天空を走る。神秘的な阿蘇ライド
サイクリングを楽しめる神社エリア #01

多くの日本人にとって九州は特別な存在だ。数々の神話が残る悠久のロマンが息づき、手つかずの大自然と都市の距離は近い。その環境が九州独特の文化を育んできたのだろう。なかでも熊本県は阿蘇山(高岳、根子岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の五岳と広い意味では外輪山や火口原をも含めた呼び名)、熊本城、温泉、湧水など、九州の自然と文化を堪能するにはうってつけの場所。今回は壮大な景色が広がる阿蘇中岳火口を巡り、この地の文化を育んできた阿蘇神社を訪れる熊本ライドをご紹介しよう。

目次

 1. 神の土地、阿蘇
 2. 空港からすぐライド!牧草地帯を抜け道の駅へ
 3. 阿蘇五岳を眺めながらエネルギー補給を!
 4.折り返し地点はダイナミックな火山

阿蘇山五岳の一つ、杵島岳から望む草千里ヶ浜
阿蘇山の麓にはいくつもの湧水池がある。こちらは白川湧水

1. 神の土地、阿蘇

今回おすすめするコースは阿蘇くまもと空港(熊本空港)から活火山である阿蘇中岳火口を巡り、阿蘇神社を訪れるコース。阿蘇のカルデラを眺めながら走ったり、ダウンヒルも存分に楽しめる。阿蘇中岳火口は迫力ある地鳴り音が響き、激しく噴煙を噴き上げる様子は国内外の観光客に人気だ。7万ヘクタール以上もある「阿蘇くじゅう国立公園」を有する阿蘇エリアでは、間違いなく、日本有数の大自然を堪能できるだろう。

中岳火口遠景

今回のライドの目的は「阿蘇神社」と周辺の山陵地帯。阿蘇神社はこの地を開拓した健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめ、家族神12神を祀り、2000年以上の歴史を有する古社。古くから、日本では火口が国家祈祷の対象とされていたそう。阿蘇神社は阿蘇山火口をご神体とする火山信仰と融合し、人々の崇敬をあつめてきた。

この中岳火口は、古くから神霊池・霊池・神池など、神格化した呼称で呼ばれてきた。火口内に水が溜まっていたため池と呼ばれていたのだろう。この池には神が宿ると信じられ、火口への登山は信仰の対象となっていた。まさに阿蘇は神の土地だ。

阿蘇千里ヶ浜の砂歩道

2. 空港からすぐライド!牧草地帯を抜け道の駅へ

熊本空港に到着したら、まずは自転車を組み立てよう。大きな荷物は旅客ターミナルビル1F にあるコインロッカーへ。取り扱い時間は6時30分~21時30分なので気をつけて欲しい。時間を過ぎると派手なサイクルウェアで一夜を過ごすことになる。熊本県内や周辺地域に滞在する人は、宿泊先ホテルに荷物を届けるサービスを利用しよう。手荷物宅配カウンター(ヤマト運輸)で受付が可能だ。

熊本空港を出たら目指すは「道の駅 阿蘇」。おすすめは外輪山北東部の尾根を眺めながら阿蘇市波野に至るミルクロード経由だ。この道は牧場から牛乳を運ぶために名付けられたという。阿蘇にはいくつもの絶景ルートがあるが、このミルクロードがもっとも広大な景観を堪能できるだろう。ただ、問題が1つある。絶景が続き、つい足を止めてしまうこと。タイムマネジメントには十分注意をしよう。

朝焼けのミルクロード
ミルクロード遠景

マップ:熊本空港から阿蘇道の駅

3. 阿蘇五岳を眺めながらエネルギー補給を!

絶景に見とれていなければ、熊本空港から2時間ほどで道の駅に到着するだろう。こちらは正面に雄大な阿蘇五岳を望む道の駅。周辺の農場で採れた野菜や果物をはじめ、スイーツ、お弁当など阿蘇の特産品が豊富だ。ぜひ、道の駅でランチを取ろう。

熊本県の人気マスコット「くまモン」 photo / 道の駅阿蘇
冬の道の駅と阿蘇山 photo / 道の駅阿蘇
道の駅上方の大観峰から望む阿蘇五岳

土日や祝日は大勢の観光客で賑わう。目当ての食堂に入れない時はお弁当がおすすめだ。なかでも阿蘇の名産牛である「あか牛」を使用したお弁当が人気。また、新鮮な牛乳を使ったスイーツも豊富なので、阿蘇五岳を目で楽しみながら、後半戦に備えたカロリーと糖質をたっぷりと摂取しよう。

