「たら、れば」を語ると嫌われる。 それもそうだ。 「あの時、ああしていたらなあ」とか「もっと、勉強していればなあ」というような話ばかりの人と飲んでいて楽しいはずがない。だが、「仮の話」は想像力をかき立てる。「もし、この世に○○がなければ」というタイプの話だ。 もし、この世にエジソンがいなければ。もし、この世に手塚治虫がいなければ。 もし、この世にスティーブ・ジョブスがいなければ。 どうだろう。偉大な存在がいなければ、世界が一転する。エジソンの代わりに誰かが電球を発明したのだろうか。映画は存在したのだろうか。手塚治虫がいなければ、マンガはどうなっていたんだろうか。ジョブスがいなければ、私たちはどんなコンピューターを使っていたのだろうか。『イエスタデイ』(2019年)は、「もし、この世にザ・ビートルズが存在しなかったら」という、言うならば思考実験のような映画。パラレルワールド系映画なので、細かな突っ込みはいらない。ただ、身を委ねて楽しむのが一番だ。 元教師で売れないンガーソングライターのジャックはスターを夢見ていた。しかし、友人たちには応援されるものの、ライブはいつも閑古鳥。全く売れる気配がない。ある日、世界の電気が12秒間だけ消えてしまう不思議な現象が起こる。ジャックは唯一の移動手段である自転車(彼は車の運転ができない)で家に帰る途中、バスに跳ね飛ばされてしまう。彼が病院で目覚めると前歯を失っていた。しかし、世界が失った物はそれだけではなかった。この世からビートルズの存在が消えてしまっていたのだ。ビートルズのサウンドが頭の中にあるのはジャックだけ。彼が弾き語りで『イエスタデイ』を […]
人生で没頭できることを見つけられたら、その人生は成功ではないだろうか。もちろん、その没頭できる(つまり好きなこと)ことで生活できればなお良い。さらに、その世界でトップに立ったら最高だ。しかし、世の中は厳しい。子どもの頃から努力して、プロになっても、その世界で活躍できる人は稀だ。 『ガチ星』(2017年)は、元プロ野球選手であった濱島(安部賢一)が主人公の物語。彼は野球選手ではあったが、その心まではプロフェッショナルではなかった。煙草を吸い、酒を飲み、やさぐれていた。ある日、戦力外通告を受け、さらに自堕落な生活に陥る。パチンコや酒に溺れ、さらには親友の妻にまで手を出してしまう。絵に描いたような負け犬だ。 このままでは地の底に落ちる。最後の悪あがきで挑んだのが競輪だった。39歳で競輪学校に入るが、20歳以上も年の離れた若者たちと厳しい訓練の日々が続く。元プロ野球選手といっても、酒や煙草に浸っていたため持久力はなく、教官や他の生徒たちから馬鹿にされる。そんな中、濱島は同郷の同級生である久松に出会う。なぜそれほど打ち込めるのかと濱島が尋ねると、久松は「これしかねえっちゃ」と言う。久松にはプロにならなくてはならない理由があった。久松の魂に触発された濱島は、失った自分を取り戻すために力強く自転車を漕ぎ始め、なんとかプロになることができた。 しかし、プロになってもうだつの上がらない濱島であった。人はすぐには変わらない。クズはいつまでたってもクズであることを証明するかのような男であったが、大事故をきっかけに濱島はある種の悟りの境地にたどり着く。道路で立ち止まり、自問し、自責し、今の自分にできる […]
最近のSF映画は難しい。多くの人が『特殊相対性理論』の基本を理解しているため(なんとなくだけど)、いくら科学技術が進歩しても「宇宙人が地球にやってくる」ことは、理論上非常に困難であると思っている。だから、『インターステラー』のように多次元展開したり、『メッセージ』のように過去から未来の時間は同時に存在しているという設定にしたり、『三体』のように三体問題(地球人には解決できない)を乗り越えたりして地球人の前に現れる。まことにややこしい。現代のSF映画では宇宙人を描くことが以前よりも複雑になっている。映画人、苦難の時代だ。 その点、『E.T.』(1982年)のストーリーは明快だ。宇宙人の学者たちが地球に植物採集にやってきて、LAの夜景に見とれていたE.T.(本名不明)は取り残されてしまう。E.T.は心優しきエリオット少年と出会い、兄妹たちと共に親交を深め、地球の機材を使って交信機を作り宇宙船を呼び寄せて星へ帰る。なんてシンプル。 しかし、E.T.はちょっと抜けている(人間より高度な設定ですよね)。そもそも、宇宙船に乗り遅れるし(あとで怒られただろう)、ものを落としたり(人間とほぼ同じ構造の手なのに)、酒を飲んで酔っぱらって失態をおかすなど、かなりやらかし男だ(野口聡一さんは取り残された星で酔って倒れたりはしない)。しかし、ほのぼのさが子どもの心を掴むのだから、彼の人徳というべきなのかもしれないが。 実はこの『E.T.』、かなりの自転車映画でもある。前半、お菓子をまいてE.T.をおびき寄せる時(学者なのに……)にエリオットが乗っていたり、ハロウインの日に月を背景に空を飛ぶシーンなどに […]
