The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜 #05
ドイツ製パッキングシステムの男 🇩🇪
Tartarugaのフィニッシャー 🇦🇺🇯🇵
フレンチエレガンス極まれり 🇫🇷🇯🇵

さてさて、もうここではお馴染みの日本列島を舞台にしたウルトラロングディスタンスなライドイベント「The Japanese Odyssey」(以下、TJO)。1年あまりの沈黙を経て、2025年に開催、という告知がついに公式ウェブサイトに掲載されたのは昨年の秋のこと。
そしてスタート地点は10年前の旅の始まりを創出した北海道へカムバック…との書き込みが。Amazing!
2015年に外国人のみ6名のライダー参加から幕開け、その内容のクレイジーさがジワリと広まり2016年には21名の参加者となったTJO(この年も日本人参加者はおらず)。Global Rideの新年のスタートは、本格的なイベントの様相を見せた2016のTJO、参加ライダー12名の一人ひとりに迫ったフォトグラファーの下城英悟氏による連載レポートをお届けします。三者三様、十人十色のバイクパッキング、参加理由、ライドの様子からこのイベントが持つ真髄を感じていただけますように。

2025年、本年もナイスライドを共に。

*前回のエッセイはこちら

ドイツ製パッキングシステムの男/CARLOS FERNANDEZ LASER (Germany)

2016年のジャパニーズオデッセイは、フィンランドの新興自転車メーカーのPelago Bicycles(ペラーゴバイシクル)とパートナーシップを結んでいたこともあり、ペラーゴ製バイクで参加するライダーが複数いました。
スタイリッシュなモノトーンのオリジナルジャージに、印象的なヒゲと長髪、頭に巻いたバンダナがおしゃれなカルロスは、ペラーゴのライダー兼撮影クルーの1人。かのライカ社のサポートも受けるフォトグラファーとしてドイツからの参加でした。
取りつけたバイクパッキングシステムは、やはりドイツ製。世界中のサイクルツーリスト定番オルトリーブ社の完全防水パニアに、撮影機材などを満載しての、総重量が20kg超の重戦車でした。道中、超大型台風に見舞われた2016年、嵐の中突入した乗鞍CPで苦戦しつつも、大雨でも高価な機材類は無事だったとか。さすがオルトリーブです。
こんな冒険にさぞ強い思いで参加したんだろうと思いきや、サイクリストとしては、実は生粋のBMXライダー。これまでロードバイクに乗ろうなんて思ったこともなかった、と驚きの発言です。しかし、悪天続きの2016年大会、タフコンディションのなかでも、毎日コンスタントに200km近く走行する屈強なフィジカルには驚かされました。残り2つのCPを残して、メカトラブルにてRDがモゲてしまい万事休す、途中リタイヤ。しかし、最終日のゴール地道頓堀で、到着する仲間たちを祝福する姿が、見た目と相まって神々しく印象的でした。
普段のBMXとは違う自転車を漕ぎ続けた二週間。「カラダが完全に別モノになっちゃった気がするよー」と、初めてのウルトラディスタンスレースを総括。帰国後、ベルリンにてジャパニーズオデッセイで撮りためた写真で写真展も開催し、その体験を精力的に発信、好評を得ていました。

小径車・Tartarugaのフィニッシャー/DAVID BONNITCHA(Australia/Japan)

2016年大会から連続参加しているTJO常連のダヴィッドは、タスマニア島出身京都在住のオーストラリア人。オリジナリティーの高い装備と旅のプランで、毎回注目を集める彼ですが、初回参加の2016年は、なんと唯一小径車での参加でした。未だウルトラディスタンス黎明期のシーンに、いきなりアンチテーゼな小径車で殴り込んできたその異様は、初めてのジャパオデ取材に取り掛かっていた僕には鮮烈な印象を残しました。ウルトラディタンスという成熟に向かいつつあるトレンドなど我関せず、あの日、日本橋で一番カッコよかった。
彼の自転車を紐解くと、これがなかなかの特殊車両。Tartaruga(タルタルーガ)という知る人ぞ知る国産小径車メーカー製の20inch(リム径451規格)、しかも小径ながらフルサスペンション!の野心作です。そこにこだわりのキャンプ用品が一分のスキもなく満載されています。ならではの工夫冴える積載術は、普段から積み重ねた経験値を高濃縮させてこそなせるワザでしょう。旅程のほとんどをテントやハンモックでの野営、自炊で貫く生粋のバイクキャンパーのダヴィッドは、最終日までに全11箇所の規定CPをクリア、ゴール間近まで迫っていたものの、惜しくもタイムアウト。個人的には、彼のスタイルと心意気を称え、フィニッシャー(完走者)と心の中静かに認定していました。2016年参加者21人中で、もっともハードコアでヘンタイな自転車乗りと思います。以後、TJOの大切な常連として参加を続けていますが、毎回の自転車も見逃せないヘンタイ仕様です。
2016年当時、取材の未熟さと、まだ不安定だったGPSの情報に苦戦し彼のドットをキャッチできず、スタートの日本橋以降、彼の走行シーンを一度も撮影することができず…。そのことは、僕の生涯にわたり刻まれる遺恨となっていて、以来贖罪のため、道中の彼を捕まえるのが責務なのだが、忍者の如く雲隠れする彼を撮るのは至難の業。“Catch me If you can.”なのです。

