BRISBANE CYCLING FESTIVAL 2024
ローカルサイクリストAyakaのブリスベン現地レポート【後編】

ブリスベン在住のサイクリストAyakaが、パートナーのYoshiと共に地元サイクリスト目線でブリスベン・サイクリングフェスティバルの様子を前後半にわたりレポートします。
後編では、目玉となるイベント「ツール・ド・ブリスベン」の大会レポートをお届けします。
※前編はこちら


目次

1  ツール・ド・ブリスベンとは?
2 スタート、ゴールはエキスポ会場から
3 まるで仮想現実!シティのど真ん中を駆け抜ける

4 街を一望するストーリーブリッジとハイウェイ
5 シンプルだからこそ味わい深いエイドステーション
6 「太陽の州」にて

7 進化する自転車都市ブリスベン

ツール・ド・ブリスベンとは?

ブリスベン・サイクリングフェスティバル期間中、ナショナルトラックレース、ナショナルロードレースにファミリーライドなど、数あるイベントの中でも目玉となるのが「ツール・ド・ブリスベン」です。

コースは50km、80km、110kmの全部で3種類。
いずれも一般市民向けのファンライドイベントである上に、110kmコース(獲得標高約1,200m)ではUCI(国際自転車競技連合)グランフォンド・ワールドシリーズの参加者資格取得も兼ねたレース部門も開催されます。

このツール・ド・ブリスベンの何がすごいかと言うと、街の中心部から周辺の山間部をつなぐルートを引き、スタートからゴールまで「完全封鎖の都市型ライドイベント」に仕上げたということです。

ブリスベン中心部のオフィスビル群、バス専用道路、高速道路、街のシンボルでもあるストーリーブリッジをこの大会のためだけに完全封鎖したプレミアムなライドイベントなのです。

スタート、ゴールはエキスポ会場から

いずれのコースもスタートとゴールはサイクル・エキスポ会場であるブリスベン・ショーグラウンドです。

80kmコースの終盤に、ブリスベンサイクリストたちの定番ヒルクライムスポット、Mt.クーサを追加したのが110kmコース。こちらの参加者は朝6時台に早々にスタートしました。

私たちを含めた80kmコース(獲得標高約640m)参加組はレクリエーション目的のライダーが主だからでしょうか、全体的にリラックスした雰囲気です。セルフィーを撮影する人、家族が見送りに来ている人、出走ギリギリまでコーヒーを飲んでくつろぐ人などに混ざり、出走準備をします。
10代から70代と思われる方まで男女問わず非常に年齢層が幅広いのは、本イベントに限らず、オーストラリアの自転車層全体にも言えるかもしれません。

すっかり太陽も昇り、まぶしいくらいの朝7時15分、エキスポ会場前から私たちもウェーブスタートしました。

まるで仮想現実!シティのど真ん中を駆け抜ける

スタートから早々、待っていたのはこの日のために完全閉鎖されたバス専用道路

車社会のオーストラリアでは、一般車道とは別に市バス専用のバスレーンが各所に張り巡らされており、今回のイベントでもそれがコースとしてふんだんに活用されていました。
普段はバスが行き交うたっぷりとした道幅の滑らかなアスファルトの上を、ライダーたちが軽快なペダリングで進んで行きます。

バスレーンに乗り快調にブリスベンの中心部、ローマストリート・パークランズやクイーンストリートの地下バスターミナルを駆け抜けていきます。
昨日までは通勤バスで揺られている道の上を、今日は自分の自転車で走っている、なんとも不思議な感覚です。

バスターミナルを地上へと抜けたらシティのビジネスビル群の中心部へ。
オフィスビル、銀行や行政のビルが立ち並ぶCBD(Central Business District:中心業務地区)エリアを風を切りながら進んで行きます。

この日の参加者は全コース合わせて7,000名超えとのこと。
人種も国籍も異なるサイクリストたちの顔ぶれは移民国家のオーストラリアならではでしょう。多種多様なサイクリストたちが、次から次へとブリスベンの街の心臓部を駆け抜ける光景は圧巻です。

言ってみれば、東京丸の内を市民ライドイベントのために閉鎖し、世界中のサイクリストが集まって走っているようなもの。
走っている自分でさえも「これってリアルだよね?仮想現実みたい…!」と、どこか現実離れした、未来的な雰囲気さえ感じました。

街を一望するストーリーブリッジとハイウェイ

CBDを駆け抜けたら、早くも前半の走りどころの一つ、ストーリーブリッジへ

1940年に架けられたストーリーブリッジは数あるブリスベンの橋の中でもシンボル的な存在。オーストラリア最大のスチール製カンチレバー橋で、1日に約9万台以上のもの車両が通行します。
両脇に歩道があり自転車も走行可能ですが、この日はもちろんサイクリストのためだけに貸切です。
地上74mの橋の真ん中からはブリスベン川を挟んだ街が一望できます。この日だけの特別な全長1,072mを一漕ぎひと漕ぎ味わいながら進んでいきます。

