The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#01 夜明け前

日本列島を走りぬく、知る人ぞ知るウルトラロングディスタンスのライドイベント「The Japanese Odyssey(ジャパニーズオデッセイ/以下、TJO)」。Global Ride編集部が敬愛を込めて追跡している、謎めいたこのイベントが2025年に再び開催されるらしいと耳にした。
早速webサイトをチェックすると、しばらく更新が途絶えていたTOPページには主催者からの開催予告メッセージが!
あのクレイジーな旅*が2年越しに繰り広げられようとは、居ても立ってもいられない。
いやいや、とはいえ、数千キロ、グラベルあり、完全自給自足のこの過酷なライドを、当日に向けてどう準備すればいいのか?かつての参加者は己の心身へのプレッシャーをどうやって乗り切ったのか?

Be prepared for true solitude. 真の孤独に備えよ
Be prepared. 準備せよ

開催予告を前に、webサイトに掲載されている主催者のメッセージが漠然とのしかかってくる。

2016年に初開催されたTJOの全容を綴った第一弾に続き、参加ライダーそれぞれの個性と装備に迫る連載の第二弾をお届けします。書き手は再び、TJOを語る上で欠かせないフォトグラファーの下城英悟氏。自身もライダーだからこその、ライド愛溢れる鋭い視点を含んだエッセイをここから。

#01 夜明け前

さて、話を巻き戻して2016年、“ジャパニーズオデッセイ元年”から辿ろう。

出走日が間近に迫っていた。英語版の大会要項と、沈黙気味の公式SNSに辟易しながらも、情報を得るべくPC画面と首っ引き。そして都内で大会前のブリーフィングイベントがあることを嗅ぎつけた。行かねばなるまい。出走前日、代官山のカフェバーが会場となっていた。
少し早く到着した夕刻の代官山、通り沿いのガードレールにそれらしい自転車が数台括りつけられている。見慣れぬバッグ類が取り付いた玄人筋の自転車が人目を引いている。入口には簡素な張り紙の案内があるのみ、半信半疑で雑居ビルを上がる。会場の最上階までたどり着いた先、狭くも洒落たオープンエアのルーフトップテラスには、もう数名の外国人が集っていた。立ったままビール片手に語り合う男たちの輪が、にわかに熱を放っている。
はじめてのウルトラディスタンスの現場に飛び込んだことに静かな興奮を憶え、下手な英語で誰彼話しかけ写真を撮る。イギリス、ドイツ、フランス、フィンランド、オーストラリア、ノルウェー、韓国、アメリカ…。想像を超える参加者の多国籍ぶりに驚いていると、控えめに歓談を遮って背の高い男性が挨拶を始めた。
まず遠方より集った参加者へ、丁寧な労いの言葉から。フレンチアクセントの英語が少し上ずるのは、役回りの不慣れからくる緊張からだろう。壮大な冒険の始まりを思いながら事前に想像していたよりシャイな印象を持った。しかし、ブリーフィングが進むうちに彼の”ジャパニーズオデッセイ”への思いの込もった言葉に、徐々に引き込まれていた。
彼こそがこの大会のオーガナイザー、エマニュエル。傍らには相棒、輪をかけてシャイなギョームが並んでいた。
シャッターを切りながら話の断片をつなげる。霧の中、不明瞭だったパズルピースが、頭の中で少しづつ繋がっていく。そしてレースを取り仕切るのは、目の前にいるこのたった2人のフランス人なのだ、とあらためて知る。

続く


🚴‍♂️The Japanese Odyssey Report Series
*第二弾連載はこちら
#01 夜明け前
#02 波、来たれり
#03 “Be prepared”
#04 動き出すドットたち
#05 CARLOS / DAVID / PASCAL
#06 TOM / GUILLAUME / EMMANUEL

第一弾連載はこちら
#01 ウルトラディスタンスという世界へ
#02 2015年、7月18日を目指す
#03 僕の「The Japanese Odyssey」元年へ
#04 クレイジーな設定
#05 “謎”の仕掛け人
#06 日本贔屓の引き倒し



🚴‍♂️The Japanese Odyssey 公式webサイト
https://www.japanese-odyssey.com/


Text&Photo_ Eigo Shimojo

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

EVENT
The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#03 “Be prepared”

