海外サイクリング事情2021
台湾ヒルクライムライドレポート編

台湾は、かねてより自転車乗りにとってアツい場所だとご存知でしょうか?
この小さな島には富士山より高い山がそびえ、ロングライドと同じくらいヒルクライムが人気のアクティビティ。

さらにロードバイクを一度でも買おうとした人なら誰もが知るバイクメーカー「GIANT」や「MERIDA」をはじめ、自転車メーカー群雄割拠。
今回はその台湾に早くから魅せられ、台湾在住15年になる日本人ライダー安田さんから、ヒルクライムの魅力とサイクルライフの様子をご紹介いただきます。
※この記事は2021年10月の記事の再掲載です。

目次



湾ってサイクリストにとってどんなところ

日本最西端の与那国島からほんの111km先にある、九州本土程度の大きさの島国、台湾。
小さいながら国土中央には富士山と並ぶ3,000m級の山々が200以上あり、最大標高の玉山(ユイシャン)は富士山より高い3,952mを誇ります。

海抜0mから標高3200mを走破する壮絶なヒルクライムコースは世界中のライダーから注目されています。
加えて、海沿い・川沿い・湖沿い・都市近郊などは風光明媚なサイクリングロードの整備も充実していて、日本から手軽に行ける「自転車天国」として人気です。




台湾での新型コロナの状況

早くから水際対策を徹底し、世界各国でコロナウィルスが猛威を振るう中でも、長い間国内感染を抑え込むことに成功していた台湾。

しかし、2021年5月に台北市を中心に各地へ広がる形で感染者数が上昇、一時新規感染者が800人にのぼる日も出ました。(台湾の人口は2,300万人なので、日本の人口比率だと4,500人程度の感染者数。)

それまで入国者の隔離、交通機関利用時のマスク着用義務程度ほか、特に規制がなかった「警戒レベル1」は、一気に「レベル3」へシフト。外出時のマスク着用義務、店内飲食や集団行動の禁止、施設の人数制限、実名登録による人流管理など、厳密な対策が打ち出されました。

マスク着用義務違反は通報・罰金の対象です。罰金額は台湾元で3,000元以上15,000元以下。日本円でおよそ12,000円~60,000円程度と高額なので、全員きちんとマスクを着用しています。

不要不急の外出を控えるアナウンスにより、サイクリングを楽しむ人も見かけなない日々が続きました。当時はサイクルトレーナーの売り上げが非常に伸びたそうです。

しかし的確な対策が効果を上げ、8月25日には感染者数0、警戒レベルは「レベル2」に引き下げ。マスク着用義務は継続されるものの、外出自粛要請などは解除されました。

上記は毎日午後、記者会見で公開されている感染者数のアナウンス。8月25日は新規感染者0件となりました。



新しいサイクリングルール

最近は再びサイクリングを楽しむ人の姿が少しずつ増えてきています。

ただし、ライド中でも引き続き外出時のマスク着用は必要。多くの人が呼吸がしやすいスポーツ用マスクや立体マスクを着用しています。一般的な不織布マスクでも、マスクと口の間に隙間を作る「マスクフレーム」を装着するなどの工夫をしています。

マスクフレームを装着した不織布マスク。形状は様々、ドラッグストア等で販売されています。



台北から気軽に行ける人気ライドスポット陽明山でヒルクライム!

私もこの夏、台北の北側に位置する人気ヒルクライムエリア「陽明山(ヤンミンサン)」へ、ごく少数の友人と久しぶりにサイクリングを楽しんできました。

陽明山は複数の山岳からなる約11,338ヘクタールのナショナルパーク。標高も海抜200mから最高1,120mまで起伏に富んでいて自然豊か。大都市台北から気軽に行ける観光地。ヒルクライムのコースとしても人気です。山頂付近の「冷水抗」と呼ばれる温泉施設をめざすコースを走ることにしました。

冷水坑コースはこちら

当日仲間とは故宮博物館で待ち合わせ。故宮博物館も観光スポットで、ライダー同士の待ち合わせではおなじみの場所。台北駅から車で2-30分程度で行くことができます。
その日は私と同様、サイクリング仲間と落ち合うライダーたちが多くの見受けられて、活気が戻りつつあることを実感。



久しぶりのライド!

