CYCLE MUSIC⑬
Livingston Taylor
「Don’t Let Me Lose This Dream」

自転車と音楽にまつわるちょっとしたエッセイを毎回お届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回紹介するのは、優しく心安らぐハートウォームな歌声と味わい深いギターが印象的な、フォーク系シンガー・ソングライターLivingston Taylorによる1996年作、その名も『Bicycle』です。

通称“Liv”ことLivingston Taylorは、James Taylorを始めKate TaylorやAlex Taylorも名高い音楽一家五兄弟の三男で、1970年に発表したセルフ・タイトルのファースト・アルバム以来、コンスタントに作品を発表していますが、1989年からは名門バークリー音楽大学の教授としても知られていますね。といっても彼の奏でる音楽は、どちらかと言うとアカデミックというよりは素朴な佇まいで、キャリアを通して“心暖まる”という形容が最も似合い、好感を抱かずにいられません。

そんな彼が長年のコラボレイターScott Petitoのプロデュースで1996年に発表した『Bicycle』は、矢吹申彦が手がけたアルバム・カヴァーの中心にも空に浮かんだ自転車があしらわれ、サイクリング愛好家ならずとも心惹かれるはずですが、そのタイトル・チューンもとても素晴らしい曲なので、このコラムがスタートした当初から、いつか推薦したいと考えていました。

さらに、僕が提唱したFree Soulムーヴメントが全盛期を迎えていた1996年当時、その曲の次に収録されていたのが、紛れもない「Don’t Let Me Lose This Dream」だったことに、僕は大感激してしまったのでした。Free Soulファンの方ならおわかりでしょうか、僕がその頃(もちろん今も)Aretha Franklinのライヴ・テイクやDusty Springfieldのヴァージョンで愛してやまず、DJでヘヴィー・プレイしていた胸を突かれる名曲(邦題「夢をさまさないで」)のカヴァーなんですね。28年という長い時を経て、そのときの胸の高鳴りを記す機会に恵まれたことを、とても嬉しく思います。

Livingston Taylor 「Bicycle」



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”
#13 Livingston Taylor “Don’t Let Me Lose This Dream”
#14 RM “Bicycle”
#15 Norah Jones “Christmas Calling (Jolly Jones)”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
Music Cycles Around The World
③ Hawaii
Macky Feary Band “Macky Feary Band”

自転車と共に音楽で世界を走ろうというイメージで、“都市と音楽”をテーマに「Music Cycles Around The World」と題してお届けしています新連載の第3回。今回は毎年9月の第4日曜に開催される「ホノルル・センチュリー・ライド」(日本からも多くのライダーが参加する、「ホノルル・マラソン」に次ぐハワイ第2のスポーツ・イヴェントです)にちなんで、僕が愛聴してきたハワイの音楽について綴っていこうと思います(といっても、いわゆるハワイアンではありません)。 すぐに思い浮かんだのは、30年前の夏に友人が確か500円という安価で中古の日本盤レコードを快く譲ってくれて、今も心から感謝しているMacky Feary Bandの1978年のファースト・アルバム『Macky Feary Band』。なぜならこの名作を聴いた感動によって、僕のハワイ産のメロウなアイランド・ミュージックへの好奇心は決定的に火がついたからです。当時を思いだしながら、その広がりを思いつくままに挙げていくなら、まずはMacky Fearyが在籍したKalapanaの最初の2枚。Kirk Thompsonが立ち上げたLemuriaと、やはり彼が制作しBilly Kauiに捧げられた「Words To A Song」やLemuriaとの競作「All I’ve Got To Give」が素晴らしいBabadu。特に思い入れ深いLuiやTender Leafの胸が疼くようなアコースティックなロコAOR。ハワイでコーヒーハウスをやっていたMFQのCyrus FaryarがプロデュースしたCountry Co […]

#Music
CULTURE
CYCLE MUSIC⑨
Dominic Miller
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車と音楽にまつわるエッセイを綴っているマンスリー・コラム「CYCLE MUSIC」。今回は名ギタリストDominic Millerによる、その名も「Bicycle」という曲を紹介しましょう。 アメリカ人の父とアイルランド人の母のもとアルゼンチンで生まれ、長らくロンドンを拠点に活躍して、今は南フランスに住んでいるというDominic Millerは、「偉大で穏やかなストーリーテラー」などと多くのメディアで絶賛されてきましたが、何と言っても輝かしいStingの右腕としてのキャリアで名高いですね。Stingは彼のことを「色彩豊かな音の建築家」と称賛し、やはり共演歴のあるPaul Simonはその詩情がこぼれ落ちるようなギター・プレイを「ジャズとイングリッシュ・フォークの香りがする美しい音色」と讃えている、テクニカルかつメロディアスなセンスの持ち主です。 現在は“静寂の次に美しい音”を標榜するドイツの名門ジャズ・レーベルECMから自身名義のリーダー・アルバムをリリースしていて、この「Bicycle」はECMでの2作目として2019年に発表された『Absinthe』に収録されています。そう、“アブサン”という薬草系の強いリキュールのように甘く危険で美しい、彼が魅了された20世紀フランスの印象派アーティストたちへのオマージュとなっている作品集で、僕はこのアルバムのリリースに合わせて丸の内COTTON CLUBで行われた来日公演も観に行きました。 瑞々しいギターのリフレインに、ノスタルジックな哀愁を帯びたバンドネオンや、タイトで空間性に富んだドラミングも印象的な「Bicy […]

#Bicycle
CULTURE
CYCLE MUSIC②
Cordelia 「Play Pretend」

先月から始まりましたこの連載コラム、初回は自己紹介も兼ねて、「自転車で世界はもっと楽しくなった」僕の青春の一曲、The Style Councilの「My Ever Changing Moods」について綴りましたが、第2回はこの夏デビュー曲がリリースされたばかりのブライテスト・ホープ、胸を疼かせる美しい歌声に惹かれるイギリスの若き女性シンガー・ソングライターCordeliaを紹介しましょう。

#Column #Music