の青春の1ページを彩ることになった曲の名は、The Style Councilの「My Ever Changing Moods」。The Style Councilは、1970年代後半から80年代前半にかけてモッズ/パンク・シーンで人気を極めたバンドThe Jamを絶頂期に解散したPaul Wellerが、キーボード奏者のMick Talbotと結成して、ジャズやソウルやボサノヴァの影響も受けた洗練されたポップ・ミュージック(Sophisti-Pop)を奏でたユニットですが、これはその初期、5作目のシングル。翌月に出て、僕はもちろん発売日に買いました彼らのファースト・アルバム『Cafe Bleu』には、しっとりしたピアノ伴奏 […]

Read More