The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜 #07
ヘヴィーロッカーな元建築家 🇨🇦
最年少の26歳フレッシャーズ🇦🇺
装備に釘付け!生粋のニューヨーカーライダー🇺🇸

ついに2025年秋開催の詳細が発表されたThe Japanese Odyssey(以下、TJO)。今年は鹿児島スタート、ゴールは松本市へ。途中、フェリーに乗るなどしながら二十ヶ所のチェックポイントを13日半で巡るルート設定となりました。2300km、獲得標高46,000mの旅路です。
*今年の詳細な日程、ルートは公式webサイトでご確認ください

今回のコラムは2016年のTJOに参加した“濃い”3名のバイク&パッキングレポをお届けします。職業柄、お国柄、人柄…が滲み出るその装備をどうそご参考ください。

*前回のエッセイはこちら

ヘヴィーロッカーな元建築家/TYLER BOWA (Canada)

カナダ出身で、TJOに参加した2016年当時は上海在住だったタイラー。上海拠点のヘヴィーロックバンドのリーダー兼ドラマーとして、ワールドツアーをしたり、高感度なサイクルショップ“Factry5”を営むボスでもありと多才。ウルトラディスタンスのムーブメントにも上海から反応し、2015年トランスコンチネンタルレースに参戦。翌年はTJOを選びました。見た目通り、走りもイカツイ。フレームは、自社Factry5オリジナルクロモリフレームのシクロクロスモデル“CXCUSTOM”。上海でも盛り上がっていたシクロクロスレースを自ら走り、設計したモデルとか。レースでも使用しているトルク重視のギア設定に加え、リアに最大36Tをインストール、大柄な彼が挑むことになる険しいCPに備えています。カンパニョーロ使いなのがオシャレです。
前職は大手ゼネコン勤務の有能な建築デザイナー。上海には彼の作品が多く形になっているとか。カンチブレーキ採用のフレームには、都市型デザイナー兼、泥んこシクロクロッサーの彼のコダワリが満載なのです。
大手ゼネコン勤務で2010年代の上海の建築バブルに身を埋めましたが、早々仕事を辞め、大好きな自転車と、バンド活動の二足の草鞋で人生を満喫しているようです。チーム員のニック、ジプシーと、レースを通じて意気投合したフランス人デザイナーのパスカルの4人は、
“AWSOMEFOURSOME” とあだ名され、ツアーをにぎやかす存在でした。

最年少参加の26歳フレッシャーズライダー/DANIEL “GYPZY” LICASTRO (Australia)_2016年参加

またの名をジプシー“GYPSY”。若くてやんちゃ、人懐こいオージーで、彼もまた“FARACI”という自ら立ち上げたサイクルガレージブランドを運営しています。台湾や中国にOEM発注したオリジナルのチタンフレームで、TJO参戦。彼もやはり2015年トランスコンチネンタルレースの経験者です。この年のTJO最年少参加のフレッシュな26歳。走りもキレキレで、例の4人衆“AWSOMEFOURSOME”の先鋒をつとめ、なんどきも峠を余裕で先行する姿が、フレッシュ。
オーストラリアはこの15年ほど、レースシーンでのオージーの活躍などもあり、自転車熱の非常にまる国の代表的な国でした。世代を超えてサイクルカルチャーが深まるなかで、ウルトラディスタンスシーンに触発されながら、欧米に負けないインディペンデントな活動する彼のような若くフレッシュな存在が現れるのは必然なのかもしれません。お洒落なサイクルウエアやバッグ類は、新興の尖んがったガレージブランドをチョイス。バイクは、自身“FARACI”ブランドの初号機。トランスコンチネンタルレースのレース経験をフィードバックしつつ、ジオメトリと仕様を設計したチタンフレームのプロトタイプモデルとか。モデル名を訊ねると、”プロトタイプだけどジャパニーズオデッセイにちなんで“Odyssey”にしようかな”なんて言っていましたが、実際翌年には、デザイナーのパスカルと意気投合し共同で、その名も“The Odyssey”と冠した最新モデルを発表し驚きました。ジプシー&パスカルはそのまま、生まれたての“The Odyssey”を駆って、イタリアからスカンジナビア半島を北限まで縦断するウルトラディスタンスレース“NorthCape”という4000kmを超えるレースを完走!
走るだけにとどまらない軽快さと、その遊び心、フレッシュ!
そんなものまで育むウルトラディスタンスシーンの懐の深さ、自由さを垣間見る、それもTJO取材を続ける楽しさ、原動力でもあります。

装備に釘付け!生粋のニューヨーカーライダー/NICOLAS PEDEN (USA)