走りどころパートはCBDとストーリーブリッジだけではありません。
中盤に登場するインナー・シティ・バイパス(ICB)も走りごたえのある区間です。
ICBはブリスベンにある全長5.6kmに渡る主要高速道路規格のバイパス。もちろんここも特別貸切です。

ICBからレガシー・ウェイ・トンネルを入り、東方面へと進んでいきます。

レガシー・ウェイ・トンネルの中を駆け抜けていく無数のサイクリストたち

もちろんここも平常時は自転車走行が不可。オレンジ色のライトに照らされながら生暖かい空気の中、シャーシャーとラチェット音だけが聞こえる空間に、より一層非日常感が増していきます。

トンネルを潜り抜け、引き続き高速道路上を走りながらコースの折り返し地点へと向かっていきます。

5 シンプルだからこそ味わい深いエイドステーション

80kmコースのエイドステーションは全部で3箇所(15km、48km、65km地点)

ちなみに、オーストラリアの自転車イベントでは「エイドステーション」を「レストストップ(rest stop)」や「フィードステーション(feed station)」と呼ぶことがしばしばあります。

日本の自転車イベントでのエイドステーションと言えば、地域のボランティアの方々から郷土料理やB級グルメが振る舞われるイメージが強いのではないでしょうか。

しかし、オーストラリアのエイドはいたってシンプルです。
バナナやリンゴなどの果物、一口サイズのデニッシュやマフィン、エナジージェルが配布される文字通りの「補給食」です。

日本でのイベント参加経験があると、最初は少し物足りなさを感じるかもしれません。 私も7年ほど前に初めてオーストラリアのローカルイベントで走った時は「え!? シンプル過ぎない!?」と正直驚きました。

このシンプルさは、オーストラリアの自転車イベントの主目的が「地域観光の活性化」や「地方創生」よりもむしろ、「市民の健康促進」だったり、参加費を医療研究組織や慈善団体へのチャリティーにフォーカスしているという面が関係しているのかもしれません。

「エイドステーションのグルメを楽しみに走る」というより、純粋に「走ることそのものを満喫する」そのシンプルさがまた味わい深く、魅力の一つです。

地域ボランティアの方々との交流もまた楽しいもの。
皆さんがフレンドリーな笑顔でお水や果物を手渡してくれます。英語に自信がなくても大丈夫。こちらも笑顔でニコッとThanks! とお礼を返せば気持ちは十分伝わりますよ!

6 「太陽の州」にて

高速道路上で折り返し、再びレガシー・ウェイ・トンネルをくぐり抜けたらシティ方面へと戻っていきます。

65km地点の最後のエイドステーションで補給を終えたら、ラストスパートです。

気温の上昇と共に、少し疲れが出始めましたが、スピード感の近いライダーたちと6〜8人ほどの小さい集団を作り皆で乗り切ります。

スタート地点であったブリスベン・ショーグラウンドの外観が見えてきたらゴールはすぐそこ。
朝7時15分のスタートから約3時間半。10時45分、無事に二人でゴールゲートをくぐり抜けました。周囲には続々とゴールするライダー、出迎える友人や家族でたくさんの人の笑顔が溢れていました。

ゴール後に息を整えたところで、フィニッシュエリアで配られたプロテインドリンクを汗ばんだ体に流し込みます。
太陽の州・クイーンズランドらしい抜けるような青と伸びやかな雲が浮かんだ秋晴れの空は、まさに絶好のサイクリング日和でした。

最初から最後まで完全封鎖でとことんブリスベンを満喫する、ストレスフリーで爽快な大会に大きな充実感を覚えました。

ライドイベントをこうして存分に満喫できるのも、恵まれた天候、健康な心身、頼れる愛車、大会を支えてくれる多数のスタッフの皆さんがあってこそ。

一つひとつの条件が掛け合い実現しているという思いが溢れ、純粋に「自転車に乗る喜び」を改めて噛み締めることができる、それがオーストラリアの自転車イベントの魅力だと私は感じています。

ローカルサイクリストの私たちでも十二分に満喫したツール・ド・ブリスベン。
日本から参加したら、普通の観光旅行とは一味も二味も違う、極上のライド体験になること間違いありません。

7 進化する自転車都市ブリスベン

7年ほど前、私はインターンとして州政府観光部や自転車NPOで、クイーンズランドのサイクルツーリズム振興に当たっていました。

当時、クイーンズランド州はほか地域と比べた際にはまだまだ伸びしろがある印象でした。

それが、まさかブリスベンを拠点にここまで大々的にサイクリングフェスティバルを催し、街一番の展示会場でエキスポ、CBDを完全封鎖するライドイベントを開催することになるとは、当時からしたら夢物語のようです。