あか牛のお弁当 photo / 道の駅阿蘇
地元産のイチゴ、みかん(不知火)を使ったフルーツサンド photo / 道の駅阿蘇

4.折り返し地点はダイナミックな火山

休憩とカロリーを十分取ったら、道の駅から約15kmの阿蘇中岳 第一火口へ向かって出発だ。途中、草千里ヶ浜(草千里)という広大な草原が現れる。こちらには、世界最大のカルデラを持つ阿蘇山の生い立ちから現在の生態系など、火山のメカニズムが体系的に学べる阿蘇火山博物館がある。興味のある人は覗いてみるといいだろう。

雄大な草千里ヶ浜

草千里ヶ浜からまもなくして今回の折り返し地点である阿蘇中岳 第一火口に到着する。原始の地球を思い起こす風景が広がっており、その風景に息を呑むことだろう。直径は600m、深さは130m。周囲4キロの巨大な噴火口からは、激しく白い噴煙を上げる様子を間近で見ることができる。なお、火口からは火山ガスが発生しており、気管支や心臓疾患がある人は、火口見学ができないのでご注意を。

阿蘇中岳火口

中岳 第一火口から1.6kmほど行った場所に阿蘇山上神社がある。麓の阿蘇神社「下宮」に対し、この山上神社は「上宮」と呼ばれてきた。6月上旬に火山活動の平穏を願って御幣(ごへい、おんべい)を火口に投げ入れる火口鎮祭が行われている。時間に余裕のある人は足を伸ばしてみよう。

火口鎮祭の様子 photo / 阿蘇神社

マップ:道の駅から中岳

さあ、来た道を道の駅に向かって引き返そう。道の駅から阿蘇中岳はずっと上り道だったので帰りは下りが続く。しかし、美しい風景に見とれていてはいけない。オートバイでツーリングをしている人も多いので要注意だ。特にカーブでは速度を落とし安全に走行して欲しい。道の駅に到着したら国道57号を行き、昭和通り経由で阿蘇神社に向かおう。

再建前の楼門 photo / 阿蘇神社

阿蘇神社は全国に約500社ある「阿蘇神社」の総本社で約2300年の歴史を有す古刹。熊本地震(2016年)により楼門、拝殿が倒壊するなど甚大な被害を受けたが、2023年12月に楼門の復旧工事がようやく完了し、残すところ楼門接続回廊(透塀)の再建のみとなっている。それにしても、この神社と阿蘇山火口が信仰で繋がっているとは、スケールの大きな場所だ。また、阿蘇神社周辺にある一の宮門前商店街には「水基(みずき)」と呼ばれる湧き水があり、地元では神の泉として珍重されている。

神の水がこんこんと流れ出る水基(水飲み場)

数十年かけて磨かれた伏流水を飲み、阿蘇のパワーをもらって、のんびりと熊本空港に戻ろう。だけど、コインロッカーの時間には気をつけて!

再建後の楼門と掛け直された注連縄(2023年12月) photo / 阿蘇神社
厳かな竣功祭の様子 photo / 阿蘇神社
ご利益がありそうなご朱印帳 photo / 阿蘇神社

マップ:道の駅から阿蘇神社


🚴‍♂️ATTENTION
阿蘇神社の境内へ自転車の乗り入れは禁止されている。マナーを守ったライドを。
また、阿蘇中岳の活動状況によっては規制がかかり、火口見学が出来ない場合がある。最新情報は以下からご確認して欲しい。

http://aso-san.com/map/kakou/

🚴‍♂️ルート
熊本空港から阿蘇道の駅 31.5km
道の駅から中岳17km
阿蘇神社往復 4km
各往復で約105km


Text_井上英樹/Hideki Inoue

兵庫県尼崎市出身。ライター、編集者。趣味は温浴とスキーと釣り。縁はないけど勝手に滋賀県研究を行っている。1カ所に留まる釣りではなく、積極的に足を使って移動する釣りのスタイル「ランガン」(RUN&GUN)が好み。このスタイルに自転車を用いようと、自転車を運搬する為に車を購入する予定(本末転倒)。

