自宅でファンライド!
取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #01

※TOP写真/ツール・ド・フランスは片側1車線のD線(日本の県道に相当)を使う ©A.S.O. Pauline Ballet

真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスが日本で注目されたのは、1985年にドキュメンタリー番組の「NHK特集」で報道されたのがきっかけだった。過酷なアルプスやピレネーを越えて、たった1枚しかない黄色いジャージ、マイヨジョーヌを目指して走る。箱根駅伝のようにいい区間もあれば悪い区間もあって、そこにドラマが生まれる。日本のスポーツファンの心を射止めるのは当然で、日本にロードバイクブームを巻き起こすほどの影響力があった。

2024年のコースマップ

今回の原稿を担当するボクは1989年から現地取材する記者。ツール・ド・フランスの存在を初めて知ったのは、小学校の図書室にあった『くまのパディントン』(マイケル・ボンド著)シリーズの『パディントン、フランスへ』。パディントンが偶然ツール・ド・フランスに出場してしまい、スプリント賞を獲得するという奇想天外な話だった。

目次

1 ツール・ド・フランスとは
2 これぞフランス
3 美と落車のわけ

1 ツール・ド・フランスとは

ツール・ド・フランスにはさまざまな賞が設定されていて、深みにハマれば興味は尽きないが、一番大事なことは極めてシンプルだ。毎日マラソンのような一斉スタートのレースを行って、その日までの所要時間を算出する。その合計が最も少ない選手が首位となり、マイヨジョーヌを着用する。23日間のレースが終わってマイヨジョーヌに袖を通した選手が個人総合優勝者となる。

2024年、早速のマイヨジョーヌとなったポガチャル ©A.S.O. Billy Ceusters

ツール・ド・フランスが世界最大の自転車レースとなったのは、このフランスが舞台となっているからに他ならない。この国には随所に美しい大自然と西洋史の教科書に掲載されるような建造物がある。極めつけとしてバカンス時期に開催されること。フランス人は毎年の夏祭りとしてレースがやってくるのを心待ちにして、そこに出場する選手に憧れを込めて声援を送る。

おそろいのジャージでチーム走行会を兼ねてツール・ド・フランス観戦
ツール・ド・フランスを歓迎して飾りつける

2024年の総距離は約3500km。出場するのは8人編成の22チーム、合計176人のプロ選手。賞金総額は230万ユーロ(約4億円)。世界190カ国に国際映像が配信される。日本ではJ SPORTSが全日程を生中継し、契約者ならオンデマンドで時間の空いたときに視聴することもできる。そして期間中に複数日の無料放送があるのでチェックしておきたい。

2024年はニースにゴールする ©A.S.O. Pauline Ballet
出場チームとは意外と同宿になる可能性が高い

2 これぞフランス

さて、ツール・ド・フランスのテレビ中継を見るときに、DOスポーツとしてサイクングを楽しんでいる人が知っておくとためになるポイントを具体的に挙げておきたい。

ツール・ド・フランスの映像はヘリコプターを駆使した空撮が多い。フランスはヘリコプターの運行規定が日本と比べたら緩く、どこにでも離発着する。傾斜のある草原だったりテニスコートだったり、かなり自由に飛ぶ。パイロットの腕もよく、選手の動きを追ったダイナミックな撮影が可能となる。

ひまわり畑は道路の南側から北にレンズを向けないと黄色にならない ©A.S.O. Pauline Ballet

コース上に観光スポットがあるときは必ずテロップとともに紹介される。フランスのさまざまなヘリテージを広報する団体が大会に協賛しているからだ。随所に世界遺産が点在するフランスだけに、その自転車レースの映像はまるで旅行をしているかのような気分にひたれる。実際にそんな映像に惹かれて、ツール・ド・フランスや選手のファンになったという日本人も多いという。

2024年はイタリアで開幕した © A.S.O. Charly Lopez

3 美と落車のわけ

上空からの映像は選手たちの動きが手に取るようにわかる。ロンポワンと呼ばれる環状交差点を左右に分かれてうねるように突き進んでいく様は思わず見とれてしまう。平坦ステージでゴールスプリント勝負が想定されるところは、このロンポワンが削り取られ、新しいアスファルトの舗装になっていることにも気づくかもしれない。ツール・ド・フランスはそんなことくらい平気でやってしまうのだ。ところが海外ではさすがにそこまでできない。ツール・ド・フランスが外国に足をのばすと落車が多いというのはそんな理由がある。

サイクリングコースは随所に設定できる

3回シリーズの現地発信コラム。第2回は欧州のサイクリストが実際にどんな感じでツール・ド・フランスを楽しんでいるかを紹介。第3回は日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は初級者・中級者向け、ピレネー編は上級者向けだ。


🚴‍♂️取材歴30年ジャーナリストはこう観る ツール・ド・フランス2024(全3回)🚴‍♂️
#01
#02
#03

🚴‍♂️ツール・ド・フランスに関する山口さんの他記事はこちら(外部リンク)🚴‍♂️
・ツール・ド・フランスはパリ郊外にある「目覚まし時計」から始まった
・ツール・ド・フランスの裏方たち【みんな大好き広告キャラバン隊
・美しき南仏プロバンスには悪魔が棲むという山がある