アメリカ出身のニックは、ニューヨークはクイーンズ島生まれ、生粋のニューヨーカー、ピザと自転車と家族をこよなく愛するニューヨーカー。
かつて上海勤務をしていた際、タイラーのバイクショップFactry5(https://www.instagram.com/factory5/)に出入りしていた縁から、ジャパニーズオデッセイにはFactry5チームとして参加。2016年唯一のアメリカ人でした。
現在進行形で自転車のトレンドを牽引して久しいアメリカ。その中心地に住む自転車趣味人らしさが十二分に伝わる機材セレクトは、ウルトラディスタンス界隈で主流の”勝ちにいく”それとは一線を画す違いがあり、興味深いものです。まずバイクが違う。テキサスのハンドメイドビルダー、イカロスフレームス謹製の美しくも珍しい発色のランドナー。クラシックと見せかけて、タイヤ幅を広く取った上にディスクブレーキ仕様。しかも、2分割可能なデモンダブルフレームで、各種輪行、特に航空輪行時の手間が格段に違う。そして、今回小径のダヴィッドを除くロードバイク使用の参加者としては、唯一のフロントラック&大型バッグの使用者。フロントバッグ&フレームバッグ仕様の利点は、走行中でも荷物の取り回しが良く、かつ登坂時のバランスが良いのが特徴。しかし、ニックのバイクの良さは、それだけにあらず。ウルトラディスタンス主流の実戦主義的トレンドなどサラーッとかわし、ユルーく飄々と見える。なぜか記憶に残るお洒落さを醸しています。さすがニューヨーカー、そう唸らせるものが2016年の僕なんかにはありました。そしてユルい中でも、しっかり積めている、リア最大40T、ロングケージディレーラをインストールするなど、ハードライドを想定した余念無きセットアップの妙が随所に光り、しかしトータルでレイドバックした、なんというかゆったりした旅のムード。
2016年のニックのバイクは、2024年現在の実戦と流行の両先端で、遜色なく通用するバイク&セットアップなのが驚きです。アメリカの自転車文化の層の厚みを感じざるを得ません。
ニックは、残念ながら途中怪我をしてフィニッシュできなかったけど、痩せたぜ!と満足げ。まあ、出れば全員痩せる、と言うかやつれ果てるんですけどね…。

Text&Photo_ Eigo Shimojo

次回も3名の強者をご紹介します。お楽しみに!


2016年のTJO概要
テーマ_日本百名山(榛名山、乗鞍岳、剣山、天狗高原、篠山など)
ルート概略_東京・日本橋→群馬県→長野県→奈良県、三重県→山陰地方→徳島県、愛媛県、高知県→大阪・道頓堀
走行距離_約2,400km
獲得標高_約3,500km

🚴‍♂️The Japanese Odyssey Report Series
*第二弾連載はこちら
#01 夜明け前
#02 波、来たれり
#03 “Be prepared”
#04 動き出すドットたち
#05 CARLOS / DAVID / PASCAL
#06 TOM / GUILLAUME / EMMANUEL
#07 TYLER / DANIEL / NICOLAS

第一弾連載はこちら
#01 ウルトラディスタンスという世界へ
#02 2015年、7月18日を目指す
#03 僕の「The Japanese Odyssey」元年へ
#04 クレイジーな設定
#05 “謎”の仕掛け人
#06 日本贔屓の引き倒し

🚴‍♂️The Japanese Odyssey 公式webサイト
https://www.japanese-odyssey.com/

Profile

下城 英悟
1974年長野県生まれ
IPU日本写真家ユニオン所属
2000年フリーランスとして独立、幅広く写真・映像制作を扱うグリーンハウススタジオ設立
ライフワークとしてアンダーグラウンドHIPHOP、世界の自転車文化を追いかける

