海外でもロードバイクに乗ってみたい
Honolulu Century Ride 2023 参戦記
#3 ハワイは、ものすごくハワイだった

ハワイと聞いて、どんな印象をもつだろうか。ぼくは若い頃からずっと苦手だった。芸能人が行って、はしゃぐとこでしょ、とか、バナナボートでワイワイしちゃうとこでしょ、とか、それはもう”無知による偏見”にみちてた。そもそもキラキラしたものが苦手なのだ。もともと文学部だし、ほんとは根暗だし。生涯行くことはないと思っていた。
しかし人生とはわからないものである。本Webサイトで記事を書くために、ホノルルセンチュリーライドに参加しないかと、お声がけいただいたのだ。54歳にして、思いがけず、人生初のハワイ旅へ出かけることになった。

Facebookで、ハワイにいくと書いたら、いろんな反応があった。
 
ある人は、こういった。
おじさんになってからのハワイはハマりますよ。
 
ある人は、こういった。
これまで行ったなかでもっともキライです。
 
むむ、いったいハワイとはなんなんだ。パンドラの箱をあけてしまったような気になる。ハワイがミステリアスさを増し、ムクムクと大きくなる。

果たして自分はどちら側の人間なのか?

ハワイまでのフライトはおよそ8時間と思いのほか近い。羽田を夜の21時に出発したら、なぜか前日の朝7時につく。溜まっていた仕事をするつもりが、機内食でワインを堪能してしまい、あえなく寝落ち。気づいたらハワイだった。半世紀もハワイについて、意固地になってきたのに、その出会いは拍子抜けするほどあっけなかった。

ホノルルの空港は快晴だった
バスもハワイっぽい
空港はところどころオープンエアー

 空港のビルから外にでたときに、風が心地よくて、ああ気持ちいい、って思わず声がでた。なんだか幸先がよさそうだ。   

プロデューサーの渡辺さんがレンタカーを借り、それに便乗する形でホテルへと向かう。ダニエル・K・イノウエ国際空港からホテルのあるワイキキまではおよそ30分。抜けるように晴れ渡った青い空。大きな白い雲。パームツリーにバニアンツリー。ああ、ハワイに来たんだなぁって車窓を眺めながら感じた。

ホテルに着いたのは12時すぎ。チェックインにはまだ早い。

プロデューサーの渡辺さんが、ひとつの提案をしてくれた。

「河瀬さん、ハワイ初めてなんですよね。明日以降の予定も相談したいし、ザ・ハワイなカフェにでもいって、いろいろ話しましょうか」

向かったのは、ワイキキのビーチに面した気持ちのよいカフェ。とても開放的、というかオープンテラスになっていて、完全に開放している。余談だが、ホノルルの空港も搭乗口に向かうロビーの一部がオープンテラスになっている。空港のロビーですよ。なんてオープンマインドなんだ。ハワイくん、君のことを誤解していたよ。いままでごめんね。頑なだったぼくの心が溶けていく。

そのテラスから見える景色は、どこをどう切り取っても、完全無欠のハワイだ。隙がまったくない。アイスコーヒーを啜っていると気持ちのよい風が吹いてくる。木々がそよそよとゆれ、ただただ心地よい。なんだここは、極楽浄土じゃないか。

プロデューサーの渡辺さん
編集者の嘉村さん

地図を広げて、センチュリーライドのコースを確認する。1マイルは1.6km。センチュリーは100マイル。つまりセンチュリーライドでは160kmを走ることになる。東京から箱根がおよそ80kmだから、結構な距離だ。

「序盤にみんな張り切っちゃって後半がきつくなるんですよ。だから最初は抑えめに抑えめに走った方がいいです。それと路肩を走ることが多くて、パンクも結構あるんですよね。往復コースなんですど、折り返す手前の10kmぐらいは海岸のすぐ横をずっと走る、これが絶景なんですよ」

