#01 愛媛・潮風と山を堪能できる11のサイクリングロード
愛媛県主催
海外メディア向けサイクリングモニターツアー参戦記 #01
去る11月中旬、松山空港に輪行バッグを抱えた外国人サイクリストの一団が到着した。国際的サイクルツーリズム推進を掲げる愛媛県より、一週間のサイクリング・モニターツアーに招聘された彼らは、北米とオーストラリアからの自転車専門旅行社やメディア関係者、いずれ劣らぬ本格派サイクリストたちである。 彼らと駆った愛媛一周7日間、ボリューム満点な帯同記録を3回にわたってお届けする。国内では珍しい海外に向けたサイクリングモニターツアーの全容やいかに!?
Text & Photo _ Eigo Shimojyo
本来は海外メディア向けツアーに、日本人サイクリスト兼取材者として全行程を帯同取材した下城英悟氏による、愛媛県再発見ライド記録をここから。来年のライドトリップで愛媛(四国)をお考えのあなたへ送るガイドとしてもぜひ。
目次
1. 愛媛一周7日間
2. 今治周遊〜しまなみ海道
3. 大島亀老山(今治市)
4. 大三島(今治市)
5. 大山祇神社(今治市)
1. 愛媛一周7日間
ツアー期間は7日間。しまなみ海道の玄関口、今治をスタートし、厳選のルートを連日駆け抜け、ゴール地の松山に到達する構成だ。最終的には愛媛県を時計回りにほぼ一周する。定番のしまなみ海道周遊ライドはもちろん、遍路巡礼路めぐり、四国最高峰の霊山石槌山へのビッグクライムあり、ローカル鉄道予讃線移動もありと、充実の内容となっている。ちなみに7日間の日程で、50〜120km程度あるルートを毎日しっかり走るプレスツアーというのは、海外ツアーならいざしらず、国内の観光振興プレスツアーとしては前例なく長いツアー日程だと思う。インバウンド誘客が国内の観光誘致トレンドとはいえ、なかなかチャレンジングな企画だろう。愛媛県のサイクルツーリズム推進への並々ならぬ思いが感じられるし、日本人サイクリストとしても最上の敬意を表したい。ともあれ、知っているようで知らないのが常ならん、我が国にっぽんの魅力。そして土地に根ざしたサイクルガイドツアーはいつだって最良の処方だ。論より証拠、いざ走らいでか!
2. 今治周遊〜しまなみ海道
まずは初日、足慣らしの今治周遊ライド(60km)と、翌2日目のしまなみ海道周遊(120km)から。
心配だったのは、なにより天気だが、ツアー序盤こそ曇天とはいえ、雨、風もなく穏やかな滑り出しとなった。青空がなくとも、遍路路にたずねた古刹の森は厳かさを増し、やわらかなミルク色の大気の下にぼんやり点々と浮かび上がる島陰も、日本的な旅情を一層醸している。次々と現れる色、形、構造もさまざまな海峡橋梁群のシルエットにも感嘆の声さえあげている。曇天ならではの瀬戸内のムードが、海外勢を魅了している様子に一安心。 ところで、しまなみ海道は平坦ルートと思われがちだが、島々をつなぐ橋へのアクセスはちょっとしたヒルクライムとして脚に程よい刺激を与えてくれる。さらに、各島内に巡らされたルートも多くのバリエーションを持ち、選び方次第でさまざまなレベルのサイクリトが楽しめるよう整備されているのだ。一粒で何度も楽しめるのがしまなみ海道の大きな魅力でもある。今回は走れる海外勢への愛媛県の“おもてなし”か、しっかりめの登り坂が多数盛り込まれたルートでなかなかに走りでがあり、一行の好評を得ていた。
3. 大島亀老山(今治市)
この旅の最初の関門といえる大島亀老山(Kirosan)へのヒルクライムは、短めだがパンチの効いた登坂ルートだ。徐々に高度と心拍を上げると、過ぎゆく木々の間に瀬戸内海の展望がひらかれ、やがてゴールの絶景スポットに辿り着いた。眼下には橋と島々が織りなすしまなみ海道の遠景。出自も国籍も違う参加者が、声をかけながら皆でたどりついた絶景を前にして、一気に打ち解けていた。サイクリングは簡単に国境を超える。しまなみの遠景と、ご褒美のコーヒー&スイーツを囲んでの会話の楽しからずや。余談だが、亀老山上には、絶妙に自然と調和した「大島亀老山展望台」*がある。世界的建築家、隈研吾の若かりし日の設計とのことで、その名を知る数名と納得した。そんなグローバルに通じるうんちくも交えながら、序盤から笑顔の絶えない旅の幕開け。