TRIP&TRAVEL
琵琶湖で楽しむ夏
〜琵琶湖一周&京都サイクリング/4日間〜

琵琶湖は、日本最大の湖。その雄大な湖をぐるりと巡るサイクリングは、近年とても人気のアクティビティです。京都からもアクセス抜群で、Eバイクなら湖の西端までわずか15km、約1時間ほどで到着。気軽に旅が始められます。京都から運河沿いをたどって琵琶湖を目指すルート、湖の歴史ある中心地・近江八幡まで足を延ばして戻ってくるショートトリップ、さらには3日かけて約200kmの湖一周ライドもおすすめ。旅のスタイルに合わせて、自由自在に楽しめるのが琵琶湖サイクリングの魅力です。 地元サイクリストの視点から、いくつかのモデルコースをご紹介します。 日数:3〜4日間距離:220km獲得標高:970m 行程 このルートは京都を出発し、琵琶湖疏水沿いの道を通って琵琶湖サイクリングロードへ。和邇(わに)まで進んだ後、比叡山を越えて、鴨川サイクリングロードを通って大原へと戻るルートです。全体的に平坦なコースとなっています。この記事では、ルート上の見どころをいくつかピックアップしてご紹介します。※本特集は「京都海道」とのコラボレーションでお届けしています。 1日目琵琶湖大橋とモニュメント 旅は京都から始まり、琵琶湖のある大津へ向かいます。大津から約20km進むと、全長1.4kmの大きな橋に到着。近くには琵琶湖の記念碑があり、多くの人が写真を撮っています。湖の対岸には建物が並び、都会的な景色が広がりますが、道はずっと平坦なので、少し退屈に感じるかもしれません。 1日目近江八幡 初日のメインスポットです。近江八幡は中世に琵琶湖経済圏の中心地であり、トヨタや伊藤忠といった現代日本企業の拠点となった街です。街は堀に囲 […]

#Kyoto #Imazu
FEATURE NEWS TRIP&TRAVEL CULTURE
海と山がつながる、愛媛のサイクリングガイドブック

「しまなみ海道」から愛媛県内全域へ広がるライドコースを紹介するガイドブックをお届けします。 「Ehimeはとても近い距離に海と山が詰まっている!」「アルプ・デュエズの標高よりも高い、世界レベルのサイクリングロードだ」とはオーストラリアから来日し、愛媛県主催のファムツアー(プレスツアー)に参加したサイクリストからの感想。 「サイクリングと言えばしまなみ海道」が思い浮かぶ愛媛県ですが、ゆめしま海道も加えた瀬戸内海周辺のルートのみならず、四国各県境に広がる山岳ルートやそこに至るまでの道のりも、実は海外サイクリストからの評判も高いスペシャルな環境でした。 2025年の秋、愛媛県主催のサイクリングファムツアーを元に作成した本ガイドブックは、自転車大国であるオーストラリアの各都市から参加したサイクリストたちのコメントや臨場感ある走行写真も掲載されています。「しまなみ海道」から始まり、1日1本のライド、計6本のルートは小さな入江や島々を巡る海岸道から深い山間をくぐりぬける山道まで多彩さを見せ、参加したサイクリストたちからは感嘆の声があがっていました。 国内外のサイクリストの皆さんにもぜひ愛媛の土壌や固有の歴史、お遍路文化などが垣間見える素晴らしい愛媛のサイクリングルートを堪能いただけるよう、巻末にはツアーガイドの問い合わせ先も掲載されています。ゆっくり時間をかけ自転車のみで移動するもよし、サポートカーの手配も選択肢のひとつです。大阪、広島、大分からの船輪行情報も便利なガイドブックを、ぜひご参考にされてください。 *ガイドブックのサイクリングルートはHidden Japan Travel社の協 […]

#Guidebook
TRIP&TRAVEL
葛飾北斎のまなざしを追って
——富嶽三十六景をめぐる自転車旅 #2

日本を代表する浮世絵師、葛飾北斎の「富嶽三十六景」(実際は四十六点)の景色をめぐって行く自転車旅の第二弾。前回は富士山のお膝元である静岡県富士市を回るサイクリングコースをご紹介しました。 今回の舞台は静岡から神奈川、東京を飛び越えて千葉県です。メインとなるスポットは「富嶽三十六景」の顔ともいえる作品「神奈川沖浪裏」。神奈川沖を写しつつ富士山を収めるには東京湾上か千葉県側から見るしかありません。 「神奈川沖浪裏」を筆頭に「上総ノ海路」「登戸浦」と千葉県を舞台としたスポットを巡るサイクリングを紹介します。 *TOPの作品は葛飾北斎作「登戸浦」*掲載されている葛飾北斎の作品画像はメトロポリタン美術館より入手しています Text&Photo_Hokokara 目次 1. 「上総ノ海路」(かずさのかいじ/かいろ/うなじ)2. 「神奈川沖浪裏」(かながわおきなみうら)3. 海の幸フライを堪能する4. ここは千葉フォルニア5. 「登戸浦」(のぼとうら) 1. 「上総ノ海路」(かずさのかいじ/かいろ/うなじ) 今回のスタート地点は千葉県、富津市内に位置する富津公園。JR内房線の青堀駅、もしくは大貫駅から自転車で30分ほどの距離です。公園内にある富津岬の先端を目指して漕いでいきます。 酷暑はなはだしい昨今は朝とは言えど日差しが厳しく感じられますが、富津公園内はクロマツ林の木陰のおかげで快適なライド。富津岬全体が公園として管理されており、整備された舗装路が気持ちよく自転車を走らせてくれます。 富津公園第3駐車場まで辿り着けば、ほぼ岬の先端へ。車で来られる方はここまで乗り入れるのが最もアクセ […]

#Gourmet