Tour de Natural Wine
#02 Dard et Ribo “Crozes Hermitage Blanc 2019”
-ブドウ畑をマウンテンバイクで巡る-

実は自転車と縁があるナチュラルワイン。連載の2回目は東北・仙台市で20年ほど前からナチュラルワインを追求し続けてこられたセラーワーカー兼「LoveSong by BATONS」店主の板垣卓也さんよりお届けします。

ルネジャン宅でのランチ後

ナチュラルワインに出会って20年。フランスを中心にたくさんの造り手を訪問してきました。
私の初回コラムということで、とても印象に残っている訪問先での自転車エピソードと共にワインをご紹介したいと思います。

2011年。収穫のピークも過ぎたタイミングでギリギリ訪問をOKされたのはフランス ローヌ地方の 「ダール エ リボ(Dard et Ribo)」。フランソワ・リボ(Francios Ribo)とルネジャン・ダール(Rene Jean Dard)の2人が担うワイナリーです。日本語しか話せない私が、一人での訪問。不安もありましたがここを訪れるのは3度目でしたし、「日本人のスタジエ(stagiaire)*1もいるよ」とルネジャンから連絡も来ていたので迷いなく訪問させていただきました。

到着後、大きな樽の中に人が入り葡萄を足で潰すピジャージュ(pigeage)*2という作業を手伝いました。そして作業後、ランチまで時間があるからと、フランソワの家に連れて行かれ「はい、これ」とマウンテンバイクを渡されたのです。

「????」

「ランチまでに戻って来いよ」

せっかくだからワイナリーがあるタンエルミタージュ(Tain-l’Hermitage)を探索して来いと。
ピジャージュで足の疲れが…な状態でしたが、スタジエに来ていた方と2人で約二時間のツーリングへ。

ダール エ リボ(Dard et Ribo)のワイナリー

もちろん街へは行かずに葡萄畑が見られるエルミタージュ(Hermitage)の丘へ。今まで(現在もですが)車での訪問が多く、一日二軒、多い時で三軒のワイナリー訪問をする私にとっては、ゆっくりと畑を見て周れることなどなかなかない貴重な時間です。ローヌ川と並行してバイクを走らせ、ちょっとキツかったけどエルミタージュの丘へ。エルミタージュ独特の急斜面の葡萄畑とローヌ川を見下ろす絶景の場所です。帰り道はちょっと冒険し過ぎて道なき道へ迷い込んでしまい…バイクを担いで丘を降りるということになってしまいましたが。

エルミタージュ(Hermitage)の丘

それ以来、ゆっくりバイクで葡萄畑を見て周るなんてことはできていないのですが。もし時間があってワイナリーの近くに連泊できる旅ができたら、やっぱりあの時のようにバイクでツーリングなんて最高だよなぁ。誰かにお店を任せて旅に出たい衝動と妄想ばかりが膨らみます。

そんな貴重な体験をさせてくれた「ダール エ リボ」のルネジャンとは今でも仲良くさせてもらっています。フランスに行ったら家に泊めてもらったり。先日の来日時には、一緒に京都旅行をしてきました。

ルネジャンとパートナー

初めて彼のワインを飲んだのが2004年。正直、個性的過ぎて…「なんなの?このワイン。この味わい。この匂い。」なんて驚きの連続だったのを覚えています。当時はワインを「とにかく還元」することで酸化防止剤の添加を少なくさせる醸造が主流でした。還元状態のワインは温泉卵や硫黄のような香りが強くて(ビオ香なんて言われていた頃も)なかなかお客様に受け入れてもらうのが難しいワインでした(もちろん提供する私たちの知識と技術のなさもあったのですが)。まぁそのワインが20年の熟成を経てスーパー美味しいワインに変化してしまうのです(その頃はこんな風に変化していくなんて思ってもみませんでしたけど)。

ナチュラルワインの世界ではレジェンド生産者となっている2人。近年では醸造環境や醸造方法も変化し、リリースしたてから(もちろん寝かせたらすごいんですが)美味しいワインを提供してくれています。

*1 スタジエ(stagiaire)_フランス語で「研修者」「実習生」

*2 ピジャージュ(pigeage)_液面に浮かび上がってくる果皮などの固形成分=「果帽」を押し入れる作業

本日のナチュラルワイン

Dard et Ribo Crozes Hermitage  Blanc 2019
ダール エ リボ クローズ エルミタージュ ブラン 2019
香りは非常に華やかで、洋梨、アプリコット、黄桃の濃厚なそれに加え、シトラスやグレープフルーツの爽快さも感じられます。徐々にカモミールやアカシアのハチミツっぽいちょっとしたスパイスやネットリとした香りが膨らみ、繊細な樽のニュアンスが加わることでより複雑さが増していきます。宝石のようなキラキラした味わいで、強いが柔らかくトロピカルな果実感と高すぎない酸が全体を優しく包み込んでいます。熟成により、妖艶なニュアンスも感じられるようになっており、単純でパワフルな味わいとは違った柔らかさを感じられます。

