海外でもロードバイクに乗ってみたい
Honolulu Century Ride 2023 参戦記
#5 ライド!ホノルル・センチュリー・ライド!

人生でこんな日がくるなんて、思いもしなかった。
40年の歴史を誇るホノルル・センリュリー・ライド(以下HCR)にゲストライダーとして招かれることになるなんて。しかもそのライドが番組のためにプロの制作チームに記録されるなんて。

ここまでは、日本からの輪行、初めてのハワイの印象、そしてハワイでの試走について書いてきた。そしていよいよHCR本番。

ライド前夜は、どこか気持ちが落ち着かなかった。がっつり食べちゃうと身体が重くなると思い、ABCストアで買ったカリフォルニアロールみたいなお寿司半分、野菜のあえ物を、ホテルの部屋でモソモソ食べた。

就寝前にはウエアや携帯するパンク修理キットを準備した。
今回、もらったゼッケンは40番。40回目となるホノルルセンチュリーライドでこのゼッケンをつけるのはなんと名誉なことだろう。そんなことを考えながら、まるで遠足前夜の園児のようにワクワクしながら、床についた。

実は、翌日の本番、とんでもないアクシデントをおこしてしまうのだが、もちろんこの時点では知る由もない。

翌朝は5時すぎにホテルを出発。スタート地点まで自転車で向かう。夜明け前で道路はまだ薄暗い。近づくにつれ自転車の数が増えてくる。
プロデューサーの渡辺さんとの待ち合わせ場所に着くと、大会を撮影するスチールやムービーのカメラマンたちが準備をしていた。北川さんは黄色い三輪バイクで自転車に並走するらしい。

今回、僕は先頭グループからのスタート。混み合う前にと、スタートゲートを背景にゼッケン40番の写真を撮ってもらった。
スタート時刻が近づくと北川カメラマンが撮影を始める。何度も言うけれども、50過ぎのおじさんのチャレンジに、そんなに引きがあるとは思えない。でもそれは僕が考えることではない。カメラを向ける北川さんを逆にiPhoneでパチリ。
今年、HCRに参加するライダーは1300人ほど。 日本からも350人が参加するという。
次第に道路がバイクで埋め尽くされていく。期待と興奮が入り混じり、熱を帯びていく。
ぼくはこの瞬間が大好きだ。

夜明けとともに、スタートフラッグが振られた。

次々と160kmという長い道のりへと漕ぎ出していくライダーたち。その一群に混じってペダルを漕ぐ。刻一刻と日が昇り、東の空が燃えるようなオレンジになっていく。

HCRを完走するために、ぼくはひとつのことを決めていた。

序盤、決して飛ばさない。

160kmはそれなりに長い。前半で足を使ってしまえば、後半しんどくなる。いつもは先頭集団に食らいつくようにペダルを踏みがちだが、今回はぐっと我慢。ゆっくりと景色を楽しんで走るよう自分に言い聞かせる。

ワイキキを離れ、ダイヤモンドヘッドを舐めるように走っていくと、最初のLook Outにさしかかる。自転車を止めて海を眺める。太陽が人々を黄金色に染め上げる。その美しさに心を奪われる。

見知った顔を見つけた。日本のロードレース界のレジェンド、今中大介さんだ。日本人として初めてツールドフランス参加、自らインターマックスと言うロードバイクのブランドを率いるスーパースターだ。 外国にいるという解放感もあってか、思わず声をかけた。ぼくは一度、ラジオで今中さんの弟さんとご一緒したことがある。そんなことから切り出して、元NHKのプロデューサーであること、突撃カネオくんという番組をやっていることなど、速射砲のように並び立てた。今中さんはニコニコしながら、そうですかそうですかと話を聞いてくれた。
その様子を見ていたプロデューサーの渡辺さんが、おひさしぶりです、と声をかける。かつて番組でご一緒したことがあるのだという。さすが渡辺さん、顔が広い。
こんなチャンスは滅多にないだろうと、厚かましくも今中さんと写真を撮ってもらう。 ハワイの朝焼けの中でのツーショット、家宝に決定である。

空はどんどん明るくなり、気温も上がってくる。ハイウェイを抜けて、しばらくすると長い坂が見えてくる。ライダーたちが上り坂でぐっと減速し、団子状に重なり始める。斜度はそれほどでもないが、だらだらと長い坂だ。 インナーローで、くるくるとペダルを回しながらゆっくり上っていく。