それだけ、コロナ禍を経てブリスベン界隈のサイクリスト層が厚みを増し愛好家が増えたこと、そして2032年のブリスベン夏季オリンピック・パラリンピック開催に向けた、クイーンズランド州政府やブリスベン市の強い意気込みの表れでもあるのでしょう。

ツール・ド・ブリスベン2025年大会は4月13日(日)開催予定です。
ぜひ一度、進化する自転車都市ブリスベンを体感しに来てみてはいかがでしょうか

ツール・ド・ブリスベン 80kmコースルート(2024年大会)


参考
※2019年のレポートはこちらから
https://globalride.jp/event/2019tdb_report_1/

◆関連ページ
ブリスベン・サイクリングフェスティバル公式サイト
https://www.brisbanecyclingfestival.com/

ツール・ド・ブリスベン公式サイト
https://tourdebrisbane.org/


Text_Ayaka

Profile

Ayaka(編集者・ライター)
オーストラリア/クイーンズランド州ブリスベン 在住。
2011年に自転車旅に魅了されてから雑誌『Cycle Sports』に世界各地からの自転車旅レポートを寄稿。2017年オーストラリア留学中には「G’day, Australia! 〜ブリスベンからの自転車だより」を『Cycle Sports.jp』で連載。帰国後は英教材編集者、自転車NPOの通訳・MCとして活動。2022年ブリスベンへ移住。日々オーストラリアの自転車の魅力を発信中。

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TRIP&TRAVEL EVENT
BRISBANE CYCLING FESTIVAL 2024
ローカルサイクリストAYAKAの現地レポート【前編】

ブリスベン在住のAyakaが、パートナーのYoshiと共に地元サイクリスト目線で「ブリスベン・サイクリングフェスティバル」と街の魅力をお伝えします。前編ではブリスベンの川沿いサイクリングとサイクル・エキスポの様子をレポートします。 目次 1  太陽の州・ブリスベン2 日本からブリスベンへのアクセス3 リバーウォークで水上サイクリングを味わう4 ブリスベンにサイクル・エキスポがやってきた! 1 太陽の州・ブリスベン シドニー、メルボルンに次ぐオーストラリア第三の都市、ブリスベン。ブリスベンが属するクイーンズランド州は「サンシャイン・ステート」(太陽の州)とも呼ばれるほど、晴天率が高いことで知られています。 そのためか、ケアンズのトライアスロン大会やゴールドコーストのマラソン大会など、スポーツイベントの開催が盛んです。州都でもあるブリスベンでは2019年から3月〜4月にかけ街をあげてのブリスベン・サイクリングフェスティバルが催されます。 2024年は3月15日から4月16日の約1ヶ月間にわたり開催されました。期間中はオーストラリア国内のトラック・チャンピオンシップとロードレースのシリーズ選手権、UCIグランフォンド・ワールドシリーズのほか、サイクル・エキスポ、一般市民も参加可能なライドイベント「ツール・ド・ブリスベン」やファミリーライドなど、自転車関連のイベントが市内各所で催されました。 2  日本からブリスベンへのアクセス 日本の方にとってメルボルンやシドニーはお馴染みでも、ブリスベンという都市は初耳の方もいらっしゃることでしょう。冒頭でもお伝えしたとおり実は大都市で、 […]

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僕はニューヨークに25年ほど住んだことがあったのだが、当時は美術関連の仕事をしていたということもあり、ギャラリーや美術館を見て回るのに自転車ほど有効な移動手段はなかった。周知のとおり、ニューヨークは世界的に有名な美術館や博物館が多い街ということで、今回は自転車でコンテンポラリーアートを巡るお薦めのルートを提案してみたい。 まずは、通称「ミュージアム・マイル(Museum Mile)」と呼ばれているセントラルパーク沿いの5番街と89丁目へ。そこで目にするのが巻貝のような異様な外観が目を引くのが「グッケンハイム美術館(the Guggenheim Museum)」だ。設計はアメリカを代表する建築家フランク・ロイド・ライト。ここは世界遺産にも指定されている凄いところなのだが、その際立った外観から想像できるように螺旋状のスロープを降りながら壁面の作品を鑑賞するという稀有な美術館は必見だろう。 そのまま5番街を南に下りて西47丁目にあるのが、MoMAとして親しまれている「ニューヨーク近代美術館(the Museum of Modern Art)」で、近代と現代アートの世界では最も権威のある美術館であるのは誰もが認めるところだ。コレクションも当然ながら一級品ばかり、ゴッホやピカソやマチスといったヨーロッパの巨匠から、アンディ・ウォーホル、ジャクソン・ポロック、ジャスパー・ジョーンズなど、時代を超えた名作から現代アートの最先端までが一堂に揃うまさにアートの殿堂である。 一方、コンテンポラリーアートのメッカが、空中公園ハイライン(the High Line aerial park)の所在地とし […]

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