海外でもロードバイクに乗ってみたい
Honolulu Century Ride 2023 参戦記
#4 初めてハワイでのライド 試走編

ひょんなことからハワイで9月に行われるホノルルセンチュリーライド(以下、HCR)に参加することになった。自分のロードバイクを輪行で持ち込み、外国で走るのは初めての経験だ。
ここまでは、日本からの輪行、そしてハワイ到着後に感じたことを書いて来た。今回は、ハワイで初めて自転車に乗ったときの感動編。

ハワイについたその日。百戦錬磨のプロデューサー・渡辺さんとの打ち合わせがあった。渡辺さんは今回、ぼくのチャレンジに密着し、番組を作ることになっている。50すぎのおじさんのHCR初参戦にどれほどのヒキがあるのか、疑問でいっぱいではあるが、ぼくもテレビ業界の端くれで生きている。できるかぎりの協力はしたいと思っていた。
 
その打ち合わせの席で、渡辺さんはこう切り出した。
 
撮影もかねて、事前に少しハワイの道を走ってみませんか。
 
本番までの2日間、とくに予定は決まっていなかった。ちゃっかり水着はもってきていたが、ビーチにひとりでいくのも気恥ずかしい。かといって、ハワイで買い物三昧するほどリッチでもない。そんなぼくにとって、願ってもない申し出だった。
かつては大会前日にモーニングライドと称して、さまざまなグループが試走をしていたそうだ。旅行会社だったり、地元の有志だったりが企画していたが、コロナ禍によりHCRそのものの参加者が減ってしまい、いまでは少なくなってしまったそうだ。ただ事前に走っておいた方が、いろいろ安心なので、番組の撮影もかねて少し走りませんかと。

その翌日、ぼくはクルーとともに午前9時すぎにホテルを出発した。自転車もバラして車に積み込んだ。

車窓から見える風景は、どこを切り取ってもザ・ハワイ。もちろん人の手が入って、この風景を作り出しているのだけれど、からっとしたハワイ特有の空気の心地よさが、そこにリアリティを与えている。

ワイキキ
バス停ものんびり
ワイキキには立派な木々がたくさんある

「あのルックアウトで一回、停まりましょうか」

ワイキキを離れて、ダイヤモンドヘッドをぐるりと海沿いに回り込んでしばらく走ると、渡辺さんが口をひらいた。ルックアウトとは展望台のことだ。

「センチュリーライドの最初の眺望ポイントなんです。みんなここで写真を撮るんですよ。河瀬さんも本番の時に立ち寄ったらいいですよ。朝焼けがとても綺麗なんですよ」

われわれも車から降りてみる。大勢の観光客が車を止め、写真を撮っている。ダイヤモンドヘッド・ルックアウト、つまりダイヤモンドヘッド展望台だ。目の前には朝の光に照らされた海が広がる。息を飲むほど美しい。ハワイでは海の色は、太陽の光によって七変化する。浜に近いところからグラデーションで色が変わっていくのだ。ここでは、自然の美しさをこれでもかと見せつけられる。多くのカップルが写真を撮っているのが印象的だった。

ダイヤモンドヘッド・ルックアウトからの眺め
看板がかっこいいよね
多くの若いカップルが撮影していた

海の美しさを堪能し、ふたたびHCRのコースをなぞるように車ですすむ。コーヒーでも飲もうということになり、お店が立ち並ぶ一角に立ち寄った。編集者の嘉村さんが、jambaと書かれた店舗に目をつける。ヘルシーさを売りにしている感じのジュースチェーンだという。ハワイらしいじゃん、と盛り上がり、アサイーボウルを注文した。のちに調べたら日本にも上陸しているようだ。
アサイーは何度か番組で取り上げたことがある。そのたびに知ったかぶりをしていたが、実は一度も食べたことがなかった。フルーツがたっぷり乗っていて、その下にはアサイースムージーがたっぷり入っている。葡萄のような、ブルーベリーのような、あまずっぱい味がする。確かに健康によさそうだ。