今回はナチュラルワインオタクからヴィニュロン(生産者)になった男、ヴァンサン・マリーのエピソードをご紹介します。 「オタク」という言葉はネガティブに感じることが多いのではないでしょうか?強面のいかつい大男。腕には立派なタトゥー、好きな音楽もパンクロックやフュージョンメタル…ヴァンサン・マリーは「オタク」という言葉は連想しきれないほどオタクな男です。 彼のワイナリーの名前は『ノーコントロール』。 フランスのオーヴェルニュ地方(お水のヴォルヴィックといえばわかりやすいでしょうか)でワイン造りをしているヴァンサン。とにかくヨーロッパのさまざまな有名生産者を尋ねると、ワイナリーにはほぼ必ず『ノーコントロール』のシールが貼ってあります。 元々造り手ではないヴァンサンは、2004年にナチュラルワインのサロンを立ち上げました。2008年まで続けたこのサロンで、たくさんのナチュラルワイン生産者と直接知り合うきっかけをつかんでいきます。当時、彼はスポーツ用品の営業マンでしたが、次第にワインづくりに興味を持ち始め…2008年にアルザスの本社に転勤になり、 スポーツ用品のWebマーケティングを担当。この時期により深くヴァンナチュールを学ぶために、 余暇のほとんどを生産者訪問に費やします。そしてついに2012年、ワイン生産者になる決意を固め8年間働いた会社を退職しました。 そんな異色な経歴を持つ彼との初対面は、2016年にオーヴェルニュを訪問の際に、たまたま晩御飯を食べているお店にて。彼のワインは飲んでいたものの、会うのは初めて。出会って最初からのブラインドテイスティング大会がスタート。中身のわからな […]
ライドを楽しむ人を繋げます。日本人初のツールドフランス出場者・今中大介さんからの「りんとも」は、岩波信二さん。「星のや富士」でサイクリングガイドをされている、こちらもライドのプロです。最近はどのようなライドをされているのでしょうか。 目次 Profile 1. 愛車を教えてください 2. お気に入りのサイクリングコースは? 3. 直近で出場したライドイベントとその感想 4. 次に参加してみたいライドイベントとその理由 5. 過去のライド人生における最も印象的な思い出 6. ライド関係のお気に入りグッズとその理由 7. あなたにとってライドとは? 次回ゲストのご紹介 Profile 名前 岩波信二職業 星のや富士 サイクリングガイド、マッサージ師趣味 サイクリング、サウナ自転車歴 40年SNS Instagram @shinji_iwanami 1. 愛車を教えてください CannondaleのSynapse先シーズンはニセコクラシック、グランフォンド世界選手権、全日本選手権シクロクロスマスターズを全てこの一台で走りました。 2. お気に入りのサイクリングコースは? 富士山周辺の林道です。特に交通量が少ない滝沢林道はストレスを感じず、無心になれるので夏場は毎日走りますね。もう一つは、箱根から湯河原の椿ラインです。富士山、駿河湾、相模湾が360度の大パノラマの贅沢ラインです。こちらに雪が積もる頃は毎週走りに行きます。 3. 直近で出場したライドイベントとその感想 全日本選手権マスターズ。50歳クラスのエントリーは80名ほどでした。第二次ベビーブームに産まれた子どもたち=私たちは、 […]
名古屋圏のみならず全国にファンを持つ「CIRCLES」。自転車愛とこだわりに溢れるローカルなショップが、2/29(木)に東京の都心に出店した。立地は虎ノ門ヒルズの3階。修理も行う自転車店が高層ビルの一角に店を構えるとは、かなり思いきった出店かもしれない。とはいえ、グランドオープンでは東京在住の顧客が駆けつけ、100万円以上もするハンドメイドバイクが売れるなど、出だしは好調。ベイクルーズ(アパレル企業)との協業店舗ということもあり、オリジナルのスウェットやパンツの品揃えも豊富だ。今後はサイクリングイベントも企画されているようで、都心のバイクカルチャーに新しい風が吹きそうな予感。 Circles Tokyo 東京都港区虎ノ門2-6-3 3F 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 定休日:なしhttps://circles-jp.com/https://www.instagram.com/circlestokyo/