自宅でファンライド!
取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #02
〜欧州のサイクリストはこう楽しむ〜

※TOP写真/広告キャラバン隊からもらった水玉シャツで応援 ©A.S.O. Charly Lopez

真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。3回シリーズのコラム第2回は欧州のサイクリストが実際にどんな感じでツール・ド・フランスを楽しんでいるかをご紹介します。

目次

1 観戦がてらの本番ライド!?
2 安全にライドするためのポイント、県道Dと国道N
3 フランス名物のロンポワン

1 観戦がてらの本番ライド!?

地元のサイクリストがツール・ド・フランス観戦がてらにサイクリングも楽しんでしまおうというとき、最も有効な手段としては車に自転車を積み込んでコースに接近する。脚力に応じてある程度の距離をとって駐車し、そこから走ってコースまで行くというスタイルだ。これなら道路封鎖にも遭わないし、交通渋滞も回避できる。しかも四輪車両は通行止めだが、自転車はそのまま通行できるケースがほとんど。選手の到着まで2時間以上あるときは車両規制されたコースも走ることができる。選手の1時間半前に広告キャラバン隊が走ってきて臨戦体制となるので、サイクリストも停止させられて沿道で見ることになる。

サイクリストは意外とルーズに規制中のルートを走れる

山岳ステージでは観客の数が多くなるだけに規制がシビアになる。カテゴリーの厳しい本格的な峠は前日から交通規制され、その日の朝には憲兵隊が全ての分岐点に配置される。命令を遵守してサイクリストを一網打尽に停止させる憲兵隊員もいれば、スマホに夢中でスルーする隊員も。サイクリストもしたたかで、停止させられて仕方なく徒歩でコースを歩いて行くのだが、止めた隊員が追いかけて来られないところまで進むと再び乗車する。とはいえ、峠の中腹などはおびただしい数のサイクリストが集まるので、もはや走りを楽しむことはできず、その雰囲気を感じることにシフトした方がいい。

最近見かけるようになった無料の仮設駐輪施設

ツール・ド・フランス取材において大観衆が集まるコースを車で走るのは大変で、ボクは常に別の峠を使って迂回し、ゴールを目指す。別の峠も有名な場所だが、その日は当然コースに人が集まるので通行量は少ない。そんなところを走るサイクリストも意外と多いことに気づいた。つまり彼らはこんなに近くで開催されているツール・ド・フランスより、自分のライドを楽しむことを優先しているのだ。

推奨ルートはいたるところにあり、アプリなどで確認できる

2 安全にライドするためのポイント、県道Dと国道N

フランスの道路をサイクリングするときの注意点がある。もちろん右側通行に戸惑うだろうが、走り出してしまえば日本と反対であるという意識が常にあるので間違うことはない。休憩したところから走り始めた際に、思考回路が一瞬日本にいるときに戻ってしまうこともあるので、そのときだけ注意が必要だ。

アルプスのアルベールビルに向かう

フランスのドライバーが自転車をリスペクトしてくれるのはうれしい。きっとハンドルを握る彼らも幼少期から自転車で道路を走っていたからに違いない。「自転車を追い抜くときは1.5mの間隔を取って」という看板を最近は見かけるが、フランスを走る限りこれはあまり意味がない。

都市部はサイクリングレーンが劇的に整備された

なぜならば、たとえば黄色のDで表示される県道では、最高速度は80あるいは90km。そのスピードでいくら自転車から1.5mの間隔を開けたところで激しい風圧によりサイクリストをひっくり返してしまうことは明らか。ドライバーはそのためまず減速し、反対車線まで完全に出るくらいの大袈裟な間隔を取ってサイクリストを追い抜く。対向車が見えるときは反対車線が空くまでサイクリストを追い抜かない。たまにのどかなD線で不意に渋滞にハマることがあるが、前方にサイクリストか馬がいて、一台一台がていねいに追い抜いているからだ。

県道と国道が色分けされた道路地図

地図上で赤のNは国道で、速度制限が110kmのオートルート(自動車専用)もある。オランダなら街路樹をはさんでサイクリングコースがあるのだが、フランスはそこまで整備されているわけではないので、Nはコースプランからはずし、Dを選んで走るのが良い。ツール・ド・フランスもほぼ全てDを走っている。片側一車線の道路は観戦する際に選手との距離感も近くてちょうどいいのである。

ツール・ド・フランスのコースだと明示

D線は点在する集落をつないでいく。集落の中心には教会の尖塔が見えるのでここが中心かなとわかるのだが、必ず30km制限のエリアが出現し、それを示すためにスピードバンプが出現する。かまぼこ状の凸部だったり、滑り台のような曲面だったりで統一性がない。ロードバイクでさえ高速で突っ込んだらジャンプして危ないので、自らが十分に減速するとともに背後に別のサイクリスがいたら路面を指差したり声を上げて注意喚起してあげるのがいい。ちなみにプロはバニーホップでクリアすることもあるが、真似しなくていいと思う。

D線のマイルストーン。目的地までの距離、ここからのキロ単位の勾配、標高がわかる

3 フランス名物のロンポワン

Rond Point(ロンポワン)と呼ばれる環状交差点は信号のように停止しなくてもいい交通システム。英語ではRaoundabout(ラウンドアバウト)という。土地の広いフランスでは有効だが、サイクリストにとっては難所。簡単に言えば環の中を走っている車両に優先権があって、環から外に退出しようとする車に接触する可能性が高い。地元サイクリストでも大きなジェスチャーで「俺はまだ環の中で走る」「私は次の出口で曲がる」と意思表示する。

