島の中を船で輪行?
沖縄・国道58号サイクリング
多くの日本人にとって九州は特別な存在だ。数々の神話が残る悠久のロマンが息づき、手つかずの大自然と都市の距離は近い。その環境が九州独特の文化を育んできたのだろう。なかでも熊本県は阿蘇山(高岳、根子岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の五岳と広い意味では外輪山や火口原をも含めた呼び名)、熊本城、温泉、湧水など、九州の自然と文化を堪能するにはうってつけの場所。今回は壮大な景色が広がる阿蘇中岳火口を巡り、この地の文化を育んできた阿蘇神社を訪れる熊本ライドをご紹介しよう。
1. 神の土地、阿蘇
2. 空港からすぐライド!牧草地帯を抜け道の駅へ
3. 阿蘇五岳を眺めながらエネルギー補給を!
4.折り返し地点はダイナミックな火山
今回おすすめするコースは阿蘇くまもと空港(熊本空港)から活火山である阿蘇中岳火口を巡り、阿蘇神社を訪れるコース。阿蘇のカルデラを眺めながら走ったり、ダウンヒルも存分に楽しめる。阿蘇中岳火口は迫力ある地鳴り音が響き、激しく噴煙を噴き上げる様子は国内外の観光客に人気だ。7万ヘクタール以上もある「阿蘇くじゅう国立公園」を有する阿蘇エリアでは、間違いなく、日本有数の大自然を堪能できるだろう。
今回のライドの目的は「阿蘇神社」と周辺の山陵地帯。阿蘇神社はこの地を開拓した健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめ、家族神12神を祀り、2000年以上の歴史を有する古社。古くから、日本では火口が国家祈祷の対象とされていたそう。阿蘇神社は阿蘇山火口をご神体とする火山信仰と融合し、人々の崇敬をあつめてきた。
この中岳火口は、古くから神霊池・霊池・神池など、神格化した呼称で呼ばれてきた。火口内に水が溜まっていたため池と呼ばれていたのだろう。この池には神が宿ると信じられ、火口への登山は信仰の対象となっていた。まさに阿蘇は神の土地だ。
熊本空港に到着したら、まずは自転車を組み立てよう。大きな荷物は旅客ターミナルビル1F にあるコインロッカーへ。取り扱い時間は6時30分~21時30分なので気をつけて欲しい。時間を過ぎると派手なサイクルウェアで一夜を過ごすことになる。熊本県内や周辺地域に滞在する人は、宿泊先ホテルに荷物を届けるサービスを利用しよう。手荷物宅配カウンター(ヤマト運輸)で受付が可能だ。
熊本空港を出たら目指すは「道の駅 阿蘇」。おすすめは外輪山北東部の尾根を眺めながら阿蘇市波野に至るミルクロード経由だ。この道は牧場から牛乳を運ぶために名付けられたという。阿蘇にはいくつもの絶景ルートがあるが、このミルクロードがもっとも広大な景観を堪能できるだろう。ただ、問題が1つある。絶景が続き、つい足を止めてしまうこと。タイムマネジメントには十分注意をしよう。
マップ:熊本空港から阿蘇道の駅
絶景に見とれていなければ、熊本空港から2時間ほどで道の駅に到着するだろう。こちらは正面に雄大な阿蘇五岳を望む道の駅。周辺の農場で採れた野菜や果物をはじめ、スイーツ、お弁当など阿蘇の特産品が豊富だ。ぜひ、道の駅でランチを取ろう。
土日や祝日は大勢の観光客で賑わう。目当ての食堂に入れない時はお弁当がおすすめだ。なかでも阿蘇の名産牛である「あか牛」を使用したお弁当が人気。また、新鮮な牛乳を使ったスイーツも豊富なので、阿蘇五岳を目で楽しみながら、後半戦に備えたカロリーと糖質をたっぷりと摂取しよう。
休憩とカロリーを十分取ったら、道の駅から約15kmの阿蘇中岳 第一火口へ向かって出発だ。途中、草千里ヶ浜(草千里)という広大な草原が現れる。こちらには、世界最大のカルデラを持つ阿蘇山の生い立ちから現在の生態系など、火山のメカニズムが体系的に学べる阿蘇火山博物館がある。興味のある人は覗いてみるといいだろう。
草千里ヶ浜からまもなくして今回の折り返し地点である阿蘇中岳 第一火口に到着する。原始の地球を思い起こす風景が広がっており、その風景に息を呑むことだろう。直径は600m、深さは130m。周囲4キロの巨大な噴火口からは、激しく白い噴煙を上げる様子を間近で見ることができる。なお、火口からは火山ガスが発生しており、気管支や心臓疾患がある人は、火口見学ができないのでご注意を。
中岳 第一火口から1.6kmほど行った場所に阿蘇山上神社がある。麓の阿蘇神社「下宮」に対し、この山上神社は「上宮」と呼ばれてきた。6月上旬に火山活動の平穏を願って御幣(ごへい、おんべい)を火口に投げ入れる火口鎮祭が行われている。時間に余裕のある人は足を伸ばしてみよう。
マップ:道の駅から中岳
さあ、来た道を道の駅に向かって引き返そう。道の駅から阿蘇中岳はずっと上り道だったので帰りは下りが続く。しかし、美しい風景に見とれていてはいけない。オートバイでツーリングをしている人も多いので要注意だ。特にカーブでは速度を落とし安全に走行して欲しい。道の駅に到着したら国道57号を行き、昭和通り経由で阿蘇神社に向かおう。
阿蘇神社は全国に約500社ある「阿蘇神社」の総本社で約2300年の歴史を有す古刹。熊本地震(2016年)により楼門、拝殿が倒壊するなど甚大な被害を受けたが、2023年12月に楼門の復旧工事がようやく完了し、残すところ楼門接続回廊(透塀)の再建のみとなっている。それにしても、この神社と阿蘇山火口が信仰で繋がっているとは、スケールの大きな場所だ。また、阿蘇神社周辺にある一の宮門前商店街には「水基(みずき)」と呼ばれる湧き水があり、地元では神の泉として珍重されている。
数十年かけて磨かれた伏流水を飲み、阿蘇のパワーをもらって、のんびりと熊本空港に戻ろう。だけど、コインロッカーの時間には気をつけて!
マップ:道の駅から阿蘇神社
🚴♂️ATTENTION
阿蘇神社の境内へ自転車の乗り入れは禁止されている。マナーを守ったライドを。
また、阿蘇中岳の活動状況によっては規制がかかり、火口見学が出来ない場合がある。最新情報は以下からご確認して欲しい。
🚴♂️ルート
熊本空港から阿蘇道の駅 31.5km
道の駅から中岳17km
阿蘇神社往復 4km
各往復で約105km
Text_井上英樹/Hideki Inoue
兵庫県尼崎市出身。ライター、編集者。趣味は温浴とスキーと釣り。縁はないけど勝手に滋賀県研究を行っている。1カ所に留まる釣りではなく、積極的に足を使って移動する釣りのスタイル「ランガン」(RUN&GUN)が好み。このスタイルに自転車を用いようと、自転車を運搬する為に車を購入する予定(本末転倒)。
投稿日:2024.01.31