ハワイ、この世で最もライドすべき場所
今回、僕は確信した。
ホノルルセンリュリーライド(以下、HCR)は、地球上で最も最高のライドだ。
ハワイを走るのは去年に続き、今年で2度目となる。Global Ride(以下GR)のコミュニケーションディレクターとしてどう関わるべきか、ずっと考えあぐねていた。去年は、160キロを完走しようと夢中で走った。そもそも海外でロードバイクに乗るのは初めてだったし、すべてにワクワクした。
しかし今年は2度目。あの感動は味わえないだろうと思っていた。だからあえてライダー目線ではなく、GR編集チームの車に乗ってフォトグラファーとしてHCRの様子やライド中に見える絶景などを写真で切り取ることに専念しようと思っていた。
ところが本番当日。気がつけば、どしゃ降りの雨のなかペダルをこぎながら、身体中の全細胞がザワザワするほどの喜びを味わっている自分がいた。
いや、すごすぎるよ。ハワイ。
2度目にして、これほどまでの感動を味わえるとは思ってもみなかった。
火山が生み出した雄大な景色、ハワイ特有の気候、心優しき人々、そのすべてが、他では得難いライド体験を生み出す。
そのワクワクはスタート前から始まる。
本番当日の朝5時すぎ。カピオラニ公園に、世界各地からライダーたちが集まってくる。その顔にはこれから始まるライドへの期待がみなぎっている。ワイキキ特有の乾いた風がさあーっと吹く。なんという幸せな光景なのか。今回は走らないと決めていた自分も、ワクワクしてきて、身体がむずむずする。
ライダーのシルエットが美しい
朝焼けのなかでの記念撮影
大自然が魅せる最高のエンターテインメント
昇る朝日が、海を、山を、ライダーたちを黄金色に染め上げていく。そんな中、ペダルを漕ぐ音、タイヤがアスファルトを滑る音だけが響く。日の出とともに出走するHCRは、序盤の25キロこそが、最も美しいと僕は思っている。ダイヤモンドヘッド、そしてマカプウ岬という、絶景を拝めるルックアウトが2つある。
ダイヤモンドヘッドのルックアウトでは、朝日が上るにつれて刻々と変わる壮絶なほど美しい海を望むことができる。
20キロ地点には最初のエイドステーション・サンディビーチがあり、海からのぼる朝日を浴びながら多くのライダーたちが足を休める。
そしてそこからおよそ4キロ、ヒルクライムを上り切った先にマカプウ岬のルックアウトがある。うさぎの形をしたラビットアイランドが浮かぶ青い海、そして胸がひやっとするほどに異様に切り立った山が一望できる、HCRきっての絶景ポイントだ。
地球という、雄大な自然のなかに、自分の脚力だけで分け入っていく感覚こそがロングライドの真骨頂だと思っている。
これまで日本各地で、そしてNYで、自転車で走ってきた。しかしこれほどまでに、美しい風景が連続して現れる体験ができる場所を他に知らない。
ラビットアイランドを望む
切り立つ山に、グラデーションの海
魂が震えるぐらい美しい
スタートから車で移動しながら、美しい景色の中を走っているライダーたちをみていて、ひとつの思いがむくむくと立ち上がってきた。
「自分も走りたい」
僕のブロンプトンは4速で、激坂を登るにはあまり適していない。しかしここから先はフラットな道は続くはず。次のエイドステーションまでの距離はほんの15キロだ。
他のクルーたちに話すと、自転車の上から、HCRを切り取るのも悪くないですよね、と賛同してくれる。となれば善は急げだ。
車を停め、ブロンプトンを組んで、走り出す。
ハワイらしい街並みがさあーっと流れていく。ワクワクが身体中に満ちてくるのを感じる。ペダルも軽い。ああ、最高だ。やっぱりライドは見るもんじゃない。一緒に走るものなんだ。
ジャングルロードといわれるワイナマロ地区にはいると、ポツリポツリと雨が降ってきた。実はハワイではスコールがよく降る。
このまま降り続くとまずい。
Tシャツに短パンで、ずぶ濡れは避けたい。
そんな僕の想いをよそに、雨はどんどん強くなる。そしてあっという間にどしゃ降りに。襷掛けにもっていたカメラもずぶ濡れになってしまう。これは最悪だ。
ところが、もうどうしようもないほど濡れてしまうと、逆にどんどん楽しくなってきた。 他のライダーたちも、あまりの雨に、気持ちが高揚し大声で叫んだりしている。
そう、ライドは冒険なんだ。どしゃ降りだって、ウエルカムだ。カメラも防塵防滴だし、ある程度濡れたった平気だろう。
雨は10分ほどで上がり、青空が広がった。さわやかな風がさーっと吹く。Tシャツはビッシャビシャだ。でもこの心地ちよい風のおかげで、不快さはない。
3つ目のエイドステーションで、再びクルーたちと合流。ボトルも持たずに走り出したので、喉がカラカラだった。ごくごくと喉を鳴らしながら、紙コップで水を立て続けに3杯飲んだ。
「ビショ濡れですね。もう一区間走って乾かしますか」
編集の嘉村さんがいう。なるほど。その手があったか。身体もあったまってきた。まだまだ走り足りない。それに車に乗って写真を撮っても、客観的な絵にしかならない。ライドのワクワクが伝わるような写真をGRの読者の皆さんに届けるためにも走らなきゃならない。
どうせなら、100マイルコースの折り返し地点まで走ることにした。
こうしたヒルクラムもHCRの醍醐味
ストーンズにニールヤング、ホール&オーツなど
ご機嫌なロックを流していた
海を眺めならのこの最後の区間は
ここまでがんばってきたご褒美だ
少し荒れた雨を横目にライド
自然の力強さを間近に感じる
そんなこんなで結局、100マイルの折り返し地点までを走破した。
ラスト10キロで、ふたたび雨に降られて、ふたたびTシャツはベチョベチョに。もうでもそんなこと気にならないぐらい清々しい気持ちだ。
まだまだ走れる。でも、今年はこれで充分だった。
エイドで水をごくごく飲んで、おにぎりをみっつほおばった。
GR編集長の今村さんが新品のTシャツを貸してくれた。パリッと乾いたTシャツを着るとライドで昂っていた気持ちが凪いでいく。
ブロンプトンをたたみ、車に積み込んだ。
さあ、ふたたびカピオラニ公園へ戻ろう。
ふたたび車でカピオラニ公園へ。
すでにたくさんのライダーたちがゴールしていた。
どの顔にも達成感がみなぎっている。
その姿が眩しくて、少し羨ましかった。
ホノルルセンリュリーライドは、地球上で、最も最高のライドだ。
今回、2度目の僕はそれを確信した。
そして、きっと3度目にはまた違う喜びがあるだろう。
もし来年も、ここに来ることができるのなら、もう一度、160キロを走りたい。
ハワイの雄大さを楽しむには、それが一番なのだから。
Text & Photo_Daisaku Kawase
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Profile
河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表、GlobalRide コミュニケーションディレクター
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。
投稿日:2024.10.11