「気持ちいい」という言葉しか出てこなかった。
ロード初心者、初めてのハワイ、初めての160キロ
-ホノルルセンチュリーライド体験記-
編集者Mの友人、デザイナーY
「率直に言うと、めっちゃ気持ちよかったです」
ホノルルセンチュリーライドを走り始めたとき、そして走り終わったときも、私の口から出たのはその一言でした。疲れも、達成感も、悔しさも、全部がその言葉の中に溶け込んでいる感じがして、それ以上うまく説明できなかった。
グラフィックデザイナーとして仕事をしている私が、なぜハワイで160キロの自転車レースに参加することになったのか。今回はその話をしようと思います。初めてのハワイ、初めてのアメリカ、そして初めてのロングライド。普段は子どもの送り迎え以外自転車に乗っていない僕の、何もかもが「初めて」だらけの数日間を、できる限り正直に振り返ってみます。
「初めてのアメリカ」がハワイだった
まず正直に言っておくと、今回はハワイどころか、アメリカ自体が人生初でした。ESTA(米国への電子渡航認証)を取得するところから始まった旅です。
ワイキキに降り立ったとき、最初に感じたのは「歩きやすい」ということでした。観光地だから人は多いのですが、道が広いし、空も広い。東京に住んでいると、人が多い場所というのはどこか窮屈な感じがするものですが、ワイキキにはそれがありませんでした。抜け感があって、シンプルに過ごしやすいんです。

みんなの服装も含めて、イメージしていたハワイ通りの開放的な空気がありました。かっこいいというより、とにかく気持ちいい。暖かいから薄着で、それがまた周囲の景色に溶け込んでいて、なんだか全部が自然でありのままでいられる場所だなと思いました。

交通事情も印象的でした。運転手と目が合うと必ず止まってくれて、「行っていいよ」というハンドサインを送ってくれる。クラクションも抗議ではなく、促す意味合いのものがほとんどで、威圧的な感じがまったくない。バスに乗ると、若い人たちが自然に奥へ進んで座っていき、高齢者や体の不自由な方が乗ってきたら迷わず席を譲る。そういう当たり前のことが、本当に当たり前として浸透している社会なんだと感じました。
自転車で走っていても同じでした。車から一切威圧的な雰囲気を受けることなく、むしろ大切にされている感覚すらある。交差点では歩行者が最強で、次に自転車、そして車という優先順位が徹底されていました。いたるところに自転車用のチェーンをかけるポールが設置されていて、ここは本当に自転車フレンドリーな街だと実感しました。

ダウンタウンと本屋さんとレコード屋
街に着いたとき、私がまずやることは決まっています。本屋さんとレコード屋を調べること。どの街に行っても、まずそこから始めます。ハワイでもその習慣は変わりませんでした。
チャイナタウンのあたりで見つけた「Skull-Face Books & Vinyl」というお店がとても良かったです。ショーウィンドウに骸骨が飾られていて、ロックなお店。中にはレコードとカセット、そして本も揃っていて、上に飾られた絨毯がどれもかわいらしかった。店員さんに写真を撮っていいか確認してから、いくつか記録させてもらいました。

もう一軒、「Native Books」にも立ち寄りました。靴を脱いで入る本屋というのが、街の喧騒とは対照的でピースフルな雰囲気を醸し出していて、すごく誠実な場所だなと感じました。「Art & Letters」という言葉がサブタイトルに使われていたのも印象的で、AI全盛のこの時代に、こういう空間の存在が愛おしくなりました。
ちなみに、ネット書店では絶対にたどり着けないような本が海外の本屋には並んでいます。重さの問題はあるけれど、ここでしか出会えないものがある。そういう発見が、旅の中でいちばん密度の高い時間になるように思います。

ダウンタウンからチャイナタウンを抜けた先の「ソルト」あたりも、独特の雰囲気がありました。カルチャーもサブカルチャーもあるというか、アンダーグラウンドな空気のある街並み。集合住宅が並んでいて、かっこいいわけでもないけれど、ちゃんと個性がある。なんとも言えない不思議な場所でした。
160キロに挑んだ理由