フレンチエレガンス極まれり/PASCAL VIOUT (France/Japan)

南仏プロヴァンスの豊かな自然に育ち、パリに出てグラフィックデザイナーで身を立てながら、日本への強い憧れを抱いていたパスカルは、ついに来日を果たしました。以来10年、東京在住の売れっ子グラフィックデザイナーとして活躍しながらも、主催のエマニュエルやギョーム同様、フランス人であることと、サイクリストであることが当たり前に均衡している彼の自転車に対する情熱は衰えません。感度の高い彼はウルトラディスタンスの目覚めも早く、トランスコンチネンタルレースへの参加を経て、2016年自ら選んだ国、日本での初のウルトラレースTJOを見逃すはずもありませんでした。以来、TJO常連の一人として、僕の大切な撮影ターゲットに。
デザイナー、パスカルの美意識は、毎回のその装備に否応なしにあらわれます。
参加初年の2016は、北米西海岸の新興ブランドRITTEのステンレス製フレームにスラム組みの当時の先端トレンドを踏襲。バイクパッキングバッグ類は、Apidura(アピデュラ)で統一。最低限の荷物をスマートにパッキングして、総重量11kgほどにまとめていました。今や完全に定番として世界標準化したアピデュラですが、当時はまだバイクパッキング専業メーカーとして席巻し始めた頃。ギア比は、前コンパクト50/34、後は最大28、今見るとウルトラディスタンス仕様としては小さめのギア比だが、当時は一般的な登坂仕様で、しかしウルトラディスタンスではかなりチャレンジングな漢ギア比。ちなみに、いまやウルトラディスタンス定番装備のDHバーを装着していない点について訊ねたところ、重いし、そもそもスタイルが好きじゃない、と。長時間の耐久走で上体を休めさせることができる必須機能ですが、彼にとってはそういうことでは無いのです。お洒落は我慢。TJOに出場した3回とも全タスクをクリアし完走しています。
誰もいないゴールの日本橋で、到着を待っていた美しい女性は奥様でした。再開の瞬間は、パリのポンヌフ橋か!?と見まごうたものです。二人の間に、いまでは可愛い娘さん。愛する日本で子煩悩なパパとなったパスカルの次回参加が待たれます。

Text&Photo_ Eigo Shimojo

次回も3名の強者をご紹介します。お楽しみに!


2016年のTJO概要
テーマ_日本百名山(榛名山、乗鞍岳、剣山、天狗高原、篠山など)
ルート概略_東京・日本橋→群馬県→長野県→奈良県、三重県→山陰地方→徳島県、愛媛県、高知県→大阪・道頓堀
走行距離_約2,400km
獲得標高_約3,500km

🚴‍♂️The Japanese Odyssey Report Series
*第二弾連載はこちら
#01 夜明け前
#02 波、来たれり
#03 “Be prepared”
#04 動き出すドットたち
#05 CARLOS / DAVID / PASCAL
#06 TOM / GUILLAUME / EMMANUEL

第一弾連載はこちら
#01 ウルトラディスタンスという世界へ
#02 2015年、7月18日を目指す
#03 僕の「The Japanese Odyssey」元年へ
#04 クレイジーな設定
#05 “謎”の仕掛け人
#06 日本贔屓の引き倒し