【内容量 Net】750ml
【産地 vineyard】フランス France>ローヌ Rhone>クローズ エルミタージュ Crozes Hermitage
【品種 variety】ルーサンヌ Roussanne
【タイプ type】白 Blanc

Dard et Ribo Crozes Hermitage Rouge 2019
ダール エ リボ クローズ エルミタージュ ルージュ 2019
ダール エ リボのスタンダードワイン。黒や紫系の果実の風味がいきいきと感じられ、スミレのような華やかな香りがグラスいっぱいに広がります。しっかりと凝縮した果実味としなやかな飲み心地のバランスが秀逸で、シラーが女性的な品種であるという造り手自身の言葉を体現した味わい。

*フランス語で葡萄品種のシラーは男性名詞。でも「ダール エ リボ」のルネジャンは女性的な葡萄だといいます。若い頃はしなやかだけど、時間が経って(年齢を重ね)力強さが出てくるから、と。

【内容量 Net】750ml
【産地 vineyard】フランス France>ローヌ Rhone>クローズ エルミタージュ Crozes Hermitage
【品種 variety】ルーサンヌ Roussanne
【タイプ type】赤 Rouge

Profile

板垣卓也/Takuya Itagaki
宮城県・仙台市内に構えるワインショップ「LoveSong by BATONS」店主。20年前にナチュラルワインに出会い、魅了され、現在はキュイジニエ(料理人)からキャヴィスト(セラーワーカー)に。2002年から仙台にてビストロ数店をオープンし、東北エリアでいち早くナチュラルワインを取り扱う。2015年、ナチュラルワインの専門店「BATONS」をオープン。2023年に業務店向けの専門店へ転向し、新たにアパレル店と空間を共にする一般小売ワインショップ「LoveSong by BATONS」をオープンする。東日本大震災後、山形のタケダワイナリーと協業し東北6県の葡萄を集めて混醸したオリジナルワイン「ヴァンドミチノク Vin de MICHINOKU」を商品化したプロジェクトの発起人でもある。有限会社MaCuisine代表/業務店卸売ワインショップ「BATONS」店主/「満月ワインバー仙台」店主

CULTURE
CYCLE CINEMA⑧
『PERFECT DAYS』
日常は美しく、それはあまりにも

ある年齢層にとってヴィム・ベンダース監督は特別な意味を持つ存在だろう。ミニシアターがカルチャーに大きな影響力を持っていた時代、彼の撮る作品はどれも「観るべき映画」だった。『パリ、テキサス』(1985年)『ベルリン・天使の詩』(1987年)が大ヒットを記録した後、ヴェンダースの作品群――『ゴールキーパーの不安』、『都会のアリス』、『さすらい』など――が、何度もリバイバル公開された。熱狂とは言わないが、静かにヴェンダースの映画は受け入れられた。現在活躍する映画監督や映像作家たちに与えた影響は計り知れない(映画を学ぶ学生たちは狭い日本の中でロードムービーばかり撮っていたのだ)。

#Wim Wenders
CULTURE
CYCLE CINEMA⑩
『E.T.』
自転車で空が飛べると思った頃

最近のSF映画は難しい。多くの人が『特殊相対性理論』の基本を理解しているため(なんとなくだけど)、いくら科学技術が進歩しても「宇宙人が地球にやってくる」ことは、理論上非常に困難であると思っている。だから、『インターステラー』のように多次元展開したり、『メッセージ』のように過去から未来の時間は同時に存在しているという設定にしたり、『三体』のように三体問題(地球人には解決できない)を乗り越えたりして地球人の前に現れる。まことにややこしい。現代のSF映画では宇宙人を描くことが以前よりも複雑になっている。映画人、苦難の時代だ。 その点、『E.T.』(1982年)のストーリーは明快だ。宇宙人の学者たちが地球に植物採集にやってきて、LAの夜景に見とれていたE.T.(本名不明)は取り残されてしまう。E.T.は心優しきエリオット少年と出会い、兄妹たちと共に親交を深め、地球の機材を使って交信機を作り宇宙船を呼び寄せて星へ帰る。なんてシンプル。 しかし、E.T.はちょっと抜けている(人間より高度な設定ですよね)。そもそも、宇宙船に乗り遅れるし(あとで怒られただろう)、ものを落としたり(人間とほぼ同じ構造の手なのに)、酒を飲んで酔っぱらって失態をおかすなど、かなりやらかし男だ(野口聡一さんは取り残された星で酔って倒れたりはしない)。しかし、ほのぼのさが子どもの心を掴むのだから、彼の人徳というべきなのかもしれないが。 実はこの『E.T.』、かなりの自転車映画でもある。前半、お菓子をまいてE.T.をおびき寄せる時(学者なのに……)にエリオットが乗っていたり、ハロウインの日に月を背景に空を飛ぶシーンなどに […]

#Cinema #Colunm