プロデューサーの渡辺さんがいろいろ具体的なアドバイスをくれる。

センチュリーライドどころか、ハワイも初めてのぼくのことを気遣い、コースの下見をしながら試走もしてみてはどうか、と渡辺さん。確かに、ハワイの交通ルールに慣れておかないといけない。車両は日本とは反対の右側通行。左折の際は、車と同じように交差点のセンターから曲がる。事前に試走すれば、スムースだろう。それに、ハワイの気候のなかで体を動かしておきたい。ふたつ返事でお願いした。

ホテルに戻ったあとは、渡辺さんたちクルーは打ち合わせがあり別行動。編集者の嘉村さんと散歩にでかけた。
聞けば、嘉村さんは、ロードバイク経験ほぼなしで、センチュリーライドの80kmコースに挑戦するという。経験もないのに大丈夫ですかね、と嘉村さん。ぼくは、にっこりしながら、大丈夫ですよ、と答えた。結構大変かもしれないが、そんなことはいえない。でもここはハワイという楽園なのだ。きっと神様が守ってくれるだろう。知らんけど。
有名なお土産のショップを覗いたりしながら、ふたりでぶらぶら歩いた。しばらくすると嘉村さんも打ち合わせへ行かねばならなくなった。

結局、ひとりでワイキキの周辺を散歩した。

ワイキキには、高級ホテルがビーチ沿いにずらりと並んでいた。高級ブランドの路面店もいっぱいだ。観光客向けのコンビニ、ABC Storeなんてワンブロックにひとつ以上の割合である。緻密に編み上げられた完全なリゾート、つまりはスーパー観光地だ。でもどことなくゆったりとしている。悪くない。
アロハをきた老夫婦が、チャーミーグリーンみたいに手を繋いで歩いていたり、水着姿のサーファーが板を担いで歩いていたり、半ズボンのマダムがワンちゃんを散歩させていたり。そんな人たちの間を、あの心地よい風がふわりと吹き抜けていく。

そうか、ハワイの真骨頂は、この心地よい風だったのか。

暑くもなく、寒くもなく、心地よい風がそよぐ、この奇跡の気候に吸い寄せられるように世界中から人が集まって、この多様な世界を作り出したのだ。

帰り道。にわか雨に見舞われた。街ゆく人たちは動じない。こうした雨は、シャワーとよばれ、ハワイでは珍しいことではない。他のひとたちに混ざって、ABC Storeの軒先を借りて雨宿りする。やれやれ、ちょっと一休みするか、そんな感じだ。数分後には雨はあがり、またあの心地よい風がふわっとふいてきた。

滞在初日。ハワイはものすごくハワイだった。
そんなハワイが心底好きになった。

そしてホノルルセンチュリーライドだ。

このどこまでもたおやかなハワイを、世界中から集まった自転車好きたちとともに、走るのだ。それはどれほどハッピーな体験だろう。考えただけでもワクワクする。

Text & Photo_Daisaku Kawase

🚴‍♂️Honolulu Century Ride 2023 参戦記🚴‍♂️

#01 輪行、それはいつも悩ましい(前編)
#02 輪行、それはいつも悩ましい(後編)
#03 ハワイは、ものすごくハワイだった
#04 初めてハワイでのライド 試走編

#05 ライド!ホノルル・センチュリー・ライド!

Profile

河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。

TRIP&TRAVEL CULTURE EVENT
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誰もが自転車ライフを楽しめるハワイへ

9月の最終日曜にあたる29日。今年で41回目を迎えた「ホノルルセンチュリーライド(以下、HCR)」が終了しました。 GR編集部スタッフがたくさんの参加ライダーと言葉を交わした中で、数名の方から頂戴した質問がこちら。「こんな最高なライドイベントは、そもそもどのような団体が主催しているのか?」 ということで、本大会を主催する団体・Hawaii Bicycling Leagueのエグゼクティブディレクターを務め、自身も自転車を愛してやまないトラヴィス・カウンセル(Travis Counsell)氏に、インタビューを行いました。最後に参加者の方へのメッセージも頂戴しましたのでどうぞご覧ください。 _Global Ride編集部(以下GR)大会概要を改めて。 _Travis氏(以下敬称略、Travis)本大会はハワイで最大規模のロングライドイベントです。1981年に初開催し、41 年にわたる歴史があります。イベントの主催は私たち「Hawaii Bicycling League(以下HBL)」で、非営利団体です。2003年より日本での受付を開設し、HCR ジャパンオフィスであるHM-Aと協力し、大会を運営しています。主要なスポンサーにJALが入っているので日本からの参加ライダーも多いです*1。 *注1_ホノルルセンチュリーライドと日本の深い関係は別記事でお届けします。お楽しみに! _GR  HBLの活動理念は? _Travis 「Share the Road (道路の共有)」。 Health、Recreation、Transportの3つをキーワードに、ホノルル及びハワイが自転車と歩行者に […]