ホノルルセンチュリーライドは、25mile(40km)、50mile(80km)、75mile(120km)、100mile(160km)と複数の距離から選べます。編集者Mさんが初ライドで走った距離と同じ50mileにしようと思っていたのですが、最終的には100mileでエントリーしました。
なぜかと聞かれると、正直なところ「根拠はなかった」のだと思います。せっかくなら限界以上にやってみたいという冒険心と、参加者の個人ブログをいくつか読んでいるうちに、なんとなく行けるんじゃないかという気持ちになった。それだけです。
使った自転車はレンタルでした。フレームサイズが48というちょっと小さめのものしか残っておらず、もう一台の候補はリムが太くて風に煽られやすいということで断念。当日はハリケーンの影響で風が強かったので、それは正解の判断だったと思います。
スタートの瞬間はとにかく気持ちが上がりました。ハワイ州歌が流れて、周りには様々な国籍のサイクリストたちがいる。ダイヤモンドヘッドを越えるまでは体力も十分あって、「これ、いけるじゃないか」という気持ちになっていました。
海を抜けると、そこは別の星だった
コースでいちばん印象に残っているのは、ハナウマベイ方面を通り過ぎ、山沿いを走るエリアです。車が完全に通れなくなっているエリアを抜けると、スケール感がおかしくなる感覚があって、「ここは地球だけど、本当に地球なのか?」と思いました。

海と山が同時に視界に入る。日本でなかなか得られない感覚です。山を見ながら坂を下っていくあの気持ちよさは、言葉で説明するのが難しい。車でも歩いても得られなくて、自転車でしか、ああいう感じ方はできないんだと思います。普段の車通りが多くて危険なルートを、この日だけは自転車で独占できる。それがホノルルセンチュリーライドの特別なところだと感じました。
山に入ると風が遮られて、海沿いとはまた違う穏やかさがある。ジュラシックパークのような山を眺めながら、大きな家が立ち並ぶ住宅街を走っていると、ここに暮らしている人たちの生活の匂いが感じられて、それがとても好きでした。自然と人の営みが共存している、その感覚です。

補給ポイントは全エイドに整備スタッフが常駐していました。キープロジェクトというエイドで自転車の調子を見てもらったとき、少し異音がしていたのですが「走れなくはない」という判断でそのまま続行。こういうサポート体制があると、初心者でも安心して参加できます。

エイドで食べたものの中で特においしかったのは、ひとつはタロイモ入りのドーナツ。紫色で、最初のエイドにしかなかったので残念でしたが、とにかくおいしかった。もうひとつはキープロジェクトにあったココナッツのプリン。ライド中の補給食として最高でした。
水なし、40キロ
折り返し地点を過ぎたあたりから、体が急激に重くなっていきました。気温は30度くらいで、午後の日差しが容赦なく降り注いでいる。気持ちはまだあるのに、ペダルが踏めなくなっていく感覚。お尻も痛くなってきていました。
帰り道でエイドを一つ見落としてしまって、気がついたら40キロ以上を水なしで走っていました。途中でチェーンも外れた。それでも前に進み続けたのは、「とにかくゴールしたい」という一心だったと思います。カフェに立ち寄るとか、コンビニで水を買うとか、そういう発想すら出てこなかった。ただひたすら前を向いていました。
残り2マイルのところで、道路脇に住んでいると思われる女性が出てきて、「残り2マイルだよ、頑張れ!」と声をかけてくれたんです。あれは本当に嬉しかった。見知らぬ人の一言がこんなにも力になるものかと思いました。
ゴールで待っていたもの
ゴールには、先にフィニッシュしていた人たちがいました。到着した瞬間に「わー!」と迎えてくれて、それだけで報われた気持ちになりました。「でも、誰?」と思ったら、途中で颯爽と追い越していったかっこいいウエアを着こなした本格的なバイクチームでした。スピードも速いし、雰囲気も凄みがあって、正直ちょっと怖いくらいだったのですが、僕がゴールしたとき、その人たちが「イエーイ!」と盛大に迎えてくれたんです。特に何も話したことのない人たちから祝福されるというのは、こういうイベントならではの体験で、とても嬉しかったです。
走った総距離はおよそ130キロ弱、獲得標高は968メートルでした。コース全体の獲得標高がおよそ1000メートルほどなので、登りのほとんどはしっかり上り切ったことになります。目標の160キロには届かなかったけれど、初めての挑戦でこれだけ走れたことは、自分の中で大きな自信になりました。