気がつくと北川カメラマンがこちらにカメラを向けている。
 
おっさんがアサイーボウル食べる様子って、全く絵にならないだろうなぁと、思いながら、せっせとスムージーを口に運ぶ。朝ごはんを食べていなかったのでぺろっと完食。

 jambaジュース
美味しそうなスイーツがずらり
アサイーボウル
GoProを構える北川カメラマン

続いて立ち寄ったのは、HCRで最初のエイドステーションになる、サンディビーチ。地元の小学生たちが課外授業で海の生物を調べていた。黄色いスクールバスが、キアヌ・リーブスの「スピード」に出てくる、それだった。ああ、ここはアメリカなのだ、と改めて思い出す。

サンディビーチ
課外授業がめっちゃ楽しそう
左から渡辺さん、リカルドさん、北川さん
美しい木がぽつんとたっていた

HCRのコースには、ハワイの自然のダイナミックさを味わえる場所がたくさんある。なかでも屈指の絶景スポットがマカプー岬からの眺めだ。そこからは真っ青な海に浮かぶラビットアイランドを見下ろすことができる。日本語にすれば、うさぎ島とでもいうのだろうか。陸地には切り立った山が聳え立つ。なんともダイナミックな風景に心を奪われる。渡辺プロデューサーが北川カメラマンに、風景のおさえを発注していた。

ラビットアイランド
撮影する北川カメラマン
カメラごしのラビットアイランド
切り立つ山
車窓からみたラビットアイランド

次のエイドステーションまでは、およそ20キロ。一旦内陸に入り込み、ハイウエイをぬけて、市街地へと入っていく。
このあたりにはオバマ元大統領の育った家があるんですよ、と渡辺さんがいう。頻繁にハワイに来ていている渡辺さんが、このあたりで地元の人と話すと、必ずその話をされるらしい。オバマがハワイ出身だなんて知らなかった。Wikiで調べると、確かにハワイ出身だ。大統領を輩出したなんて、街の誇りなんだろう。住宅街の真ん中にある中学校が、スタートから2箇所目のエイドステーションだという。

「このあたりを少し走ってみましょうか」と渡辺さん。

望むところだ。ぼくの黒いトレック・流星号もうずうずしているはずだ。

学校の駐車場で自転車を組む
渡辺さんから撮影の段取りを聞く

車からバイクを出して、ビンディングシューズへと履き替え、グローブとヘルメットを身につける。淡々と支度をしているように振る舞っていたが、実は、心臓がブルブルとふるえるほど感動していた。だって初めてロードバイクで海外の道を走るんですよ。しかも自分のバイクで、ですよ。そりゃ感動しますよ。そんな様子を撮影クルーには悟られぬよう、撮影クルーからの指示を聞く。あとからその時の写真を見たら、めっちゃにやついていた。なんだ、バレバレやん。

渡辺さんが撮影の段取りを説明してくれる。

撮影は車窓から行う。そのために僕の自転車と並走する。スピードを出す必要はない。とにかく安全に。しばらく走ると、大きな道に出る、そこを右折すると綺麗な並木道。そこでも撮影する。

身体を自転車に馴染ませるよう、学校の駐車場をゆっくりと一周してみる。タイヤのブレはない。ブレーキもしっかり効く。うん、悪くない。

クルーに目配せして、学校から道へと飛び出した。

ハワイはアメリカであるから、車両は、日本とは逆の右側通行である。最初はそのことに戸惑うが、他の車の流れに合わせればいいので、すぐに慣れることができた。問題は左折。アメリカでは自転車は車と同じ扱いなので、日本のように2段階ではなく、車と同じように道路中央まで出ていき、一気に曲がる。これには少し躊躇があった。しかしハワイの車は、自転車との並走に慣れているので、これも次第に慣れる。
少し慣れてきたところで、スピードを上げてみる。日差しはそれなりにきついが、カラッとしていて、顔に当たる風が気持ちがよい。