#biki #HCR
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11月も半ばになり、ようやく秋の気配を感じます。先日、インスタを見ていたら「あれから1ヶ月も経ったけれどまだハワイの余韻が〜」という投稿に出会いました。まったく同感です。写真を見るだけでホノルルの風と空気が蘇ります。ホノルルセンチュリーライド2024(以下HCR)のインタビュー連載企画の続編をお届けします。今回も、第一回に続き初参加者組の中からパワフルな4組にご登場いただきました。なぜ、ハワイで走ろうと思ったのですか? 目次 1 ビッグスマイルをありがとう/やきはた2 75回目のバースデイ記念に/ジョージさん、本田さん3 大学生生活最後に親子ライドを/Hiroさん、Takaさん4 ハワイには病を乗り越える原動力がある/相澤英敏さん 1 ビッグスマイルをありがとう/やきはた メディア掲載時のニックネームは?と尋ねると勢いよく「やきはた!」と返され、思わず笑ってしまった。お二人ともライダーだが、HCRには初参加。 編集作業の過程では何名ものフォトグラファーが撮影した膨大な量の写真を見返すことになるのだが、やきはたさんたちほど激写されていたカップルはいない(目立っていた?)。たぶん、写真集ができるくらい笑 思わずカメラを向けてしまうのだろう、このポジティブなムードと最高な笑顔に、写真をセレクト中のこちらも知らずのうちに笑みがこぼれる。 女性のやきはたさんは自己最高記録が140km。今回は160kmの記録更新に初挑戦、しかもクロスバイクで!日本ではしまなみ海道や山中湖などへ走りに行っているそう。男性のやきはたさんは日本でのレース経験はあるものの、海外でのライドとハワイは初チャレンジとい […]

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「ホノルルセンチュリーライド2024」参加ライダーインタビューの最終回は、上級者のライド記で締めくくります。常連ライダーの皆さんは5回、10回と参加を重ねるこの大会に、何を感じ、どのような部分に惹きつけられているのでしょうか。「地球上で最高のライドイベント」とも言われるホノルルセンチュリーライド(以下、HCR)に幾たびと参加するその魅力や楽しみ方を伺いました。「あなたはなぜ、何度もハワイで自転車に?」 目次 1 新入社員が初ライドした理由/Keisukeさん2 2025年へ持ち越したゴール/Kenjiさん、Keikoさん3 ひとりでも、一人じゃないドラマがある/だんきち さん 1 新入社員が初ライドした理由/Keisukeさん 「ホノルルセンチュリーライドを社員旅行にしようと思って、スタッフ全員に声をかけたんです、そうしたら手を挙げたのが彼だけで笑」 九州地方で病院を経営されているKeisukeさんは、大のホノルルセンチュリーライドファン。昨年も100mile=160kmを完走されていた。 「一度走ったらわかる、こんなに気持ち良いライドができる場所は他にないですよ。社員旅行に誘ったらみんな行きたい!と言うかと思ったけれど、そんなことなかったんですよね〜」それはがっかりですね…でも、今どき、なんて太っ腹な! 残念そうな表情で話すKeisukeさんは常連さんだけあって、HCRをよく見ている。インタビュー中もホノルルやイベントについての話が尽きず、このままポキ丼でも食べに行こうかと思ったくらいだ。「日本国内でイベントに出ようとすると飛行機を使うでしょ、本番前後で必ず1〜2泊はするし、 […]

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