とはいえ、フランスの道路はサイクリスト向き。ドライバーの配慮もうれしい。ボク自身が車を運転するときも自転車をしっかりとリスペクトしてあげると、そのお礼にとびっきりの笑顔を返してくれる。フランス人っていいなあと思う。

ゴール前の直線

第3回は日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は初級者・中級者向け、ピレネー編は上級者向けだ。



🚴‍♂️取材歴30年ジャーナリストはこう観る ツール・ド・フランス2024(全3回)🚴‍♂️
#01
#02
#03

🚴‍♂️ツール・ド・フランスに関する山口さんの他記事はこちら(外部リンク)🚴‍♂️
・ツール・ド・フランスはパリ郊外にある「目覚まし時計」から始まった
・ツール・ド・フランスの裏方たち【みんな大好き広告キャラバン隊
・美しき南仏プロバンスには悪魔が棲むという山がある
・ボクのツール・ド・フランスはルーアンから始まった
聖地を目指す巡礼者たち…この旅はツール・ド・フランス発案の原点だ
・死ぬまでに泊まってみたいホテル…天文台で満天の星空を見る

Text_Kazuyuki Yamaguchi

Profile

山口和幸/Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ローイング競技などを追い、東京中日スポーツなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、『ツール・ド・フランス』(講談社現代新書)。ともに電書版。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

EVENT
Honolulu Century Ride2024 ツアーのご紹介

2024年9月28日(日)に開催されるホノルルセンチュリーライドのツアーをご紹介。初めての方でも皆で走れば安心!各社とも参加者をバックアップする、豊富なサポートをご用意しています。 株式会社ジャルパック https://www.jal.co.jp/jp/ja/intltour/hwi/centuryride/ 東武トップツアーズ株式会社 https://tobutoptours.jp/shop/3949/honolulucenturyride/

#Information
EVENT
「そこには間違いなく最高の経験が待っている」
BIKE NEW YORK (FIVE BORO BIKE TOUR)2025エントリー開始!
経験者によるライド回想記

text by 丸山果恋 夢のようなバイクニューヨークから一年。会う人皆から「ニューヨーク行ってたよね!」と聞かれるが、それがまだ夢のようで。。「やっぱり私、あのニューヨークを、、、自転車で走ってたよね!」と都度確認してしまう。 それくらい夢のようで、楽しくて、充実した旅だった。家族に相談はしたけど、ダメと言われても行くつもりだったから、、、(というか、ダメと言っても行くのわかっているから、行っておいで!と送り出された、、感謝ですね) 最高の経験をさせてもらったし、あの景色をまた見るため、そして新たな目標のためにまた頑張ろうって背中を押されるようなエネルギーを感じた。 今年(2025年)のエントリーが始まったバイクニューヨーク。少しでも気になったという人は、ぜひ行ってほしい。間違いなくあなたの人生を素晴らしい方向に導いてくれる経験が待っているから。 ここでは、ほんの少し私が昨年体験できたことをシェアしようと思う。 2024年5月3日、羽田発。 およそ13時間後にNYのジョン・エフ・ケネディ空港へ。 時差の関係で、到着時間は5月3日のお昼。飛行機ではワクワクしすぎて、遠足前日の子どもみたいに寝ることもできず、ひたすらソワソワ。到着後寝不足のままホテルにチェックイン。すぐに、先に到着していた日本チームと合流し、気がついたらもうセントラルパークを自転車で走っていた。 全てが心地よい。 アルベルトさんに案内いただきながら、公園内をサイクリング。道路に出ても、サイクリングロードが広く、スイスイ。その日の夕方にはエントリーをして、2日後のイベント本番に向けての準備完了。 BNY当日。3時3 […]

#New York
EVENT
ホノルルセンチュリーライド2024 ライダーインタビュー企画
ハワイで感じる風、そして…
〜なぜ、ハワイで自転車に? 中級者(出走2回目以上)編~

ホノルルセンチュリーライド(以下HCR)は、ハワイで最大の自転車イベント。そしてそれは、ライドをはじめ、フルマラソン、トライアスロンなどさまざまなイベントに参加してきた人たちが「人生に一度は参加したい」と思わせる終着点のようなイベント。HCRライダー企画の第3回では、今回で2回目以上の出走となる方々にインタビュー。「1回では足りない」、「好きな人たちとも共有したい」……。HCRに何度も来たくなるその魅力を聞きました。「あなたはなぜ、ハワイで自転車に?」 目次 1 とにかくボランティアスタッフのムードが最高/Yoshiさん、Junkoさん2 自転車部の仲間とホノルルを駆ける/小阪修さん、高芝恵理子さん、植田久美子さん3 いつも笑顔で、いつも二人で/遠藤貴博さん、研谷美月さん4 3回目だからこその風景を楽しみたい/原田真さん 1 とにかくボランティアスタッフのムードが最高/Yoshiさん、Junkoさん 「ホノルルセンチュリーライドの魅力は、参加者もスタッフも一体感があり、参加者のマナーが良いところ」と話してくれたYoshiさんとJunkoさん。 ほかの大会とも比較できるということは相当いろいろな場所で走られているとお見受けし尋ねたところ、お二人ともトライアスロンの常連者=トライアスリートだった。日本の大会だけでなく、ハワイでもここ10年ほど毎年参加しているという。そして、今年は5月のホノルルトライアスロンから間を置かず、9月開催のこの大会も参加を決めてしまった。1年に2回もハワイへ(贅沢すぎる?)…と逡巡しながら締め切りのギリギリまで考えた末に、ライドの爽快感を振り切れず申し込ん […]

#Interview