CYCLE MUSIC⑨
Dominic Miller
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車と音楽にまつわるエッセイを綴っているマンスリー・コラム「CYCLE MUSIC」。今回は名ギタリストDominic Millerによる、その名も「Bicycle」という曲を紹介しましょう。

アメリカ人の父とアイルランド人の母のもとアルゼンチンで生まれ、長らくロンドンを拠点に活躍して、今は南フランスに住んでいるというDominic Millerは、「偉大で穏やかなストーリーテラー」などと多くのメディアで絶賛されてきましたが、何と言っても輝かしいStingの右腕としてのキャリアで名高いですね。Stingは彼のことを「色彩豊かな音の建築家」と称賛し、やはり共演歴のあるPaul Simonはその詩情がこぼれ落ちるようなギター・プレイを「ジャズとイングリッシュ・フォークの香りがする美しい音色」と讃えている、テクニカルかつメロディアスなセンスの持ち主です。

現在は“静寂の次に美しい音”を標榜するドイツの名門ジャズ・レーベルECMから自身名義のリーダー・アルバムをリリースしていて、この「Bicycle」はECMでの2作目として2019年に発表された『Absinthe』に収録されています。そう、“アブサン”という薬草系の強いリキュールのように甘く危険で美しい、彼が魅了された20世紀フランスの印象派アーティストたちへのオマージュとなっている作品集で、僕はこのアルバムのリリースに合わせて丸の内COTTON CLUBで行われた来日公演も観に行きました。

瑞々しいギターのリフレインに、ノスタルジックな哀愁を帯びたバンドネオンや、タイトで空間性に富んだドラミングも印象的な「Bicycle」は、アルゼンチンの若きバンドネオン奏者Santiago Ariasや古くからの仲間でもあるドラマーManu Katchéを含むクインテットによる、繊細な情緒を宿したアンサンブル・スケッチに惹かれる『Absinthe』の中でも、僕が特に気に入っている曲です。海外のジャズ系ウェブサイトには、「とてもNujabesを思わせる」という評もあるそうで、心が浄化されるような悠久・憂愁の調べにサウダージが募ります。穏やかに光や色彩が移ろう、夕暮れどきのまったりと心安らぐサイクリングにどうぞ。

Dominic Miller『Absinthe』



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC⑪
Tank and the Bangas 「Smoke.Netflix.Chill.」

先月のこのコラムでも触れました、4/27にカフェ・アプレミディで開かれた、この連載のエディター&アートワーク制作チームとその友人たちに、デザイナー&トランスレイターも含む「Global Ride」運営スタッフまで集まってくれたDJパーティー。様々な素晴らしい音楽が流れ、本当に楽しく盛り上がったのですが、そのときに僕と担当編集者の共通の友人であり、設計事務所imaを主宰するインテリア・デザイナー小林恭がスピンしていて、「あっ、これも自転車ジャケだった!」と思いだした大好きな曲について、今月は紹介しましょう。 それはアメリカで現代最高のライヴ・バンドと絶賛され、ジャズ〜ファンク〜ヒップホップ〜ロック〜ゴスペルのグルーヴも併せもつソウルフルなサウンドで、現行ニューオーリンズ・シーンの存在感あふれる象徴のように輝くグループ、Tank and the Bangas。その中心は紅一点の女性シンガー/ポエトリー・リーダーTarriona “Tank” Ballで、彼女はMoonchild始め数多くのアーティストへの客演でも大活躍していますね。そんなTank and the Bangasが2019年にRobert Glasperらをプロデューサーに迎えリリースしたメジャー・デビュー・アルバム『Green Balloon』は、とても雰囲気のいいモノクロームの写真にグリーンのバルーンをあしらったジャケットも素敵な愛聴盤で、収録曲「Smoke.Netflix.Chill.」はとびきりのマイ・フェイヴァリット・チューンなのです。 曲名からも伝わると思いますが、歌詞も今の時代に相 […]

#Column #Music
CULTURE
CYCLE MUSIC②
Cordelia 「Play Pretend」

先月から始まりましたこの連載コラム、初回は自己紹介も兼ねて、「自転車で世界はもっと楽しくなった」僕の青春の一曲、The Style Councilの「My Ever Changing Moods」について綴りましたが、第2回はこの夏デビュー曲がリリースされたばかりのブライテスト・ホープ、胸を疼かせる美しい歌声に惹かれるイギリスの若き女性シンガー・ソングライターCordeliaを紹介しましょう。

#Cordelia
CULTURE
CYCLE MUSIC④
Georgie Fame「Happiness」

この連載コラムが始まってから、音楽を聴くときは何となく、自転車のジャケットやMV、自転車にまつわるタイトルや歌詞を意識してしまうのですが、この曲を思いついたときは嬉しかったですね。Georgie Fameの大好きなグルーヴィー・チューン「Happiness」。この曲が収録された1971年の知る人ぞ知る名盤『Going Home』の裏ジャケットには、ボア付きのレザー・ブルゾンに身を包んで自転車に乗って走るGeorgie Fameの姿が映しだされているんですね。

#Column #Music