コロナ禍のなかでは、日本国内のファンライドもままならなかった。こんなふうに世界中のライダーたちと一緒に走れるなんて夢みたいだ。

スタートして1時間ほどで最初のエイドステーションに到着。20kmの地点にあるサンディ・ビーチ・パーク(Sandy Beach Park)だ。ここでは大量のドーナツが振る舞われていた。手作りの大きなドーナツを2つか3つに切り分けたもので、紅芋が入っているのか、紫がかっている。 ほおばると砂糖の甘さがしみる。朝ごはんもそこそこだったせいか、ドーナツを3つ平らげる。
もちろん全エイドステーションで給水もできる。ハワイでは空気がカラッと乾いているせいかボトルの水の減りが早い。よく冷えた水をボトルにいっぱいに詰め、コースに戻る。

ホノルルセンチュリーライド屈指の絶景ポイント、マカプウ岬(Makapuu Point)に差し掛かる頃には、すっかり空は明るくなり、海は美しいグラデーションを見せる。
ここで再び、レジェンド今中さんにばったり。厚かましくもまたまたツーショットをぱちり。ハワイはすごいなぁ、家宝がどんどん増えていく。

マカプウ岬をこえると、まもなく海岸から少し内陸にはいり、ジャングルエリアに突入する。鬱蒼と木々が茂った林のなかの道が続くのでそう呼ばれている。

ここまでですでに、絶景の連続、そして今中大介さんとの出会いなど、テンション爆上がりのイベントの連続。ジャングルエリアをしばらく走っていると、疲れを感じ始める。おいおいペースを抑えているのに、もう疲れてるってどうなんだ、まだ30kmぐらいしか走ってないぞ、先は長いんだぞ、と自分に言い聞かすものの、お尻は痛くなってくるし、ペダルをこぐ脚も重く感じ始める。あかん、このままだと最後まで走りきれんかもしれん。むくむく不安が大きくなってくる。
誰かについて行こうと考えたが、顔を上げれば前のライダーとは遠く離れている。この距離を詰めるのはそれなりにパワーが要りそうだ。気温も上がってきて、少し頭もぼーっとしてきた。

その時だった。

背中からふわっと、しかし力強いアシストがかかる。ぐおおおんと自転車が加速、瞬間的に時速が10kmほど上がる。

おおおお!なんだなんだ!この爆裂アシストは!

「河瀬さん!」

横に並んだのは、なんとあの今中さんだった。

「いやー選手時代もこうやってよく押したんですよ。ソックスあげる時とか、他の選手がなにかしなきゃいけない時に遅れないように」

それにしても強力なアシストだ。巨人の指で後ろから押されたぐらいの猛烈なパワーを感じる。これがプロの脚力なのか。

今中さんと並走しながら、しばらく世間話。惜しむべきはこのときの写真を撮らなかったこと。でもこの猛アシストのおかげで、すっかりと元気を取り戻す。マラソンもそうだけど、ほんとスポーツってメンタルの力が大きいのだなぁと痛感する。

「じゃあちょっと先にいってきます」

と言い残すと今中さんがグンと加速した。ついていこうとしたが、あっという間にちぎられる。ありがとう!今中さん!

スタートから2時間ほどで、2つめのエイドステーション、カイルア中学校(Kailua Intermediate School)に到着。ここまででおよそ40km、全行程の4分の1を走ったことになる。ここでピーナツバターを塗ったクラッカーにバナナを乗せた、カナッペのような補給食を発見。これが実に美味しい。糖分をがっつり摂れるし、塩分も摂れる。この先のエイドステーションでもこればっかり食べていた。

ここで…致命的なミスを犯す。

出口を間違え、スタート地点へと折り返してしまったのだ。

参加者の中には、この40km地点で折り返す人もいる。その流れに間違えて乗ってしまい、ぐんぐんと逆走してしまったのだ。どうもおかしい、と思いながらも、30分ほど来た道をもどっていた。ぼくを見失った北川カメラマンがあわててバイクでおっかけてきてくれ、かわせさーん!コース間違ってます!と声をかけてくれた。ミスに気づいた時には、すでに10kmほど逆走していた。あわててUターンし、来た道を引き返しカイルア中学校に戻る。この時点で20kmのビハインドだ。

と、ここで…あることに気づく。

実はHCRには、足切りのポイントがある。この次のエイドステーションを10時30分に通過しないと、コースクローズドとなり、先に進めなくなるのだ。前半、のんびりと走ったこともあり、この時点ですでに9時30分を回っていた。距離はおよそ20km。トロトロと走っていると、足切りになりかねない。まずい。スピードをあげなければ。

ひたすらペダルを踏みまくる。写真を撮っている余裕はない。とにかく完走だけはしなければ、このライドに招いてくれたチームにも、撮影してくれているクルーにも顔が立たない。

足切りの15分ぐらい前。なんとか次のエイドステーションのカハルー・ビーチ(Kahalu’u Beach Park)に滑りこむ。

間に合った!

