Tour de Natural Wine
#03 No Control “Babinou 2022”
ノーコントロール、なワインを求めて

今回はナチュラルワインオタクからヴィニュロン(生産者)になった男、ヴァンサン・マリーのエピソードをご紹介します。

「オタク」という言葉はネガティブに感じることが多いのではないでしょうか?
強面のいかつい大男。
腕には立派なタトゥー、好きな音楽もパンクロックやフュージョンメタル…
ヴァンサン・マリーは「オタク」という言葉は連想しきれないほどオタクな男です。

彼のワイナリーの名前は『ノーコントロール』。

Vincent MARIE(No Control)

フランスのオーヴェルニュ地方(お水のヴォルヴィックといえばわかりやすいでしょうか)でワイン造りをしているヴァンサン。とにかくヨーロッパのさまざまな有名生産者を尋ねると、ワイナリーにはほぼ必ず『ノーコントロール』のシールが貼ってあります。

元々造り手ではないヴァンサンは、2004年にナチュラルワインのサロンを立ち上げました。
2008年まで続けたこのサロンで、たくさんのナチュラルワイン生産者と直接知り合うきっかけをつかんでいきます。当時、彼はスポーツ用品の営業マンでしたが、次第にワインづくりに興味を持ち始め…
2008年にアルザスの本社に転勤になり、 スポーツ用品のWebマーケティングを担当。
この時期により深くヴァンナチュールを学ぶために、 余暇のほとんどを生産者訪問に費やします。
そしてついに2012年、ワイン生産者になる決意を固め8年間働いた会社を退職しました。

そんな異色な経歴を持つ彼との初対面は、2016年にオーヴェルニュを訪問の際に、たまたま晩御飯を食べているお店にて。彼のワインは飲んでいたものの、会うのは初めて。出会って最初からのブラインドテイスティング大会がスタート。中身のわからないワインを飲んで当てっこするわけです。何か答えると「どうしてそう思った?」と質問攻め…
私は当てられませんでしたが、一緒に行った友人がワインを当てると「お前すごいな!」「話を聞かせろ!」とまた質問攻め。

オーヴェルニュのビストロにて造り手たちと遭遇のハプニング/右からFrancois Dhumes 、Patrick Bouju(P Domaine La Boheme)、Vincent MARIE(No Control)

とにかくナチュラルワインのことが、ナチュラルワインの造り手が大好きなんだなぁと。
初対面でのインパクトが非常に強い男でした。

強面で人たらし…
困った時は先輩に教えを乞う学びの姿勢もしっかりとある。
この感じが先輩ヴィニョロンから可愛がってもらえるんだろうなぁ。

そして彼は、若い頃にプロサイクリストとしてスカウトされるくらいの運動能力の持ち主。高校当時はフランス代表候補としてトラックレース、そしてノルマンディー・ブルターニュ代表としてはロードレースにも参加していたようです。ただ、その後はサイクリングの道に進むのではなく、学問を選択し、スポーツ経営学の修士号を持つ文武両道の人生を歩んできました。

彼の畑も自転車で周りたいけど、一緒に走るのはやめておいたほうがよさそうですね。

オーヴェルニュの夜…。東京からは、紫藤さん(Libertin/渋谷)、宮内さん(Unjour/目黒)。林さん(La Pioch/蛎殻町)も同行したワイナリー巡りでの一晩。

本日のナチュラルワイン

No Control Babinou 2022
ノー コントロール バビヌゥ 2022
色合いは淡く明るい紫色。クランベリー、アセロラ、タイム、アールグレイの香り。ワインは軽快かつチャーミングで、アセロラのような弾けるキュートな酸と明るくフレッシュな果実味があり、鉱物的なミネラルと繊細なタンニンが余韻の骨格を形成。ノーコントロールというと早いうちは不安定な要素も出がちですが、このワインはリリースから状態も良かった。「ノーコントロール」らしからぬ味わい?