そうか、これがハワイか。かなり控えめにいって、最高じゃないか。

Photo by Global Ride

もしよければもう少し撮影したので、もう一箇所、走ってもらえますか、と渡辺さん。次の場所とは、有名なクワロラランチの近くの絶景ポイント。車を停めた場所からは、チャイナハットアイランドが見える。ここでもカップルが記念撮影している。こんな絶景なら、誰でもインスタグラマーになれそうだ。それにしても、ハワイでみるカップルがみんな幸せそうに笑っている。
駐車場から道に飛び出すと、キングコングでも出てきそうな切り立った山を横目に、長いストレートが続く。スピードを出しても危険はなさそうだ。ギアをアウターにいれ、ぐんぐんとペダルを踏む。雄大な風景のただなかを風をびゅんびゅんきって走る。

ああ、なんて心地がよいんだろう。

このままずっと走っていたい気持ちになる。

チャイナハットアイランドとカップル
ベンチでのんびり
撮影の準備をするクルー
右手に見えるのが、クワロラランチ

撮影を終え、車に戻ると、渡辺さんがこういった。

この先が折り返し地点なんですが、そこまでの10キロは、最高の景色が続きます。それは本番にとっておきましょう。これまでたくさんの人のHCRチャレンジを撮影してきましたが、ある人はその光景をご褒美だって言ってました。長い距離をずーっと走ってきて、たどり着く景色です。楽しみにしていてください。

ここまでだって最高の景色をいっぱいみてきたのに、もっとすごい絶景があるのか。ますますワクワクが止まらないじゃないですか。

しかし…はたと冷静になる。

今日はいいとこどりをして走っただけだけど、ホノルルセンチュリーライドは総走行距離160キロだ。160キロって、東京から静岡市ぐらいまでいけちゃう距離だぞ。今日の下見でそれになりにアップダウンもあるということも判明した。慣れない外国でのライド、パンクも多いと聞く。リタイヤすることもありうる。今からできることは、身体を休めることだ。本番前日は、なるべく早く寝よう。

そんなことを考えながら、帰り道、車窓を眺めていた。

そして本番、とんでもないアクシデントに見舞われることになるのだが、それは次回の講釈で。

Text & Photo_Daisaku Kawase

🚴‍♂️Honolulu Century Ride 2023 参戦記🚴‍♂️

#01 輪行、それはいつも悩ましい(前編)
#02 輪行、それはいつも悩ましい(後編)
#03 ハワイは、ものすごくハワイだった
#04 初めてハワイでのライド 試走編
#05 ライド!ホノルル・センチュリー・ライド!

Profile

河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。

CULTURE
輪行プロフェッショナルがお届けする
輪行ガイド(国内編 #02)

こんにちは、温玉ねぎとろです。輪行ガイド(国内編 #01)に続き、本記事では主にバスを利用する際の注意点と宿泊施設について解説します。*2024年8月現時点での調べ 目次 2. 国内輪行のルールと状況 2-6 バス(高速バス・空港連絡バス) 2-7 バス(路線バス) 2-8 飛行機3. 輪行の受け入れ態勢/宿泊施設4. まとめ 2-6 大型バス(高速バス/空港リムジンバス/共同運行バス) 高速バス<専用の輪行袋の使用規定>・輪行袋に収納している・混雑時は使用できない可能性がある 基本的には電車と同じ場合が多いです。輪行袋に収納しているということを条件に許可をしている場合もありますので、使用される予定のバス会社の規定を確認しましょう。 <バスでの輪行について>現在の日本国内ではバスで輪行する長距離移動は少し難しい状況にあります。というのも、以前までは数社の高速バス会社で輪行の受け入れを行っていたのですが、現在はサービスが終了している場合が多いです。そのため、バスで輪行する場合はしっかりと該当路線の規定を確認し、必要であればバス会社に電話をして確認をしましょう。2024年現在、高速バス・都市間バスなどの長距離移動をするバスでは輪行を受け付けていない場合が多いです。 また、規定としては以下のような場合が多いです。 ・輪行袋に収納している・混雑時は使用できない可能性がある バスの場合はトランクルームのサイズに限りがあるので、なるべくコンパクトに収まるように工夫をしましょう。基本的にはトランクがあるバスの一部で輪行可能な場合があるという認識です。都市間バスに関しては、鉄道在来線が衰退もし […]