※いくつかの写真は別の日に撮ったものです
走るにつれて、どんどん空が広くなっていくのが爽快です。

折り返し地点近くまで登れば、新北市や台北市を遠くにのぞむことができます。

冷水坑ビジターセンターまでのぼりきったら、折り返してらくらくの下り。



夏場のヒルクライムでもマスク着用で新たにハードな設定が追加

台湾は沖縄のさらに南に位置し、夏場は猛暑。実はこの日の最高気温も35℃と、ヒルクライムするだけでも結構ハードでした。今回初めてマスク着用をしたライドにのぞんだのですが、やはり息苦しさは否めません。

マスクは汗で濡れるし、ボトルの水を飲むのもひと手間かかり、細かいところで四苦八苦しながらの挑戦でした。

また、マスクを着用しているとサングラスが非常に曇りやすいので、結局サングラスは外しました。

色々ハードルはあったものの、ゴール到着時の爽快感・達成感はやはり格別。自転車に乗ることすら難しかった時期を経て、再びヒルクライムの喜びを味わえた感慨深い一日になりました。



台湾でサイクリングを楽しむ醍醐味を今一度

陽明山ライドの途中、以前よく利用したカフェに立ち寄りましたが、テイクアウトのみとなっていました。

しかし、本来台湾はコンビニに加え屋台やテラス席のある飲食店が多く、自転車を傍に置いて食事をするのがライダーの楽しみの一つ。

※ライド途中の休憩の様子。撮影は2020年3月。

現在は、パーテーションを設置したり座席間のスペースを確保できる、感染予防対策済みの店でのみ店内飲食が可能です。その他多くの飲食店ではテイクアウトのみで、基本自宅に戻って食べるためのもの。というのも、外出時のマスク着用が義務のため、屋外で食事をするのは、罰金の対象となる可能性があるためです。



ライドを通して感じたこと

久しぶりのヒルクライムは楽しかったものの、やはりエイド休憩がないのは少し寂しい。

警戒レベルが緩和され「レベル1」となったあかつきには、国内での活動は通常のものとなり、グループライドも自由な立ち寄り飲食もできることと思います。

さらに日本の皆さんが台湾にサイクリングできるようになるころには、現在中止・延期されている大型イベントも再開されるかもしれません。

特に東西から標高3275mの武嶺まで上る台湾ヒルクライムの最高峰、「西進武嶺」・「東進武嶺」のヒルクライムイベントはヒルクライム好きの台湾人が待ち望む2大大会。脚力に自信があるライダーにはぜひ挑戦していただきたいです。

もちろんその時には、ライドした分、台湾グルメもしっかり楽しんでほしいですね!


ライダー紹介:安田 航

台湾在住15年。現地でダイエットと移動の手段として2011年からスポーツバイクを乗り始める。台湾各地への自転車旅行、イベント参加、グループライドを通し、今まで気づかなかった台湾の魅力に触れ、現在は台湾で自転車を楽しむことが台湾にいる理由になっている。
好きな台湾の食べ物:牛肉麺、臭豆腐、控肉販。
お気に入りライドスポット:陽明山、五分山、北海岸。