Global Ride読者にはすでにお馴染みの「The Japanese Odyssey」(以下、TJO)。日本列島をひた走るインディペンデントなウルトラロングディスタンスイベントが、2025年、2年越しに開催されるという。公式インスタによると、今年は北海道が出発点らしい。次はどんな(クレイジーな)旅が待ち受けているのか、編集部が全容はいつまで待てばいいの!?とソワソワしながらお届けするTJO連載第二弾。自身もライダーであるフォトグラファー・下城英悟氏が、2016年の第二回開催時、まさにリアルTJOに出会った瞬間とそのコアに迫ったエッセイをここから。 *前回のエッセイはこちら #03 “Be prepared” ところで、たった2名の主催とはいえ、参加者と共闘すると考えた場合、TJO公式キャッチフレーズ、“Be prepared”は、お題目以上の“生きた言葉”になる。つまり、このチャレンジングな旅が冒険であることを宣言し、同時に準備を怠ってはならぬと警鐘を鳴らす。“そなえよつねに”、ボーイスカウトのモットーとして世界中で用いられ、自然環境下のサバイバルにおける心身の置きどころを指南する短くも強力な呪文だ。いかなる時も備えを要する冒険=TJOにも当然のように浸透し、旅の途上の場面場面で頻出する。レース中、コンビニで偶然再会し互いの健闘を労い合う時、先行者が危険なルート情報をSNS共有する時、“Be prepared”の言葉は、見えないが共に走る仲間たちへの思いやりと、冒険を無事終えて愛する家族のもとへ帰宅すべき自らの責任を鼓舞してくれる。冒険に向かう者みなが、自らを律する“生きた […]

EVENT
The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜 #08 最終回
ハードコアでいこう🇦🇺
北欧からのメッセンジャー🇫🇮
君はオッチーを知っているか?🇯🇵

あまりにも手がかりがなく、超距離の、ひっそりと最高に熱いライドイベント「The Japanese Odyssey」(以下、TJO)。その参加者に迫ったフォトグラファー・下城英悟氏によるコラム第二弾も今回で最終回を迎えます。そして、この謎めいたイベントは私たちの連載中に、2025年の開催概要を明らかにしていました。今回のキャッチフレーズは “The forgotten Tōge” 。忘れられた峠…!詳しくはオフィシャルサイトをご確認いただきたいのですが、簡単にここで概要をお伝えしましょう。 スケジュール 2025年10月3日(金)〜13日間と12時間(324時間)*10月2日(木)に福岡でプレイベント開催予定スタート地点 鹿児島県鹿児島市桜島半島ゴール地点 長野県松本市アルプス公園想定走行距離 2,300km(それ以上かも)想定獲得標高 46,000m(かなり上ります)チェックポイント 20箇所https://www.google.com/maps/d/u/1/viewer?mid=1Njnf0QdNpra2GKK825FaxD74JYfOeWY&ll=0%2C0&z=8 特筆すべき点 NGO「JEAN(Japan Environmental Action Network)」と連携JEANは海洋ごみの清掃や調査を専門とするNGO。2018年、TJOの主催者であるエマニュエルとギョームがふと降りた太平洋側のビーチに海洋ごみが散乱しているのを見てイベントのあり方を含めて考えさせられたことから、今回の連携を決めたそう。寄付を募り、イベント後に送る […]

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#05
“謎”の仕掛け人

目次 1 誕生の地、ストラスブール2 エココンシャスな仲間3 ウルトラディスタンスへ 1 誕生の地、ストラスブール さて、このあたりでTJOの主催者、謎掛けの真犯人について、すこし話すべきだろう。 世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスを擁するフランス。1791年にパリで自転車の原型が発明されて以来、その伝統と格式、そして誇りを、この国ほど体現し守ってきた国もない。ツールを頂点としながら、フランス全土で催されるレースやイベントの中には100年を超える歴史を持つものもザラだ。そういう文化的土壌が、かのブルベの様式や、その頂点パリ=ブレスト=パリなどを育くみ、世界の自転車文化を牽引してきたといえる。フランス人の中で、それは乗り物以上の存在と言えるのかもしれない。 さて、日本の自転車イベントの話が、なぜかフランスに飛んでしまったが、これには深いワケがある。 場所はフランスの北部、ドイツとの国境地帯アルザス地方の主要都市ストラスブール。この地で物語は始まった。自転車を楽しむに最適な、美しい丘陵が織りなすこの地に育ったエマニュエル・バスチャンとギョーム・シェーファーの2人が、なにを隠そうこの物語の編み手である。 2 エココンシャスな仲間 話は飛ぶが、90年代〜00年代初頭、北米のストリート発のサイクルメッセンジャーカルチャーが世界を席巻していた。サイクルメッセンジャーとは、簡単に言うと都市型自転車宅急便である。インディペンデントかつ実践的なサイクリストコミュニティに根ざしながら、創造的なDIY精神や、今日のSDGs哲学にも先駆けたエコ思想を、サイクリストの体一つで深め、体現しようと […]