#Hotel #How to
CULTURE
輪行プロフェッショナルがお届けする
輪行ガイド(国内編 #01)

こんにちは、温玉ねぎとろです。 今回は国内で自転車旅行やイベント参加する際には避けては通れない国内輪行について、国内外を自転車で旅した経験を基に簡単にご紹介したいと思います。自転車は飛行機や電車、フェリーなど様々な乗り物と組み合わせて移動することができる自由度の高い乗り物です。上手く交通機関と組み合わせることで、ちょっと遠いと感じていた地方のイベントにも足を運んでみましょう!*2024年8月現時点での調べ 目次 1. 輪行の歴史と文化2. 国内輪行のルールと状況 2-1 JR 2-2 新幹線 2-3 私鉄各社 2-4 サイクルトレイン 2-5 フェリー・渡船 現在の日本国内では自転車と共に移動する「輪行」が可能です。在来線、新幹線、一部バス、飛行機、フェリーなど多くの交通機関では自転車の両輪を外して「輪行袋」という専用のケースにいれることで交通機関に自転車を持ち込むことができます。ちなみに、海外では電車やバスにはそのまま持ち込めることが多く、輪行袋を珍しがられることも少なくありません。 1 輪行の歴史と文化 そもそも「輪行」は競輪選手が競技場まで移動するための手段として登場しました。その後、日本サイクリング協会と国鉄との交渉によって1970年代に自転車を分解して袋にいれることを前提として、一般のサイクリストの乗車も許可されました。これが現在の輪行文化の発端になります。海外では輪行袋を使用する文化はなく、路線や国にもよりますが基本的には自転車を解体せずに持ち込むことができる場合が多いです。日本では先人たちの活動の積み重ねが輪行という形となり、私たちが交通機関と自転車を組み合わせて […]

#How to #Japan
CULTURE
輪行プロフェッショナルがお届けする
輪行ガイド(海外編)

こんにちは、自転車関連のガジェットとツーリング記など掲載しているブログ「自転車旅行研究会」主催の温玉ねぎとろと申します。本業の傍ら、webサイト上で自転車ツーリングについての記録や考察を行っています。これまで10カ国以上で海外ライド旅行を行い、国内旅行も含めて自力での輪行経験は多数。今回は夏休みを目前に、海外の自転車イベントへ参加する際に避けては通れない、飛行機での輪行(飛行機輪行)の方法について、簡単にご紹介したいと思います。 目次 1 飛行機のチケットを予約する前に2 航空会社の対自転車規定を知る3 注意が必要な荷物について 3-1 手荷物、預け入れ荷物両方で不可 3-2 預け入れ荷物が不可 3-3 手荷物が不可で預け入れ荷物のみがOK4 飛行機輪行時の梱包方法 4-1 輪行袋ごとのリスクについて 4-2 自転車用段ボール 4-3 飛行機用輪行袋 4-4 布製輪行袋 4-5 貸出輪行箱 4-6 メリット・デメリットまとめ 4-7 その他:スーツケース5 空港までの運搬方法 5-1 自転車で自走 5-2 自家用車、タクシーなど 5-3 電車 5-4 空港連絡バスなど 5-5 宅急便など6 飛行機輪行お役立ちグッズ7 まとめ 1 飛行機のチケットを予約する前に まず、飛行機のチケットを予約する際には航空会社の自転車に関する規定について確認をしましょう。取り扱いは航空会社ごとに異なる可能性があります。場合により事前に連絡が必要な場合もあります。特に自転車イベントなどで輪行客が多いと予想される際には、前もって航空会社に自転車を持ち込む旨を連絡しましょう。LCCなどでは別途料金を支払 […]

#How to #Goods