NewYork 🇺🇸
Port Douglas 🇦🇺
Honolulu 🇺🇸
ブロンプトン持参でニューヨークへ乗り込んだ。
しかしNYでの自転車生活には一抹の不安があった。
なんといっても、ニューヨークは、あのメッセンジャー文化を生んだ、自転車先進都市だ。日本と違い、自転車は車道ということが徹底されている。また自転車は日本とは逆の左側通行だ。ハワイではロードバイクで街を走ったことがあるけれど、ここは世界一の街・ニューヨークなのだ。ドキドキしないほうがおかしいだろう。
今回、ニューヨークに一緒に渡ったのは、カレンちゃんことランナーでありサイクリストでもある丸山果恋さんと、大学時代は自転車選手でならしたという友人だ。本当は鈴木おさむさんもその一人だっただが、なぜか石垣島へ旅立った。その顛末は前号に詳しい。
もちろん同行メンバーの誰もニューヨークを自転車で走るなんて経験をしたことはない。誠に心許ない。
そこで今回は、まずガイドさんをお願いすることにした。
自転車を持って世界中を旅するニューヨーカー、アルベルト。MTB乗りでレースにも出場する筋金入りのサイクリストだ。セントラルパーク近くのレンタサイクル屋さんで待ち合わせ。コミュニケーションに不安はあったが、わかりやすい英語を話してくれるし、良い人っぽくて、まずは一安心。
それぞれクロスバイクを借りて、セントラルパークを目指す。
セントラルパークといえば、「ティファニーで朝食を」「クレイマークレイマー」から「ホームアローン2」、「Sex and the City」に至るまで数々の映画の舞台となった場所だ。南北に4キロ、東西に0.8キロ、園内にある道路を一周すると10キロくらいあり、アップダウンもあり、それなりに走り甲斐がある。ランナーだけでなく、サイクリングをしたい人たちが集う場所でもある。
公園といいながら、道路は広く、一方通行だ。信号機もある。かなり走りやすい。ニューヨーク名物の馬車で移動している人、ウォーキングしている人、そしてもちろんサイクリングをしている人など、みんな気持ちよさそうだ。
身体が温まってきたところで、本気で走ってみようと思い、上り坂の前でギアを一段シフトダウン。スタンディングでグイグイと踏み込み、グイグイと登っていると、横にアルベルトが並んだ。さすが、レースに出場するだけあって、余裕がある。お互いに目配せしあいながら、しばらく雑談しながら並走する。
「日本ではヒルクライムとかやっているのか」
「いつもはロードバイクで山にも走りに行ったりするんだ」
「それはいいね。今度日本にも走りにいきたいよ」
会ったばかりだけれど、友だちになれた気がした。サイクリスト同士だから、言葉をこえて、通い合う”何か”がある。
広大なセントラルパークには、見るべきスポットがたくさんある。そのひとつが「ストロベリーフィールド」。そう、あのビートルズの名曲「Strawberry Fields Forever」にちなんで名付けられた場所。ジョンレノンが暮らし、銃撃された、ダコタハウスの真向かいにあたる。「Imagine」と書かれた円形のモザイクが目印だ。僕らが訪れた時にはストリートミュージシャンが歌う「イマジン」にあわせて、集まった人々が大合唱をしていた。
セントラルパークを、ぐるっと一周したのちに冷たいものが飲みたいと、アルベルトに伝えたら、「じゃあパークの外にでてみよう、おすすめのカフェに連れていくよ」と。
ということで、ニューヨークの街へ。まさに路上教習だ。完全に自動車と同じ扱いなので、車道を走るのが当たり前。歩道を走ると注意されたりもする。日本とは逆の右側通行だ。逆走なぞしようもんなら、クラクションの嵐だろう。アメリカは自己責任の国という印象が強いが、命に関わることだから、みんな自分ごととして捉えていて危険な行為は絶対に許さない、という空気がある。一旦、ルールさえ理解できれば、歩行者とは完全に分離されているので、とても走りやすい。ただスピードをそれなりに出さないと逆に危ない。もちろんヘルメットはマスト。
アルベルトが連れて行ってくれたのは、アパレルブランドのラルフローレンがやっている「Ralph’s Cafe」。かなりの人気店で、席はテラスも含めて満席。お店の前で立ち飲みした。キリッと冷えたカフェラテ、最高でした。
一息ついたあとは、ふたたびセントラルパークへ戻り、今回のサイクリングのクライマックスの場所へ。ベセスダの噴水とテラス。ここはセントラルパークのなかでも最も美しい場所のひとつで、常に多くの人で賑わっている。テラスの天井には美しい装飾がなされていて、荘厳な気持ちになる。
大道芸人もちらほらといて、ジャグラー、バイオリンを演奏する人、変わったところでは即興で詩を書く、という人がいて、かなりの人気だった。
たっぷりと3時間、セントラルパーク界隈を堪能した。レンタルした自転車を返却したところで、アルベルトとはお別れ。彼とは、またいつか世界のどこかでバッタリ会える気がしている。その時には、一緒に走りたい。
ホテルのあるチェルシーまではちょっと距離があるので、みなはタクシーで、僕はひとりで向かうことになった。
たった一人で、マンハッタンを走る。 事故したりしないだろうか。ルールが分からずご迷惑をおかけしないだろうか、とまた不安に駆られる自分がいた。
しかし結果的に、路上で僕は人ではなかった。地元のサイクリストたちがたくさんいて、彼らの背中を見ながら走った。もう気分は完全にニューヨーカー、そう思うと不安はいつのまにかなくなっていった。
結論からいうと、マンハッタンは自転車天国だ。そしてその理由は明白で、交通手段として、優れているからだ。地下鉄やバスと違い、直接目的地に行けるし、タクシーのように渋滞に巻き込まれることもない。
そして何より、地元のサイクリストたちが、皆かっこよい。
NY自転車生活初日は、そんなふうに過ぎた。
明日はいよいよ僕たちだけで街へと繰り出す。チェルシーからSOHOへ抜けて、911メモリアルミュージアムやギャラリーなど。NYのいたるところにあるciti bikeを借りてのシティライドに挑戦する。
次回に続く。
Text & Photo_Daisaku Kawase
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Profile
河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表、GlobalRide コミュニケーションディレクター
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。
投稿日:2024.07.25