Text_Kazuyuki Yamaguchi

Profile

山口和幸/Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ローイング競技などを追い、東京中日スポーツなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、『ツール・ド・フランス』(講談社現代新書)。ともに電書版。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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自宅でファンライド! 取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #03
〜伝説の上り坂、あの峠をライドする〜

※*TOP写真/ピレネーのオービスク峠 真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。レースの結果はタデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)がダントツの個人総合優勝を勝ち取った。 さて、3回シリーズのコラム最終回は、日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は中級者向けでレンタカーを使えば初級者も実走可。ピレネー編は上級者向けの周回コースだ。 目次 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない。聖地ルルドから1日で行ける人気ルート 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう ツール・ド・フランス最高の舞台として知られるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズ。距離13.8kmの上り坂に世界中から熱心なファンが集まる。 ふもとのブールドワザンにある最後のロンポワン(環状交差点)でラルプデュエズという看板のさす方向に進路を取ると、しばらくして幾多の伝説を生んだあの上り坂が始まる。 上り始めていきなりの激坂が2km続く。ここからまさに「ヘアピン」と呼ぶにふさわしいコーナーがラルプデュエズ村の入り口まで21ある。数字をカウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいので、たいていのサイクリストは最初のコーナーで足を着く。 ラスト6km地点にはエズ(Eze)村のゴシック様式の美しい教会 […]

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フランスを旅するあなたに
輪行&レンタルバイクよ、こんにちは

フランスでサイクリングする場合は現地でどんな手配が必要か、どんな動きになるのかを考えてみよう。マイバイクを持っていくか、現地でレンタルバイクを借りるかという選択肢がある。 目次 1. 愛車を持っていく際の国際線預託テク2. フランスで本格自転車をレンタルする 1. 愛車を持っていく際の国際線預託テク まずは飛行機に自転車を積んでフランスに乗り込むケース。「バイクポーター」という航空機用輪行箱を取り扱うアクションスポーツに最新事情を教えてもらった。 Q:国際線に預けられるサイズは? 無料? 追加料金? A:国際線は利用航空会社によって異なる。例えばエールフランスやフィンエアはサイズに関係なく問答無用で有料。日本航空は三辺合計203cm以内なら無料(超えた場合は2万円の追加料金)。英国航空は三辺合計200cm以内なら無料。規定のサイズに収まるバイクポーターPRO199を使えば無料になる。 ANAは三辺合計260cm以内なら無料で、バイクポーターは全モデルが260cm以下のサイズなので無料となる。ルフトハンザ航空はヨーロッパ路線で50〜150ユーロの追加料金。エミレーツ空港は重量30kg以内であれば受託手荷物に含まれる。 全ての航空会社がサイズに関係なく、事前申請が必要となる。バイクポーターはすべてサイズ的には問題はないが、無料と有料の航空会社が混在。どの航空会社で行くかは航空券と自転車預託にかかるコストを合計して考える必要がある。 Q:梱包時の注意点は A:国際線のエコノミークラスは重量制限があり、一般的に23kgを超過した場合は超過料金が取られる。また電動変速機などに取り付けられ […]

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ツール・ド・フランス2024 #02
〜欧州のサイクリストはこう楽しむ〜

※TOP写真/広告キャラバン隊からもらった水玉シャツで応援 ©A.S.O. Charly Lopez 真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。3回シリーズのコラム第2回は欧州のサイクリストが実際にどんな感じでツール・ド・フランスを楽しんでいるかをご紹介します。 目次 1 観戦がてらの本番ライド!?2 安全にライドするためのポイント、県道Dと国道N3 フランス名物のロンポワン 1 観戦がてらの本番ライド!? 地元のサイクリストがツール・ド・フランス観戦がてらにサイクリングも楽しんでしまおうというとき、最も有効な手段としては車に自転車を積み込んでコースに接近する。脚力に応じてある程度の距離をとって駐車し、そこから走ってコースまで行くというスタイルだ。これなら道路封鎖にも遭わないし、交通渋滞も回避できる。しかも四輪車両は通行止めだが、自転車はそのまま通行できるケースがほとんど。選手の到着まで2時間以上あるときは車両規制されたコースも走ることができる。選手の1時間半前に広告キャラバン隊が走ってきて臨戦体制となるので、サイクリストも停止させられて沿道で見ることになる。 山岳ステージでは観客の数が多くなるだけに規制がシビアになる。カテゴリーの厳しい本格的な峠は前日から交通規制され、その日の朝には憲兵隊が全ての分岐点に配置される。命令を遵守してサイクリストを一網打尽に停止させる憲兵隊員もいれば、スマホに夢中でスルーする隊員も。サイクリストもしたたかで、停止させられて仕方なく徒歩でコースを歩いて行くのだが、止めた隊員が追いかけて来られないところまで進むと再び乗 […]

#Column