プロデューサーの渡辺さんがニコニコしながら声をかけてきた。

「河瀬さん、迷った時は焦りました。でも速かったですよ。予想よりずっと早くここに辿り着きました。よかったです。この先は”絶景のご褒美”が待ってますよ」

ご褒美とは、100マイル折り返し地点までのラスト10km。ここはHCRのなかでも最も美しい区間だ。海が間近に迫る、超絶絶景な道をずっとずっと走り続けることができる。その美しさは格別だ。自撮りをしたら、顔がにやけていた。そりゃ、こんな絶景を前にしたら、にやけるよな。

お昼前には、100マイル折り返しのエイドステーション、スワンジー・ビーチ・パーク(Swanzy Beach Park)に到着。すると渡辺さんからこう声をかけられた。

「ここで少しインタビュー、させていただいてもいいですか」

「もちろんです」

「では、カメラのセッティングをするので、5分後にさせてください」

近くにベンチを見つけ、腰を下ろす。ああ、ここで一休みしよう。ここまでほぼ休みなしに走ってきた。まだ80km残っている。いずれにしても少し身体を休めた方がいいだろう。

海からの風が気持ちいい。シューズを脱ぎ、ゴロリと横になる。見上げると、大きな白い雲が見えた。

さまざまなご縁があって、今、ハワイにいる。ゆったりと形を変えながら流れていく、あの雲のように、ぼくの人生も少しずつ変化しながら、前に進んでいる。ほんと、人生とは不思議なものだ。

帰りは、追い風なのか、ペダルが軽い。
ほとんど休憩は取らず、足をまわしつづける。

午後になり、気温がぐんぐんと上がっていく。

エイドステーションでは、望めばボランティアの学生たちが、ホースでじゃばじゃば水をかけてくれる。顔や首などがざらざらしている。汗にふくまれる塩が結晶化しているのだ。そんなぼくにとって、学生たちの放水は天国だった。

それからも、寡黙に、淡々と、ペダルを漕ぎ続ける。

残り20kmを切ると、こんな気持ちが芽生えてくる。

「ああ、もうすぐ終わっちゃう」

そうなのだ。この奇跡のような旅はまもなくゴールを迎えるのだ。

周囲のライダーたちと、声をかけあいながら長い道のりを走ってきた。グアムからきた女性とは、午後の暑さを共に愚痴ったし、アメリカからきた長身の男性とは、マカプウ岬の上りのきびしさをわかちあった。ベトナムからのチームには、長い距離をひいてもらった。今中さんとも、世間話をした。サドルの上の刹那のコミュニケーション、そのどれもが愛おしい。

ゴールでは、プロデューサーの渡辺さんはじめ、カメラマンの北川さん、リカルドさん、編集者の嘉村さんたちが出迎えてくれた。

どっと力が抜けた。

途中、道を間違え、かなりのロスを出したけれど、なんとか完走に漕ぎ着けた。完走、おめでとうございます!とたくさんの人が声をかけてくれる。

完走証をうけとると、感慨が湧き上がっていた。

渡辺さんが完走後のインタビューを撮りたいという。ただセッティングをするので10分ほど、休んでいてくださいとのこと。

ぽかっと時間ができた。シューズを脱いで、芝生にごろりと横になる。ハワイの風が、ほてった身体に心地よい。見上げると、木々がザワザワと揺れている。もしこの世に、天国のポップアップショップがあるとするならば、まちがいなく今、この瞬間だな、と思う。

翌日の朝、荷物をまとめて帰国の途についた。

54歳の夏のチャレンジはこれで終わりだ。ロードバイクをかついで旅することは、いつもぼくの世界を広げてくれる。今回もたくさんの出会いがあり、感動があった。

きっと近いうちにまた旅にでるだろう。

そのときは、またここでお会いできれば嬉しいです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

Text & Photo_Daisaku Kawase

🚴‍♂️Honolulu Century Ride 2023 参戦記🚴‍♂️

#01 輪行、それはいつも悩ましい(前編)
#02 輪行、それはいつも悩ましい(後編)
#03 ハワイは、ものすごくハワイだった
#04 初めてハワイでのライド 試走編

#05 ライド!ホノルル・センチュリー・ライド!

Profile

河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。

FEATURE EVENT
ホノルルセンチュリーライド2024 ライダーインタビュー企画
ハワイで感じる風、そして…
〜なぜ、ハワイで自転車に? 初出場者編 ①

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