クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#04 動き出すドットたち

日本列島を舞台にした自転車イベントというより旅、いや、旅を超えた旅、冒険、探究、もはや創造、かもしれない「The Japanese Odyssey」(以下、TJO)。連載第二弾のプロローグのラストは、前日のブリーフィング会合を終えた参加ライダーとフォトグラファー・下城英悟氏がいよいよ走り出した行程の回顧から。

*前回のエッセイはこちら

#04 動き出すドットたち

ブリーフィングの翌日、2016年9月某日、いよいよ初取材に取りかかった僕は、世界中から集まってきた無名のサイクリストたちを、実際に追いかけ回すことになった。乗りかかった船を途中で降りる選択肢はなくなった。日本中にバラバラ散ってゆく点のような彼らを、昼夜の境なく追い、写真に収め、そして道々話を聞かなければならない。以来、毎年秋、愛車の旧式ワンボックスカーを駆り、寝食を惜しんでの取材の日々が始まった。開催期間中の約二週間の移動距離は4000kmにもなった。そんなことを望んだわけではなかったが、そうなっていた。途中で降りる選択肢は、あったのだろうが、見えなかった。寝不足の運転席から見晴るかす先、道という道が、GPSマップ画面上の道とシンクロして無限に伸びている。その先の、満点の星がきらめく夜空で、名もなき一つ星を探し出す孤独な暗闘を繰り返している。ミイラ取りは、おさだまりのミイラになった。得体のしれないこの旅路の虜になっていた。

8年の歳月が経ち、コロナ禍の開催中止を経て、2023年再開した。秋深まる11月、世界中のサイクリストが再び鹿児島桜島に集結し、そこにはウルトラディスタンスサイクリストの懐かしい歓喜があった。8年前にたった4人の参加者から始まり、いまや70名以上となっている。リピーターも多く、嬉しいことに日本人参加者も増えている。エマニュエルとギョームの編み出すルートが、あいかわらずクレイジーでブルータルなのは、歴戦のサイクリストたちの共通した評価であり、その狂気と暴力性に遊ぶのがTJOの本懐だと、皆が山中で泣きながら笑っている。僕はあいも変わらず暗闇に潜み、その顔を追う、いよいよ変人のままである。

次回より、ついに実現したTJOを走り出した参加ライダーたちのアクが強い装備やエピソードに焦点を当てたエッセイをお届けします。お楽しみに!


🚴‍♂️第一弾連載はこちら
#01 ウルトラディスタンスという世界へ
#02 2015年、7月18日を目指す
#03 僕の「The Japanese Odyssey」元年へ
#04 クレイジーな設定
#05 “謎”の仕掛け人
#06 日本贔屓の引き倒し

🚴‍♂️第二弾連載はこちら
#01 夜明け前
#02 波、来たれり
#03 “Be prepared”
#04 動き出すドットたち

🚴‍♂️The Japanese Odyssey 公式webサイト
https://www.japanese-odyssey.com/


Text&Photo_ Eigo Shimojo

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

EVENT
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#02 波、来たれり

2025年開催のThe Japanese Odyssey(以下、TJO)に向け、Global Ride編集部がお届けするフォトグラファー・下城英悟氏による連載エッセイ第二弾。時は2016年、TJO第二回開催を明日に控えた夕刻。親日家でありながら前回まで来日経験のないフランス人、エマニュエルとギョームにより企画された日本を漕ぐ旅がいよいよ現実となる前日のこと。代官山にて行われたブリーフィングの場のvibes、そこからのウルトラディスタンスとは。 *前回のエッセイはこちら #02 波、来たれり 大会に掲げられたハードなチェックポイントの数々と長大な行程、ここに思い当たるのは、これが冒険以外の何ものでもないということ。完走を目指すなら、用意周到に備え、相当な戦略を立て、そのうえで己の限界を問うような努力が求められるだろう。ハードである。これは運営も同様で、準備には相応の時間を要するだろう。それを、たった2人で取り組むということか?しかも、ここは彼らの故郷からはるか遠くの異国、JAPAN。しかし彼らの答えは“Yes”だった。マジか、と心配されても仕方がない。参加者さえ驚く者もいるのだ。それでも、そのことを本気で心配する者は、参加者にほとんどいなかったと思う。その理由として、参加者の半数がトランスコンチネンタルレースなどのウルトラディスタンスレースの経験者、そうでなくとも皆ウルトラディスタンスのセルフサポーテッドの理念を理解、共感していたからに違いないだろう。 2010年代、急速に広がったウルトラディスタンスのコンセプトとムーブメントは、既存スポーツ、ひいてはツーリズムへのカウンターとし […]

