愛媛県主催
海外メディア向けサイクリングモニターツアー参戦記 #02

*参戦記#01はこちらから
https://globalride.jp/trip-travel/ehimemonitortour24_01_jp/


目次

 1. ITOMACHI IHOTEL0(西条市)
 
2. 石鎚山のUFOライン(西条市、久万高原町)
 
3. 大洲和紙と鵜飼屋形船クルーズ(内子町、大洲市)

1. ITOMACHI HOTEL0(西条市)

旅程3日目の朝、ホテルの客室にさわやかな光が差し込んでいる。窓ごしに見上げる空に、待望の青空も垣間見え、寝覚めも良い。2023年に西条市にオープンしたばかりの「ITOMACHI HOTEL0(ゼロ)」は、低環境負荷なゼロエネルギーでの施設運営を標榜する複合型エコホテル。愛媛の地産品を扱うおしゃれなセレクトマーケットやレストランを併設し、新しい旅の形を提案してくれる。一行は昨夜の晩餐、宿泊もこちらにお世話になり、地産食材のイタリアンで最高の時間を過ごした。そして、今朝の心地よい目覚めから、美味しい朝食とゆったりしたコーヒータイムに和んだあと、早速ライドの準備に取り掛かった。

ITOMACHI HOTEL0
https://itomachihotel-0.com/

昨日までの瀬戸内の海のライドからはうって変わり、今日のテーマは愛媛の山だ。ホテルから望む遠景に、向かうべき山稜の、鮮やかな空の青に縁取られて映えている。中心に西日本最高峰の石鎚山(Ishizuchi-Yama/標高1982m)が、鋭い岩峰を天に向けている。古来より我が国の山岳信仰の中心として崇敬を集めてきた霊峰だ。かの大修験者、役小角(Ennoozunu)が大天狗となって山を守護しているのだとか。神仏習合した日本固有の山岳信仰の話には、参加者みなの関心が特に高い。その山に向かう今日の彼らは、少し神妙な面持ちにも見える。加えて、この旅最大のヒルクライムを含む山岳基調な総距離130kmが今日のルートだから、幾分の緊張もあるだろう。皆が苦楽さまざまな一日になることを予感しながら、ぺダルを踏み出した。

2. 石鎚山のUFOライン(西条市、久万高原町)

まず目指すのは、四国を代表する山岳絶景ルート、その名も“UFOライン”(町道瓶ヶ森線)だ。その名の由来は、あの“UFO”が頻繁に飛来するから…ではなく、雄大な石鎚山系の峰々を望む意味の“雄峰”からだという。そのほとんどが国定公園に指定され、豊かな森と渓谷は、多様な植生を育む。その渓谷を九十九折に巻いて上昇していく峠道を、息を整え登っていく。朝露に濡れたアスファルトに光が跳ね返り、我々の車輪の影がその上を滑っていく。高度を上げるにつれ、高まる呼吸と心拍。苦しさを紛らわそうと頭を上げると、11月も後半になろうというのに、木々はいまだ紅葉に映え、路上を彩る落葉もカラフルなモザイクを描いて美しい。遅い秋も悪くない。まだまだ頂上は遠いから、いちいちペダルを止めるのを躊躇するのだが、つぎつぎ立ち現れる山の美景に、撮影とかこつけて何度となく停車してしまう。さいわい、みなが同じようなペースなので、大きく遅れることもない。全身で噛みしめるようにゆったりとペダルを踏み込んでいく。この山を堪能する秘訣が、このゆったりしたペースにあることに、みなが気づいている。

木漏れ日の森のトンネルを満喫した頃、林道入口のゲートにたどり着いた。じつはここまではUFOラインの贅沢なプロローグだった。この地点で標高約1300m。“UFOライン”の核心は、さらに高地を目指し、ここから始まる。高山の色づいた斜面を、大蛇の這うごとく高みへと伸びる道は、岩稜をくり抜いたフォトジェニックな隧道を抜け、空に張り出す急峻な崖を巻きながら、高度を上げていく。ガイドのウィルと、オーストラリアからのダミアンとパックになり登る。時折、木々の間に見晴るかす山なみの重奏する陰影、目の享楽が続く。風もなく静けさに包まれる山道に、彼らの息遣いまで響いて届いてくる。各々もがきながら、しかし笑顔が絶えないという相反した横顔にカメラを向ける。異国からの来訪者たちも、この山を気に入ってくれているに違いない。