現在は、台湾国内外のスポーツ旅を専門に企画実施するTaiwan Pulse Tour 社で台湾旅行者向けガイドライダーとして従事しています。

CULTURE
CYCLE MUSIC⑬
Livingston Taylor
「Don’t Let Me Lose This Dream」

自転車と音楽にまつわるちょっとしたエッセイを毎回お届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回紹介するのは、優しく心安らぐハートウォームな歌声と味わい深いギターが印象的な、フォーク系シンガー・ソングライターLivingston Taylorによる1996年作、その名も『Bicycle』です。 通称“Liv”ことLivingston Taylorは、James Taylorを始めKate TaylorやAlex Taylorも名高い音楽一家五兄弟の三男で、1970年に発表したセルフ・タイトルのファースト・アルバム以来、コンスタントに作品を発表していますが、1989年からは名門バークリー音楽大学の教授としても知られていますね。といっても彼の奏でる音楽は、どちらかと言うとアカデミックというよりは素朴な佇まいで、キャリアを通して“心暖まる”という形容が最も似合い、好感を抱かずにいられません。 そんな彼が長年のコラボレイターScott Petitoのプロデュースで1996年に発表した『Bicycle』は、矢吹申彦が手がけたアルバム・カヴァーの中心にも空に浮かんだ自転車があしらわれ、サイクリング愛好家ならずとも心惹かれるはずですが、そのタイトル・チューンもとても素晴らしい曲なので、このコラムがスタートした当初から、いつか推薦したいと考えていました。 さらに、僕が提唱したFree Soulムーヴメントが全盛期を迎えていた1996年当時、その曲の次に収録されていたのが、紛れもない「Don’t Let Me Lose This Dream」だったことに、僕は大感激してしまっ […]

#Bicycle
CULTURE
CYCLE MUSIC⑫
Kraftwerk
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この連載がスタートした当初から、自転車と音楽についてのコラムなら、いつかここぞというタイミングで取り上げようと思っていたKraftwerkの「Tour de France」。FUJI ROCK FESTIVAL 2024でのライヴ・パフォーマンスが話題を呼んでいる今こそ、という感じでご紹介します。 1970年に結成されたドイツの電子音楽グループKraftwerkは、ジャケット・デザインやヴィジュアル・イメージも自ら手がける、その存在自体がコンセプチュアルな、いわゆるクラウトロック(ジャーマン・ロック)の代表格であり、テクノ・ポップの先駆者で、YMOはもちろん、イギリスのニュー・ウェイヴ勢(特に80年代にニュー・ロマンティックと呼ばれたエレ・ポップ〜シンセ・ポップ)に大きな影響を与えました。ロボットのように感情を感じさせない、無機的で禁欲的な謎めいた印象ですが、ファンキーなリズムとミュージック・コンクレートとポップ・ミュージックの融合で、「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ」なんて言われたりもしますね。特に注目すべきは、Afrika Bambaataaを始めとするヒップホップ〜エレクトロ・ファンクや、Juan AtkinsやDerrick Mayに象徴されるデトロイト・テクノといった、ブラック・ミュージックにも多大な影響を及ぼしていることです。 Kraftwerkはメンバーがサイクリングに高い関心を持っていたことでも知られ、1983年に発表された「Tour de France」は、その経験や名高い同名の自転車競技大会から着想された名作で、ヴィデオ・クリップにはサイ […]

#Kraftwerk
EVENT
自宅でファンライド! 取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #03
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※*TOP写真/ピレネーのオービスク峠 真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。レースの結果はタデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)がダントツの個人総合優勝を勝ち取った。 さて、3回シリーズのコラム最終回は、日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は中級者向けでレンタカーを使えば初級者も実走可。ピレネー編は上級者向けの周回コースだ。 目次 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない。聖地ルルドから1日で行ける人気ルート 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう ツール・ド・フランス最高の舞台として知られるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズ。距離13.8kmの上り坂に世界中から熱心なファンが集まる。 ふもとのブールドワザンにある最後のロンポワン(環状交差点)でラルプデュエズという看板のさす方向に進路を取ると、しばらくして幾多の伝説を生んだあの上り坂が始まる。 上り始めていきなりの激坂が2km続く。ここからまさに「ヘアピン」と呼ぶにふさわしいコーナーがラルプデュエズ村の入り口まで21ある。数字をカウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいので、たいていのサイクリストは最初のコーナーで足を着く。 ラスト6km地点にはエズ(Eze)村のゴシック様式の美しい教会 […]

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