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#02
2015年、7月18日を目指す

日本で開催される超長距離、超絶コアなライドイベント「The Japanese Odyssey」を追いかけ続ける写真家・下城英悟氏による連載エッセイ。第二弾はウルトラロングディスタンスを支える自助の精神と、初めての参加…?に至るまでの道のりについてお届けする。 目次 1 ウルトラディスタンス(超長距離)とセルフサポーテッド(自助)2 さきがけの「The Transcontinental Race」 1 ウルトラディスタンス(超長距離)とセルフサポーテッド(自助) あらためて「The Japanese Odyssey(以下TJO)」の特徴を端的に表すキーワードは2つ。 文字通りの”ウルトラディスタンス”(超長距離)、そして、”セルフサポーテッド”(自助)の精神だろう。 レースの多くは数百〜数千キロの設定ルートを、1~2週間の制限時間内での自力完走を目指す。 いわゆる耐久レースとはいえ、TJOは距離と所要時間がアマチュアレースの常軌を逸していた。 完走を目指せば、昼夜なく走ること必至という「ウルトラディスタンス」な事実が出走者に迫り、同時にセルフサポーテッドの難易度も距離に比例して高くなる。 およそ一般化しそうもない様式が、しかし瞬く間に世界中で受け入れられ、広まっていった。 のみならず、ややもすれば閉塞がちな業界に力強いトレンドさえ生み出しかねない勢いがあった。 競技団体やメーカー主導のスポンサードレースでは決してないにもかかわらず。 アマチュアサイクリストたちの想いを繋いで生まれ出たカルチャーである、と声高に言いたい。 サイクリングのエッセンシャルな魅力であるロングライドの範疇を […]

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#04
クレイジーな設定

目次 1 チェックポイントとセグメント2 ルートの「妙」 1 チェックポイントとセグメント 2016年のイベントは東京日本橋を出走し、全国各地に散りばめられた11箇所の山岳チェックポイント(以下CP)を経て、会期2週間以内に終着地大阪道頓堀を目指す。 総距離にして約2500~3000kmの道程になるだろうか。 前年に増してクレイジーの度合いが増している。 日本橋〜道頓堀といえば、よく知る東海道で、国道1号線を使えば550kmほどの距離のハズ。 が、何をどうしたら3000kmなのか。謎を解く鍵はやはりCPだ。 以下に2016年の完走要件となったCPを挙げてみよう。 The Japanese Odyssey 2016 全チェックポイント ①草津白根山(群馬)②榛名山(群馬)③大河原峠(長野)④入笠山(長野)⑤乗鞍山(長野)⑥木曽御嶽山(長野)⑦大台ヶ原山(奈良三重県境)⑧剣山(徳島)⑨天狗高原(高知県)⑩篠山(愛媛・高知県境)⑪安蔵寺山(島根) 変態好事家サイクリストたちをなら存分喜ばせる自転車的名所と言えなくもない、いずれも長距離登坂をともなう高強度な峠の難所である。 それらが本州~四国にかけて幅広く、また意地悪く分布する。 参加者は事前ルート設定に相当苦しんだことは想像に難くない。 ブルベと同様、この手のレースの通例として、参加者各々のルート設定は当然各人の準備に任されている。 だが、相手はブルベを遥かに凌ぐ長大な道のりである。 2週間の長い期間と3000kmの総距離を通じて、CPをいかに効率よく、または効率無視で面白くつないでルートを切るか、各サイクリストの経験はもちろん、6 […]