🚴‍♂️The Japanese Odyssey 公式webサイト
https://www.japanese-odyssey.com/

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

EVENT
The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#02 波、来たれり

2025年開催のThe Japanese Odyssey(以下、TJO)に向け、Global Ride編集部がお届けするフォトグラファー・下城英悟氏による連載エッセイ第二弾。時は2016年、TJO第二回開催を明日に控えた夕刻。親日家でありながら前回まで来日経験のないフランス人、エマニュエルとギョームにより企画された日本を漕ぐ旅がいよいよ現実となる前日のこと。代官山にて行われたブリーフィングの場のvibes、そこからのウルトラディスタンスとは。 *前回のエッセイはこちら #02 波、来たれり 大会に掲げられたハードなチェックポイントの数々と長大な行程、ここに思い当たるのは、これが冒険以外の何ものでもないということ。完走を目指すなら、用意周到に備え、相当な戦略を立て、そのうえで己の限界を問うような努力が求められるだろう。ハードである。これは運営も同様で、準備には相応の時間を要するだろう。それを、たった2人で取り組むということか?しかも、ここは彼らの故郷からはるか遠くの異国、JAPAN。しかし彼らの答えは“Yes”だった。マジか、と心配されても仕方がない。参加者さえ驚く者もいるのだ。それでも、そのことを本気で心配する者は、参加者にほとんどいなかったと思う。その理由として、参加者の半数がトランスコンチネンタルレースなどのウルトラディスタンスレースの経験者、そうでなくとも皆ウルトラディスタンスのセルフサポーテッドの理念を理解、共感していたからに違いないだろう。 2010年代、急速に広がったウルトラディスタンスのコンセプトとムーブメントは、既存スポーツ、ひいてはツーリズムへのカウンターとし […]

EVENT
The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜 #06
300km/日の最速エンジニア 🇬🇧
禁欲のバイク中毒者(主催者その2) 🇫🇷
“ハルキスト”なルートメイカー(主催者その1) 🇫🇷

2025年の秋に開催されることが決定したThe Japanese Odyssey(以下、TJO)第二弾、今回は2016年イベント最速の男とフランスからやってきた主催者二人のライド哲学や装備のこだわりをお届けします。ウルトラロングライドの挑戦に興味がある方は必見!彼らのバイクパッキングも参考に、一緒に走ってみませんか? *前回のエッセイはこちら 300km/日の最速エンジニア/TOM WILLARD(England) 出走前も早朝の日本橋に一番乗りし、そのまま2016年TJOダントツの所要10日間でゴール地の道頓堀に到達したのは、ポールトゥウィンの英国人、トムさん。GPSの記録で1日300km超を走るペースは、この年の最速。ふだんから、在住の南ロンドンに拠点するオダックス(ブルベを開催する)に籍を置き、週末を中心に日に2~300kmを走るランドナー。笑顔の明るさ、実直な語り口の彼に、日本を走った印象を訊ねると、なぜか日本の工業技術の偉大さについて熱めに語り始めました。「日本の自然の景色マッチした、橋梁、道路、トンネルが素晴らしかった。工法も興味深かったね。話は違うけど家電も最高。景色もさることながら日本は技術力が素晴らしい」と。電気系エンジニアでフルタイムワーカーとのことで、なるほど腑に落ちました。TJOのルートは、多くの川を渡り、山間深く分け入り、交通治水の核心的構造物の多くを横目に駆け抜けていきます。構造物、地形、歴史好きなある種の人々にはたまらない、自転車版ブラタモリルートでもあるので、トムさんはそんなところにも惹かれたのでしょう。愛車はSPECIALIZED、野心的グラベ […]

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#04
クレイジーな設定

目次 1 チェックポイントとセグメント2 ルートの「妙」 1 チェックポイントとセグメント 2016年のイベントは東京日本橋を出走し、全国各地に散りばめられた11箇所の山岳チェックポイント(以下CP)を経て、会期2週間以内に終着地大阪道頓堀を目指す。 総距離にして約2500~3000kmの道程になるだろうか。 前年に増してクレイジーの度合いが増している。 日本橋〜道頓堀といえば、よく知る東海道で、国道1号線を使えば550kmほどの距離のハズ。 が、何をどうしたら3000kmなのか。謎を解く鍵はやはりCPだ。 以下に2016年の完走要件となったCPを挙げてみよう。 The Japanese Odyssey 2016 全チェックポイント ①草津白根山(群馬)②榛名山(群馬)③大河原峠(長野)④入笠山(長野)⑤乗鞍山(長野)⑥木曽御嶽山(長野)⑦大台ヶ原山(奈良三重県境)⑧剣山(徳島)⑨天狗高原(高知県)⑩篠山(愛媛・高知県境)⑪安蔵寺山(島根) 変態好事家サイクリストたちをなら存分喜ばせる自転車的名所と言えなくもない、いずれも長距離登坂をともなう高強度な峠の難所である。 それらが本州~四国にかけて幅広く、また意地悪く分布する。 参加者は事前ルート設定に相当苦しんだことは想像に難くない。 ブルベと同様、この手のレースの通例として、参加者各々のルート設定は当然各人の準備に任されている。 だが、相手はブルベを遥かに凌ぐ長大な道のりである。 2週間の長い期間と3000kmの総距離を通じて、CPをいかに効率よく、または効率無視で面白くつないでルートを切るか、各サイクリストの経験はもちろん、6 […]