#01 愛媛・潮風と山を堪能できる11のサイクリングロード
秋深まる好日、松山空港に輪行バッグを抱えた外国人の一団が到着。シドニー、メルボルン、ブリスベンなど、オーストラリアの主要都市を拠点に活動するメディア関係者、旅行会社スタッフ、インフルエンサーなど多彩な面々だ。恒例となった愛媛一周プレスツアーに招聘されたオーストラリアのサイクリストたちだ。行程を確認すると、定番のしまなみ海道やUFOラインに加え、山岳景勝地として名高い四国カルストへのビッグクライム、南予のリアス海岸線ライド、佐田岬巡り、さらに各地の遍路道を巡り、終着地の松山道後温泉を目指す、多彩な愛媛一周ライドとなっている。今年は、連日100km超のロングライドが設定され、チャレンジングな内容だ。愛媛県の本気度は2年目にしても半可ではないし、対するオーストラリアン軍団の英気とて見るからに十分。互いにがっぷり四つの格好だ。この国内では珍しい超本格プレスライドツアーに、今年も本誌カメラマンが全日程帯同。伊予柑のようにフレッシュなレポートを、ぎゅぎゅっと絞って撮って出し!いざ!
Text & Photos by Eigo Shimojo
愛媛旅のはじまりは、しまなみ海道から、と決まってはいるのだが…、初日は生憎の雨模様。それでも定刻前には、メンバー全員サイクルジャージに正装して集合している。オージーの士気の高さよ。しかし、予報芳しくないので、安全優先、ひとまずルートを車で辿ることに。車中からも熱心にルートを観察し、ガイドの説明に耳を傾けてライドをイメージする様子の面々。不本意な状況でも、車中明るいオージーたち。高台からの眺望を得ようと、しまなみ海道定番のヒルクライムルートで亀老山頂上へ上がった。自然との調和をテーマとする国際的建築家である隈研吾が、若かりし日に設計した展望台からの眺望は、しまなみ海道随一なのだ。雨雲の合間に霞む瀬戸内の島並みも、それはそれでオツなものだ。ついで大三島へ移動し、古へより信仰を集める大山祇神社へ参拝する。樹齢2600年!の楠の巨木をくぐり、本殿を参詣。境内を散策しながら、午後は乗りたいねー、と願う彼らを、天は見ていたのか、昼頃に小降りになってきた。ランチを、瀬戸内の地物海鮮丼で満たし、心身とも燃料満タン、準備万端だ。回復傾向の予報に、多少の雨は織り込んで、ライド敢行と決まった!そうとなれば善は急げで、本日のハイライトルート、”ゆめしま海道”へ向かった。
”ゆめしま海道”は、しまなみ海道東側にある4つの島をつないで新設されたサイクリングルート。しまなみ海道東側の上島町を形作る弓削島、岩城島、佐島、生名島の4島を、新設された橋でつないだ、全長63.1kmの新ルートだ。因島からの短いながらフェリーアクセスが必要だが、そんな一手間も、旅情を誘う。”しまなみ”の奥に広がる”ゆめしま”の響きが良い。海外にも名を響かせるしまなみ海道ライドを、旅のメインディッシュに据えている参加者は多く、皆の目の輝きも違っている。
上島町の観光拠点「サイクルオアシス」で、ライトなレイン装備で整えた一行は、さっそくゆめしま街道へと滑り出した。ここまで焦らされた想いをペダルに乗せ、海岸線に水しぶきをあげて、オーストラリアントレインが加速する。日本人なら、瀬戸内の美観は雨などで遜色しないことを知っているが、彼らもそれに気づきつつある。曇天、または雨で湿度の飽和したような大気にこそ、日本的美、旅情は増すものだ。侘び、寂びである。弓削島の海岸線、乳白色のやわらかな背景に島影が流れ過ぎていく。午後のひっそりした漁村の路地を抜け、”ゆめしま”を繋ぐ新しい橋へと駆け上がる。エリアは小さくとも、景色や風土の濃さに変わりはない。踏みきれる60kmほどのコンパクトなルート、パンチの効いたアップダウンに単調さはない。雨も良いが、晴れならばなお…、などと言うまでもないだろう。なにより、びしょ濡れの笑顔が物語っている。”ゆめしま海道”が、しまなみ海道の新しい顔になる予感を、ビシビシと感じるライドとなった。