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#06
日本贔屓の引き倒し

目次 1 村上春樹、芭蕉2 ロマンチストたち 1 村上春樹、芭蕉 フランス人の日本贔屓といえば知られるところだが、日本と縁が無いと見えた彼ら(The Japanese Odysseyの主催者であるエマニュエルとギョーム)も、じつは日本の文化に魅了された者たちだった。特に二人の心を惹きつけたのは、欧州でも人気の高い村上春樹の小説群や、芭蕉の俳句といった日本的な叙情文学だったという。 2016年のレースのあとに、初めてインタビューした際、安易なツーリズムやエキゾチズムでは説明のつかない彼らの熱意に、驚いたものだった。文学的な情緒が異邦人の心に火を付け、見知らぬ地まで運んだとすれば、言葉のチカラは偉大と言わざるを得ない。この時点で二人は日本を訪問したことさえなかった。 故郷を走りながら日本への憧憬を育み、構想の実現に向けて動き始めたエマニュエルとギョーム。想いが爛熟した2015年の蒸し返す夏、彼らは、数こそ少ないが、企画に共鳴した仲間たちと車輪の上にいて、日本を走っていた。想いは、山をも動かす。 第一回「The Japanese Odyssey」が開催されたのだった。 2 ロマンチストたち サイクリストの多くは叙情的でロマンチストであると思う。孤独なサドルの上、流れる美しい景色に無言のまま身を委ね、おのおのなにやら饒舌な想いを抱えているものだ。 憑かれたように自転車を駆って目に見えない自由を追い、長い峠道に苦悶しながら、同時に得難い幸せを感じている。エマニュエルとギョームの例もそうだが、世界的なウルトラディスタンスレースのトレンドには、複雑な現代を生きるサイクリストたちの個々の想いが […]

EVENT
噂のThe Japanese Odysseyとは?#02
2015年、7月18日を目指す

日本で開催される超長距離、超絶コアなライドイベント「The Japanese Odyssey」を追いかけ続ける写真家・下城英悟氏による連載エッセイ。第二弾はウルトラロングディスタンスを支える自助の精神と、初めての参加…?に至るまでの道のりについてお届けする。 目次 1 ウルトラディスタンス(超長距離)とセルフサポーテッド(自助)2 さきがけの「The Transcontinental Race」 1 ウルトラディスタンス(超長距離)とセルフサポーテッド(自助) あらためて「The Japanese Odyssey(以下TJO)」の特徴を端的に表すキーワードは2つ。 文字通りの”ウルトラディスタンス”(超長距離)、そして、”セルフサポーテッド”(自助)の精神だろう。 レースの多くは数百〜数千キロの設定ルートを、1~2週間の制限時間内での自力完走を目指す。 いわゆる耐久レースとはいえ、TJOは距離と所要時間がアマチュアレースの常軌を逸していた。 完走を目指せば、昼夜なく走ること必至という「ウルトラディスタンス」な事実が出走者に迫り、同時にセルフサポーテッドの難易度も距離に比例して高くなる。 およそ一般化しそうもない様式が、しかし瞬く間に世界中で受け入れられ、広まっていった。 のみならず、ややもすれば閉塞がちな業界に力強いトレンドさえ生み出しかねない勢いがあった。 競技団体やメーカー主導のスポンサードレースでは決してないにもかかわらず。 アマチュアサイクリストたちの想いを繋いで生まれ出たカルチャーである、と声高に言いたい。 サイクリングのエッセンシャルな魅力であるロングライドの範疇を […]

EVENT
The Japanese Odyssey Report Season 2
クレイジーな旅が再び〜2025年へ漕ぎ出す〜
#04 動き出すドットたち

日本列島を舞台にした自転車イベントというより旅、いや、旅を超えた旅、冒険、探究、もはや創造、かもしれない「The Japanese Odyssey」(以下、TJO)。連載第二弾のプロローグのラストは、前日のブリーフィング会合を終えた参加ライダーとフォトグラファー・下城英悟氏がいよいよ走り出した行程の回顧から。 *前回のエッセイはこちら #04 動き出すドットたち ブリーフィングの翌日、2016年9月某日、いよいよ初取材に取りかかった僕は、世界中から集まってきた無名のサイクリストたちを、実際に追いかけ回すことになった。乗りかかった船を途中で降りる選択肢はなくなった。日本中にバラバラ散ってゆく点のような彼らを、昼夜の境なく追い、写真に収め、そして道々話を聞かなければならない。以来、毎年秋、愛車の旧式ワンボックスカーを駆り、寝食を惜しんでの取材の日々が始まった。開催期間中の約二週間の移動距離は4000kmにもなった。そんなことを望んだわけではなかったが、そうなっていた。途中で降りる選択肢は、あったのだろうが、見えなかった。寝不足の運転席から見晴るかす先、道という道が、GPSマップ画面上の道とシンクロして無限に伸びている。その先の、満点の星がきらめく夜空で、名もなき一つ星を探し出す孤独な暗闘を繰り返している。ミイラ取りは、おさだまりのミイラになった。得体のしれないこの旅路の虜になっていた。 8年の歳月が経ち、コロナ禍の開催中止を経て、2023年再開した。秋深まる11月、世界中のサイクリストが再び鹿児島桜島に集結し、そこにはウルトラディスタンスサイクリストの懐かしい歓喜があった。8年前に […]