噂のThe Japanese Odysseyとは?#04
クレイジーな設定


目次

1 チェックポイントとセグメント
2 ルートの「妙」

1 チェックポイントとセグメント

2016年のイベントは東京日本橋を出走し、全国各地に散りばめられた11箇所の山岳チェックポイント(以下CP)を経て、会期2週間以内に終着地大阪道頓堀を目指す。

総距離にして約2500~3000kmの道程になるだろうか。

前年に増してクレイジーの度合いが増している。

日本橋〜道頓堀といえば、よく知る東海道で、国道1号線を使えば550kmほどの距離のハズ。

が、何をどうしたら3000kmなのか。謎を解く鍵はやはりCPだ。

以下に2016年の完走要件となったCPを挙げてみよう。

The Japanese Odyssey 2016 全チェックポイント

①草津白根山(群馬)
②榛名山(群馬)
③大河原峠(長野)
④入笠山(長野)
⑤乗鞍山(長野)
⑥木曽御嶽山(長野)
⑦大台ヶ原山(奈良三重県境)
⑧剣山(徳島)
⑨天狗高原(高知県)
⑩篠山(愛媛・高知県境)
⑪安蔵寺山(島根)

変態好事家サイクリストたちをなら存分喜ばせる自転車的名所と言えなくもない、いずれも長距離登坂をともなう高強度な峠の難所である。

それらが本州~四国にかけて幅広く、また意地悪く分布する。

参加者は事前ルート設定に相当苦しんだことは想像に難くない。

ブルベと同様、この手のレースの通例として、参加者各々のルート設定は当然各人の準備に任されている。

だが、相手はブルベを遥かに凌ぐ長大な道のりである。

2週間の長い期間と3000kmの総距離を通じて、CPをいかに効率よく、または効率無視で面白くつないでルートを切るか、各サイクリストの経験はもちろん、6センスが問われそうだ。

2 ルートの「妙」

取材に備えてルートを精査しながら不思議に思ったのは、このCP設定のある種の「妙」ともいえる切り口だった。

とても一介の素人仕事とは思えない、このやり口は一体どういうことか?

日本橋、道頓堀はともかくとして、東西にまたがり絶妙に配されたCP群には、走り込んできた日本人サイクリストにとってさえ、グッと来るものがあると思えた。

ルート策定スタッフには、邦人オダックスや歴戦のブルべ猛者でもいるのだろうか?

参加者のほとんどが外国人となると、ルート策定の、この日本的な「妙」たるや、いかに。

私事で恐縮だが、登山を嗜み、日本の山岳文化、山岳宗教的背景の素人考察を趣味とする僕には、そこはかとなく香る西行法師〜芭蕉にも繋がる「侘び寂び」の感とでもいうものが、気になって仕方がなかった。

ルートの裏になにかメッセージがありそうだが。

いまだ全貌がしれないThe Japanese Odysseyに、謎がまた一つ。


<続く>


次回
いよいよ登場!「謎」の仕掛け人


🚴‍♂️The Japanese Odyssey 公式webサイト
https://www.japanese-odyssey.com/

🚴‍♂️噂のThe Japanese Odysseyとは?
#01 ウルトラディスタンスという世界へ
#02 2015年、7月18日を目指す
#03 僕の「The Japanese Odyssey」元年へ
#04 クレイジーな設定
#05 “謎”の仕掛け人
#06 日本贔屓の引き倒し


Text&Photo_ Eigo Shimojo

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#05
“謎”の仕掛け人

目次 1 誕生の地、ストラスブール2 エココンシャスな仲間3 ウルトラディスタンスへ 1 誕生の地、ストラスブール さて、このあたりでTJOの主催者、謎掛けの真犯人について、すこし話すべきだろう。 世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスを擁するフランス。1791年にパリで自転車の原型が発明されて以来、その伝統と格式、そして誇りを、この国ほど体現し守ってきた国もない。ツールを頂点としながら、フランス全土で催されるレースやイベントの中には100年を超える歴史を持つものもザラだ。そういう文化的土壌が、かのブルベの様式や、その頂点パリ=ブレスト=パリなどを育くみ、世界の自転車文化を牽引してきたといえる。フランス人の中で、それは乗り物以上の存在と言えるのかもしれない。 さて、日本の自転車イベントの話が、なぜかフランスに飛んでしまったが、これには深いワケがある。 場所はフランスの北部、ドイツとの国境地帯アルザス地方の主要都市ストラスブール。この地で物語は始まった。自転車を楽しむに最適な、美しい丘陵が織りなすこの地に育ったエマニュエル・バスチャンとギョーム・シェーファーの2人が、なにを隠そうこの物語の編み手である。 2 エココンシャスな仲間 話は飛ぶが、90年代〜00年代初頭、北米のストリート発のサイクルメッセンジャーカルチャーが世界を席巻していた。サイクルメッセンジャーとは、簡単に言うと都市型自転車宅急便である。インディペンデントかつ実践的なサイクリストコミュニティに根ざしながら、創造的なDIY精神や、今日のSDGs哲学にも先駆けたエコ思想を、サイクリストの体一つで深め、体現しようと […]

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