ライド2日目は、愛媛の山へと向かう。目指すは屈指の山岳サイクリングルート、”UFOライン”。西日本最高峰の石槌山系を巡る絶景ルートだ。しかし、海に面した西条市内の海抜ほぼ0mから、一気に1700mの高地へ駆け上がるのだから、気合が入る。朝まで降っていた雨は上がり、雲間から朝日が差してくる。清々しい空気の中、渓谷沿いに徐々に狭まる長い登坂を、脚の合う者同志でパックになって登ってゆく。樹林帯の九十九折の道の、程よい勾配を行けば、背の高い、まっすぐな杉の木立の間をすり抜けた光が、キラキラと遊ぶ。見え隠れする稜線が、朝日を受け輝いている。ロブ、アダム、ピーター、マークの4人と、徒然にサドルトークを交わし、気心も知れてくる。紅葉の斜面を、昨日の雨水を束ねた清冽な滝筋が、谷底へと落ちていく。不意に訪れるシャッターチャンスが悩ましい。皆スマホを構えて行きつ戻りつ、せわしいクライミングを経て、ようやくUFOラインの入口に取り付いた。気づけば標高は1000mを越えていた。コーヒーに特に目がないオージーたちのために、ガイドのサムさんとミホさんが淹れてくれたコーヒーとスイーツが嬉しい。四国山脈に抱かれ、至福の珈琲タイムに和む。
カフェインを摂取したら、いよいよUFOラインに突入。ここからまだ700mほど登る。寒風山や伊予富士、瓶ヶ森といった石鎚山系の名峰をトラバースしながらのアップダウンで高度を上げていく。遅い紅葉もいよいよ色づく。崖を荒々しく穿ったな隧道や切り通しをいくつも抜ける。やがて木々はまばらに、樹高も低くなる。森林限界を自力で越えていくのは、格別の感がある。視界が開け、見晴らす四国山陵の遠景には、非の打ちようもない。尾根が間近に近づくと、勾配は緩んで熊笹の繁る草原の一本道となった。道の先では、自念子ノ頭、1701mの頂を天に向けている。UFOラインで最もシンボリックな稜線が、絶景かな!

急に、尾根を渡る冷たい風が吹き抜ける。突如目の前が白く閉ざされると、どうやら雲に巻かれたらしい。少し先を走る仲間の背中も見えなくなるほど濃い霧があたりを覆う。上も下もない真っ白な世界は、UFOラインの名にふさわしい神秘のムードだ。雲に巻かれ、冷たい雨に打たれ、ゼエハア言わせて山の中を彷徨う自転車の一団は、はたから見たら気の毒そのものだろうな、と思うが、実際は、皆幸せの絶頂にいるおかしさだ。それこそ神秘だろう。石鎚山で修行したという伝説の修験者役行者、はたまた弘法大師の呪法がバッチリ効いたか、異国よりの来訪者は、明らかにこの山の虜囚となっている。苦楽が入り混じるサイクリストならではのイイ横顔を、必死で追ってシャッターを切る。
無事、雨と霧と陽光入り混じるUFOラインを越えた一行は、魅惑の天上界に別れを惜しみ、下山の途についた。難敵の“UFO”を協力してやっつけたせいか、組み直したトレインは安定感が違うから面白い。お互いアイコンタクトで感じ取ることができる。言葉に頼らずとも、意思疎通を育むサイクリングの効能だろう。面河渓谷はじめ、石槌山の南麓に広がる明媚なる渓谷地帯を駆け降り、爽快なダウンヒルルートを楽しんで、この日の終着地久万高原に到着した。四国最大のクライミングを含んだ100kmライドこなし、みなやりきった充実の表情だが、その代償に、大の大人たちも腹ペコだ。この日の宿泊する純日本的民宿、八丁坂さんのアットホームな畳の宴会場で、郷土色豊かな山海の幸を囲み、ライドの感想戦に花が咲いた。
🚴♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングファムツアー2025
#1日目~2日目
🚴♂️愛媛県主催海外メディア向けサイクリングモニターツアー2024
#01 今治市周辺
#02 西条市~石鎚山~内子
#03 宇和島市~松山市
Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける
投稿日:2026.02.20