恋するニューヨーク vol.6
それは人生最高のライドだった。
※*TOP写真/ピレネーのオービスク峠
真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。
レースの結果はタデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)がダントツの個人総合優勝を勝ち取った。
さて、3回シリーズのコラム最終回は、日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は中級者向けでレンタカーを使えば初級者も実走可。ピレネー編は上級者向けの周回コースだ。
目次
1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう
2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない。聖地ルルドから1日で行ける人気ルート
ツール・ド・フランス最高の舞台として知られるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズ。距離13.8kmの上り坂に世界中から熱心なファンが集まる。
ふもとのブールドワザンにある最後のロンポワン(環状交差点)でラルプデュエズという看板のさす方向に進路を取ると、しばらくして幾多の伝説を生んだあの上り坂が始まる。
上り始めていきなりの激坂が2km続く。ここからまさに「ヘアピン」と呼ぶにふさわしいコーナーがラルプデュエズ村の入り口まで21ある。数字をカウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいので、たいていのサイクリストは最初のコーナーで足を着く。
ラスト6km地点にはエズ(Eze)村のゴシック様式の美しい教会がそびえる。このあたりは例年黒山の人だかりで、コーナーごとにオランダ人、ドイツ人、デンマーク人などが陣取り、一触即発の雰囲気だ。
ベースとなるのはホテルがたくさんあるグルノーブル。市内のホテルから走り始めれば片道は65kmほど。市街地は車の量が多く、あまり楽しくないと思うので、レンタカーを使って16kmほど離れたビジーユあたりまで移動してもいい。ブールドワザンまでの県道は最近サイクリングレーンが作られてとても快適に走れるようになった。
ラルプデュエズにせっかく挑戦するのなら、GPSデバイスでもサイクルコンピュータでも、手持ちのストップウォッチでもいいので、ふもとからゴールまで自己計測しておきたい。コースが一瞬地下道になるところにツーリストインフォメーションがあって、それを見せるとディプロマ(記録証)を作ってくれる。
かつて現地を訪れると計測開始地点に「デパール=スタート」という横断幕があった。見あたらなかったらロンポワンを過ぎて徐々に左に曲がっていき、上りが始まったところでスタートスイッチをオン。ゴール地点に「アリベ=ゴール」の看板があるので、そこまでがんばること。
ちなみに最速タイムは1997年にマルコ・パンターニが記録した37分35秒。というか、パンターニがトップ3の記録をすべて持っている。ちなみにクルマでも半クラッチで1速や2速をいったりきたりしながら45分かかる。自転車選手って信じられないくらいに速いのだ。
(ルート概要)
宿が取りやすいグルノーブルを発着として、ツール・ド・フランスの山岳ステージの中で最も人気があるラルプデュエズを目指す。ラルプデュエズのみの獲得標高は1257m。復路はその分すべて下り坂となる。往路の所要時間は休憩を入れないで5時間。復路は時速30kmで帰れるので2時間ほど。まる1日のサイクリングだ。
距離 64.66km(片道)
獲得標高 2,379m
https://connect.garmin.com/modern/course/288426459
1910年の第8回大会で当時の常識をはるかに超える難攻不落の峠が設定された。その筆頭が標高2115mのツールマレー峠(Col du Tourmalet)だ。周囲は針のように屹立した山岳が取り囲み、真夏でも天候が崩れれば降雪する。そんな過酷な条件が勝負どころとして定着し、大観衆が沿道を埋め尽くすようになった。ツールマレーはピレネーの重要な拠点であり、毎年登場することも人気の秘けつ。
普段はヒツジの鳴き声やカウベルが風に乗って聞こえてくるだけの美しい原野だ。1913年にフレームを欠損したクリストフが鍛冶屋に飛び込んで溶接したというサントマリー・ド・カンパンは東麓側に16.5km下ったところにある。
ベースとするのは、不治の病を治す奇跡の泉がわき出るという聖地ルルド。聖母マリアを見たというベルナデットという少女が、岩の割れ目からわき出る泉を発見。これが治癒的効果を発揮し、以来ルルドは神にすがる思いの人たちが訪れるようになった。世界中から敬虔な信徒がやってくるから、それぞれの国の人たちが訪問者向けのホテルや飲食店を営むようになった。参道の土産物屋には病床の家族に届けるためのボトルが売られる。あるいは余命幾ばくもない人がベッドのまま運び込まれる。そのシーンは人生観が変わるほどの衝撃だ。健康でいられることに感謝しなければと強く思うはずだ。
2018年の第19ステージはこの聖なるカトリック教会の参道にチームバスが問答無用に置かれた。教会の前庭は関係者のビラージュだ。毎晩のミサでは世界中から集まった人たちがロウソクを掲げて「アベマリア」を唱えながら行進するところだ。ツール・ド・フランスはなんてことをするんだと思ったが、これがその底力だ。
(ルート概要)
ルルドを発着として車を使わないでツールマレー峠を走る。右回りにしたのはルルドの東に小さな峠があって、これは序盤にクリアしたいから。食料とウインドブレーカーは必携。サントマリー・ド・カンパンとラモンジーで補給食や水が調達できるはず。下り坂はスピードを十分に落として無理しないように。
距離 101.60km(周回)
獲得標高 2,856m
https://connect.garmin.com/modern/course/288427465
🚴♂️取材歴30年ジャーナリストはこう観る ツール・ド・フランス2024(全3回)🚴♂️
#01
#02
#03
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Text_Kazuyuki Yamaguchi
Profile
山口和幸/Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ローイング競技などを追い、東京中日スポーツなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、『ツール・ド・フランス』(講談社現代新書)。ともに電書版。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
投稿日:2024.07.26