帰りの飛行機の中でずっとロードバイクを調べていました。「何を買おうか」と考えながら、ずっと画面を眺めていた。それが全てを物語っているかもしれません。
「来年また来たい」。ゴールしてすぐに思うこと。
来年もホノルルセンチュリーライドに参加したいと思っています。しかも160キロで。今度こそフルコースを走り切る自信があります。
今回の反省から、次回は装備を整えようと考えています。特に痛感したのは、ピタピタのサイクリングウエアとビンディングシューズの有用性です。風の強い日に空気抵抗を減らすことの意味、ペダルに足を固定することで引き上げる力も使えることの意味。走りながら身をもって理解しました。あれだけ強い風の中を走ったからこそ、わかったことです。
ロードバイクも購入しようと思っています。最初に安いものを買って、すぐに上位モデルが欲しくなるくらいなら、最初からいいものを買ったほうがいい。そう教えてもらって、確かにそうだと思いました。自転車は使い続けられるものだし、長い目で見れば決して高くない買い物です。できれば、両親含め家族みんなでいけたら最高です。家族は25マイルのコースを楽しんでもらうか、ワイキキでのんびりしてもらうか。ハワイはそういう使い方ができる場所だと感じました。

初めての人へ、一つだけ伝えるなら
「何も心配せず、とりあえず予約して、自転車を用意して行くだけで大丈夫です」
これが、今回一番感じたことです。
初めてのハワイ、初めてのアメリカ、初めてのロングライド。何もかも初めてでも、なんとかなりました。コースのあちこちに整備スタッフがいて、沿道には声援を送ってくれる地元の人がいて、ゴールには迎えてくれる仲間がいる。一人でも、初心者でも、誰かが必ず助けてくれます。
ただ、装備だけはちゃんとしたほうがいいと思います。ヘルメット、グローブ、サングラス、そして尻のパッド。この四つは必須です。特にサングラスは、走行中に細かいものが顔に飛んでくるので絶対に必要です。風や日差し、それに転倒から体を守るためにも長袖(またはアームカバー)を着用することもおすすめです。
距離は無理をする必要はありません。25mileでも50mileでも、それぞれの体力と経験に合わせて選べます。コースのどこを走っても、ハワイの海と山と風を体で感じることができる。それだけで、十分すぎるくらい価値があります。

来年のホノルルセンチュリーライドで、また走りたいと思います。次は160キロ、全部走り切って、今度はもう少し余裕を持って景色も楽しめるように。帰りの飛行機でロードバイクを調べながら、私はもうそのことしか考えていませんでした。
ホノルルセンチュリーライドへの参加はHBL Ride Alohaの公式サイトから申し込みができます。距離も複数から選べるので、自転車に乗り慣れていない方も、ぜひ一度検討してみてください。「やってみたらめちゃくちゃいい」というのは、参加した全員が口をそろえる言葉です。私もその一人になりました。

Text_Masahiro Yamasaki
Photos_Masahiro Yamasaki / HONOLULU CENTURY RIDE / HM-A
Profile

山﨑将弘(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
音楽雑誌『DONUT』や、吉井和哉、SKY-HIなど様々なアーティストの書籍、アートブック、写真集のデザイン。阿部顕嵐ファンクラブの公式アイテムも手掛ける。ロードバイク&HCR初挑戦にして100マイルに挑戦(結果は75マイル完走)。来年は100マイル完走できるはず。
https://www.instagram.com/ymskkjm?stkn=djBvbjd4Ymh3bGcw&utm_source=qr
投稿日:2026.10.09


