TVプロデューサー河瀬大作 Bike New York参戦記!
恋するニューヨーク vol.3
鈴木おさむさんとNYを疾走する…はずだった。

ぼくはバイクニューヨークを走るにあたり、すでにGlobal Ride(以下GR)に記事をアップしているインフルエンサーのカレンちゃん(丸山果恋)を始め、何人かに「一緒にいかないか」と声をかけていた。

鈴木おさむさんもそのひとりだった。

BAYFMのおさむさんのラジオ番組、「シンラジオ ヒューマニスタはかく語き」に月に一度出演させていただいているご縁で、お声がけした。放送作家を辞めるという人生の節目のタイミングがあり、なにか新しいことに挑戦したいのではと思ったからだ。

おさむさんからは、即レスで「いきたいです!」とお返事いただいた。ふだんは自転車にはほとんど乗らないおさむさん。しかし、もともとおさむさんの父親が千葉で「鈴木弥輪店」という自転屋さんをしていたこともあり、なにか”ご縁”のようなものを感じたらしい。しかも、おつれあいの大島みゆきさん、そして息子の「笑福(えふ)くん」も一緒に行くという。

これは面白い旅になる。

準備は着々と進んだ。ニューヨークで自転車に乗るためにヘルメットも一緒に買いにいったし、おさむさんが観たいというミュージカル「BACK TO THE FUTURE」のチケットも予約した。セントラルパークを案内してくれるバイクガイドさんも頼んだ。

そして迎えた出発当日。 

ぼくはブロンプトンを手荷物として預けるために、一足早く空港でチェックインを済ませた。するとまもなくおさむさん一家がやってきた。

「おさむさーん」
「あ、河瀬さん!おはようございます。チェックイン済ませてきますね」

おさむさんたちがチェックインするのを、少し離れたところで待っていたのだが、一向に終わる気配がない。なにかがおかしい。胸騒ぎがしたぼくは、おさむさんのいるカウンターに近づいた。

「どうしました?」
「笑福のエスタが通ってないらしいんですよ」

エスタとは、アメリカの入国に必要な申請のこと。それが降りていないというのだ。出発の3日前には、おさむさんはエスタを申請していた。おさむさんと大島さんの分はすぐに取得できたのだが、その時も笑福くんのエスタ申請のときにクレジットカードが一発で通らなかった。カードを変えたら一応支払いに進むことができた。しばらくすれば申請は降りるはずだった。しかしなぜか申請は降りていなかった。

早ければ1時間もすれば申請がおりると、JALのスタッフが数名がかりで対応してくれているが、なかなか思うようには進まない。

「河瀬さん、ここで待ってもらうのは悪いんで、先に出国していてください。追っかけますから」

気がかりではあるが、いてもなんの助けにもならない。娘とふたりで先に保安検査をぬけて、ラウンジにいって一休みをすることにした。JALのスタッフが全力でサポートしてくれているわけだし、またすぐに会えるだろう、とたかを括っていた。

しかし、そうはいかなかった。

別れて30分後、おさむさんからLINEスタンプがきた。

ゴリラのようなコワモテのキャラクターが手をバツにクロスさせている。

ドキッとした。
え、ダメなのか。
そんなこと起きうるのか。

すぐにおさむさんに電話をする。するとやはり時間切れだという。そしておさむさんはここで驚くべき決断をする

「河瀬さん、JALの人たちが全力でやってくれたけれどダメでした。放送作家を辞めて初めてのゴールデンウィーク、ぼくだけニューヨークにいくわけにはいかないので、一緒にいけないのは申し訳ないですが、行き先を変更します」

「え?」

「石垣島行きのチケットとホテルが取れたので、今から石垣島にいきます」

その行動力にさすが日本一の放送作家だと納得する一方で、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。

そんなぼくの気持ちを察してか、おさむさんは言葉を続けた。

「河瀬さん大丈夫です。たぶん今はタイミングじゃないってことなんで。ニューヨークから石垣に行き先が変更になったこと、大島さん爆笑してます」

だんだんとぼくも状況を受け入れられるようになってきた。おさむさんがこういっているんだからぼくともブロンプトンとのニューヨークを心の底から楽しもう。

それにしても出発当日の羽田空港で、トラブルに見舞われたにも関わらず、すぐに頭を切り替え、ゴールデンウィークの最中にもかかわらずホテルを見つけ出し、飛行機もその場で抑えるなんて。その胆力、さすが日本一の放送作家だ。

そんなわけで、おさむさん一家はニューヨークではなく石垣島に向かうことになった。そして、その十数時間後、ぼくはニューヨークに降り立った。
おさむさんからのバトンがわりに、このために作った「鈴木弥輪店」のステッカーもちゃんともってきた。

ついに明日からの3日間、あの憧れのニューヨークを、愛しのブロンプトンとともにマンハッタンを薔薇色に染め上げるのだ。


次回に続く。

Text & Photo_Daisaku Kawase

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Profile

河瀬大作/Daisaku Kawase
フリープロデューサー、(株)Days 代表、GlobalRide コミュニケーションディレクター
愛知県生まれ。ロードバイク歴16年、絶景ライド好き。仕事の合間を縫い、自転車担いで全国へ出かける。愛車はトレック。NHKでプロデューサーとして「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「おやすみ日本 眠いいね」「あさイチ」などを手がけたのち2022年に独立。番組制作の傍ら、行政や企業のプロジェクトのプロデュースを行う。

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TVプロデューサー河瀬大作 Bike New York参戦記!
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ブロンプトンにひとめぼれ。

それはひとめぼれだった。出会ってすぐに恋におちた。「次はあの子とどこに行こう」って、ふと考えてしまう自分がいる。こんな昂ぶりは、いつぶりだろう。お相手は人ではない。 ブロンプトンだ。そして今、ブロンプトンとの生活を、そして旅を心から楽しんでいる。折りたたみ自転車は、ずっと気になっていた。でもロードバイクに比べたら、小径車なんて物足りないんじゃないかって思っていた。ロードバイクのようなスピードもでないだろうし、長い距離を走るのにも向かないだろう、と。ロードバイクこそ”King of Bicycle”。そんな固定観念を持っていたのだ。 でも、ロードバイクにだって苦手はある。それは、街中を走ることだ。都心の幹線道路を走っていると、信号に頻繁にひっかかり、時にうんざりする。車輪の大きなロードバイクはストップアンドゴーを得意としていない。止まるたびにビンディングシューズを着脱するのも面倒くさい。 だからある時、街乗り用の自転車を探してはじめた。探していたのは、小径車のE-bikeだ。いくつかのショップを巡っていたのだが、なかなかこれ、というバイクには出会えない。そんなある日、棚にずらりと並んでいる自転車が飛び込んできた。 色とりどりの車体が、棚に所狭しと陳列されている。その佇まいの美しさに心が躍った。それがブロンプトンだった。 出会いの場所は、西荻窪の「和田サイクル」。ブロンプトンをはじめ小径自転車を扱うお店としては、東京屈指、いや日本屈指自転車屋だ。 店員の西久保さんが折りたたみを実演してくれた。その動きの無駄のない美しさ、素早さは芸術的ですらあった。 もちろん、試乗もした。軽く踏んだ […]

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