*大島亀老山展望台
https://www.city.imabari.ehime.jp/kanko/spot/?a=182
4. 大三島(今治市)
ひと山越えたことで、一行は親密度とチームワークを増して、アップダウンの効いたルートも快調なトレインでクリアしていく。目指すはしまなみ海道最大の島、「神の島」とも呼ばれる大三島(Ohmishima)。実る柑橘類の色鮮やかな丘陵地から海岸線へ出れば、小さな岬巡りの心地よい起伏。過ぎゆく漁師町の旅情あふれる風景をいくつも抜けて、チーム各員、笑顔で程よく燃焼している。お昼時、穏やかな波打ち際をイージースピンしてイチオシのランチスポットへ滑り込んだ。
「しまなみ海道WAKKA」*は、しまなみ海道の中間に位置する多様なツーリストのための複合的宿泊施設として注目を集めている。自然豊かなロケーションをベースに、多様なアクティビティーとモダンな宿泊体験を提供しており、特にサイクリスト向けのサービスに手厚いのだ。レンタルから独自性の高いガイドツアーまで幅広くサポートしてくれる。サイクリストの中継地としても最適で、この日は併設のカフェレストランのテラス席から、皆で最高のしまなみビューと、良質な地産食材のランチを楽しんだ。
*しまなみ海道WAKKA
https://wakka.site/
5. 大山祇神社(今治市)
WAKKAでモダンな瀬戸内のムードとエナジーチャージを済ませた一行は、瀬戸内を代表する古社「大山祇神社(Ohyamazumi Jinjya)」*へ。日本神道のおいて最古に類する縁起を持ち、古来より信仰を集めてきた大山祇神社。また戦勝の神として、かの村上水軍をはじめ全国の武士団の信仰が厚かったことでも知られる。初めて本格的に神社参詣をする参加者もあり、とにかく新鮮と見える。ガイドから日本式参詣作法のレクチャーのあと、神妙な面持ちで大鳥居をくぐる。広々として長い参道をサイクルシューズの一団が進む。樹齢2600年の楠の巨木をくぐり、本殿へ。二礼二拍一礼もたどたどしく、興味津々参詣している。オーストラリア人のダミアンから神社と寺、神道と仏教の違いについて質問され、ドギマギ答える自分も十分にたどたどしい。メキシコから来た長髪のサイクルインフルエンサーで、少々スピリチュアルなクーパーなどは“何か”を感じたのか、神社奥の院まで吸い込まれてなかなか戻って来ない。古今東西、宗教的な場所の持つ磁場は、しばしば観光地のそれを超え、異文化理解に大きなヒントを与えてくれるものだ。多国籍なサイクリング体験に、その思いが強くなった。
*大山祇神社
https://oomishimagu.jp/about/
少しずつ好転してゆく天気に、日の終りには淡い夕景となった。今治に戻る来島(Kurushima)海峡大橋の上、思わず停車しておのおのピンクに染まる海上の夕景を撮っている。序盤からたくさんの写真を撮っている彼らが、ツアーにどんな感慨を抱いているのだろうか。
今治周辺と、しまなみ海道3島である伯方島(Hakatajima)、大島、大三島をライドした序盤2日間でさえ、日本人の僕にはお腹いっぱいの充実感なのに、明日はミステリアスなUFOラインの先、霊峰石鎚山(Ishizuchiyama)が来訪者のアタックを待っている。日程半ばにも至っていないというのに、愛媛県の“果汁”の濃さよ。明日の快晴予報にアフターライドのディナーで日本食に地酒を煽る一行の上機嫌に拍車がかかっている。はてさて大丈夫だろうか……。
つづく
Profile
下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける
投稿日:2024.12.26