【内容量 Net】  750ml
【産地 vineyard】  フランス France>オーヴェルニュ Auvergne
【品種 variety】  トゥルソー Trousseau、ガメイ・ド・ボジョレー Gamay de Beaujolais、ミュスカ Muscat、シュナン Chenin、シャルドネ Chardonnay 各20%
【タイプ type】  赤 Rouge

・ワイン名のBabinouは味わいのイメージに合わせて作ったヴァンサンのオリジナル造語
・SO2無添加、ノンフィルター

Profile

板垣卓也/Takuya Itagaki
宮城県・仙台市内に構えるワインショップ「LoveSong by BATONS」店主。20年前にナチュラルワインに出会い、魅了され、現在はキュイジニエ(料理人)からキャヴィスト(セラーワーカー)に。2002年から仙台にてビストロ数店をオープンし、東北エリアでいち早くナチュラルワインを取り扱う。2015年、ナチュラルワインの専門店「BATONS」をオープン。2023年に業務店向けの専門店へ転向し、新たにアパレル店と空間を共にする一般小売ワインショップ「LoveSong by BATONS」をオープンする。東日本大震災後、山形のタケダワイナリーと協業し東北6県の葡萄を集めて混醸したオリジナルワイン「ヴァンドミチノク Vin de MICHINOKU」を商品化したプロジェクトの発起人でもある。有限会社MaCuisine代表/業務店卸売ワインショップ「BATONS」店主/「満月ワインバー仙台」店主

CULTURE
CYCLE MUSIC④
Georgie Fame「Happiness」

この連載コラムが始まってから、音楽を聴くときは何となく、自転車のジャケットやMV、自転車にまつわるタイトルや歌詞を意識してしまうのですが、この曲を思いついたときは嬉しかったですね。Georgie Fameの大好きなグルーヴィー・チューン「Happiness」。この曲が収録された1971年の知る人ぞ知る名盤『Going Home』の裏ジャケットには、ボア付きのレザー・ブルゾンに身を包んで自転車に乗って走るGeorgie Fameの姿が映しだされているんですね。

#Column
CULTURE
CYCLE CINEMA⑯
『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』

「あの映画を観ていないと、人生を損している」。そんなふうに語る人がいる。趣味は人それぞれだし、どんな映画を観るかは本人の自由だ。だけど『男はつらいよ』シリーズをまだ観ていない人には、そっと背中を押したくなる。「一度観てみても、いいんじゃないかな」と。あの作品には、日本の喜劇のエッセンスがぎっしり詰まっている。 主人公は、葛飾・柴又生まれの寅さん(渥美清)。口は悪いが人情に厚く、困っている人を見過ごせない性分。生業は露天商で、いわば風来坊だ。だが、柴又には団子屋「とらや」を営む親戚がおり、妹のさくら(倍賞千恵子)もそこで働いている。寅さんは年に何度か、ふらりと「とらや」へ帰ってくる。 そのたびに、騒動が起こる。家族やご近所を巻き込んだドタバタ劇は、笑いと涙を連れてやってくる。そして、もうひとつの見どころが、作品ごとに登場するマドンナたち(吉永小百合、浅丘ルリ子、大原麗子、いしだあゆみ!)。寅さんは毎回、ピュアな心で恋に落ちる。でも、結末は決まっている。彼は振られ、また旅に出るのだ。この「出会いと別れ」の繰り返しが、シリーズ全体をひとつの壮大な“失恋の叙事詩”にしている。 寅さんは運転免許を持っていないので、移動手段は列車か徒歩。そして、時には自転車にも乗る。とはいえ、それはたいてい人から借りたもの。サイズが合わないせいか、がにまたで漕ぎながら、流行歌を口ずさむ。格好いいおっさんだ。 『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』(1977年、山田洋次監督)は、そんな寅さんが「恋の指南役」として奮闘する一本。若い男女の恋を応援しようと立ち回るうちに、いつの間にか自分も恋に落ちてしまうという寅さん […]

#Yamada Yoji