標高を上げた山肌には、密だったブナやモミなど背の高い木々はいよいよ疎らとなり、カンバや熊笹など低灌木と豊かな高原植物が生茂る草原となっていく。坂の傾斜は丸みを帯びて緩み、視界も開けていく。さも天上へ渡るような一本道が、尾根筋に張り付くよう伸びていく。360度にスキのない山岳眺望。絶景UFOラインのハイライトを飾るに相応しい。思わずカメラを取り出す間に、にわかに白く視界を遮られ、その眺望が絶たれた。どうやら厚い霧に巻かれたらしい。尾根を渡る雲に中に呑み込まれたようだった。湿度を感じる霧の中で、ミステリアスな表情を垣間見せる“UFOライン”。スピリチャルなクーパーfromメキシコが興奮気味にブツブツいいながら、アナログカメラを霧の先に向けている。これも、古来修験行者を引き付けてきたこの山が持つムードだろう。大天狗の幻影のような霧の中、クーパーと二人で夢見心地に写真を撮っていたが、雲はまたも唐突に過ぎ去っていった。再び陽光にさらされて現実に引き戻された。なんだか天狗に化かされたような気分のまま、再び現れた標高1700mの絶景を前に佇んでいた。

UFOライン町道瓶ヶ森線
https://www.inofan.jp/spot/recommended/n474/

“UFOライン”(町道瓶ヶ森線)の最高なヒルクライム体験を乗り越えた一行は、天上の世界に別れを惜しみつつ下山の途についた。紅葉を切り裂く、長く爽快なダウンヒルを、チームワークの効いたトレインで注意深くこなし、石鎚山南麓に広がる渓谷へと滑り込んだ。石鎚山系深くに抱かれ、清冽な水源地としても名高い四国最大の面河渓(Omogokei)である。一旦散っていたメンバーも、面河渓の巨大な岩壁を望む橋の上にふたたび集まった。渓谷にたたずむ茶屋で、遅めのランチに日本料理をいただく。栗ご飯に、山菜やキノコ料理、鱒の甘露煮など日本の山間地の伝統食を、箸使い巧みに楽しみながら、ヒルクライムの感想戦に花が咲いている。今日の目的地の内子までは残すところ70kmほどあるが、日本の山村の原風景の名残が色濃く残る渓谷のダウンヒルは、目にも足にも走り甲斐がある道だ。この地で生まれ育ち、この地の暮らしと風景をたびたび物語に描いた大江健三郎は、ノーベル賞作家として参加者も知る存在だ。日本の山村風景が、言葉と体験を通してグローバルに伝播していく、コミュニケーションの不思議を感じながら、多国籍混成のサイクルトレインは渓谷を駆け下りていく。

面河渓
https://kuma-kanko.com/spot/spot26/

3. 大洲和紙と鵜飼屋形船クルーズ(内子町、大洲市)

“UFOライン”のビッグライドを終え、内子に一泊した一行は、翌日、愛媛中部を代表する観光地、内子町と大洲市を周遊する50kmほどのイージーライドに出かけた。周辺の自然の豊かさはもう言わずもがなとして、古くから木材産業や製紙産業に栄え、河川合流地として重要な物流拠点でもあったこの地は、独自かつ豊かな歴史と文化を育んできた。その遺産を維持発展させるべく、全国に先駆けサステナビリティ推進に取り組む先進的なモデル地域としても、国内外に広く知られている。伝統と先進の融合への挑戦が認められつつあることは、地域はもちろん、愛媛の誇りでもあるだろう。ローカルでグローバルなこの地域の魅力を実体験すべく、内子の街へ走り出した。旧街道の面影色濃い歴史保全地区を抜け、近隣の里山ライドへ。グラベルや、ヒルクライムでひと汗かき、立ち寄った大洲和紙(Oozuwashi)では、紙漉きと箔押しの伝統的な工芸体験、大洲の歴史地区から大洲城、そして肱川(Hijikawa)の鵜飼屋形船クルーズなどなど、走りどころがもりだくさん。リカバリーデイのはずのこの日も、情報処理に嬉しい悲鳴の御一行様。

印象的だったのは、大洲城や歴史地区をガイドしてくれたヴィンセントさん(スペイン)や、内子を拠点にサイクリングツアーを企画運営するウィルさん(英国)など、この地に惚れ込んだ海外からの移住者が、地域振興に積極的に取り組む姿だった。彼らの存在が、いかに外国人サイクリストのみならず旅行者を、日本の魅力に引き寄せてくれるかは、計り知れないものがある。イージーライドのつもりが、愛媛の深いところに触れた一日でもあった。

さて、この時点で愛媛の魅力に十二分浸った感がありながら、まだ前半戦が終わったばかり。明日の西伊予海岸線の岬めぐりを前に、引き続き晴天予報の嬉しさや。しまなみとは違った最高のシーサイドライドになる公算がヒジョーに高い。いよいよツアーレポートも最終盤へ。第3回(最終回)、乞うご期待。

つづく

🚴‍♂️愛媛県主催 海外メディア向けサイクリングモニターツアー参戦記
#01 今治市周辺
#02 西条市~石鎚山~内子
#03 宇和島市~松山市

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

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