CYCLE MUSIC⑦
B.J. Thomas「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」

20世紀を代表する名作曲家、バート・バカラックが亡くなって1年が経ちました。ソフィスティケイトされた切なくも美しいメロディー、まさに“バカラック・マジック”と言うべきコード進行やリズム・チェンジを駆使した鮮やかで洒落たアレンジに、大胆かつエレガントな構成といった、軽妙洒脱で創意に富んだ彼のアート・オブ・ソングライティングは、都会的で胸に沁みる歌詞(特にハル・デイヴィッドの詞作)とのマリアージュも相まって、今なお時代をこえて世界中の人々の心をとらえていると思います。

僕がバカラックの名を意識して購入し愛聴したレコードは、サントラ盤や数多くのカヴァーも含め軽く100枚をこえますが、最初に彼の音楽に惹かれたのは、中学生の頃たまたま聴いていたFM番組で流れてきた3曲がきっかけでした。忘れもしない、B.J.トーマス「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」(雨にぬれても)、ディオンヌ・ワーウィック「I’ll Never Fall In Love Again」(恋よ、さようなら)、アレサ・フランクリン「I Say A Little Prayer」(小さな願い)。今月のこのコラムでは、その中から自転車との関わりという観点で、「雨にぬれても」を紹介しましょう。

そう、B.J.トーマス「雨にぬれても」と言えば、何と言ってもジョージ・ロイ・ヒル監督が1969年に撮ったアメリカン・ニュー・シネマの代表作『明日に向って撃て!』で、ポール・ニューマンとキャサリン・ロスが自転車に乗ってデートするシーンで流れるのが印象的ですね。僕の友人にも、大好きな映画の琴線に触れるハッピーでロマンティックな瞬間として、このシーンを挙げるシネフィルは少なくないです。アカデミー作曲賞と歌曲賞も受賞しましたが、僕はこの曲の最後、「Because I’m free(僕は自由なんだ)Nothing’s worrying me(何も心配ないさ)」というところが好きですね。 音楽を通してハート・タッチングな瞬間をたくさんプレゼントしてくれた偉大なる天才、バート・バカラックをあらためて讃え、感謝の気持ちを捧げたいと思います。R.I.P.

B.J. Thomas「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」

https://youtu.be/_VyA2f6hGW4?si=uMB1cK0ckVJr8DOT



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC③
Corinne Bailey Rae「Put Your Records On」

先々月にこの連載コラムの初回でご紹介したThe Style Councilの「My Ever Changing Moods」と並んで、自転車に乗っている映像が印象的なMVと言えば真っ先に思い浮かべるのが、1979年イギリス・リーズ生まれのシンガー・ソングライターCorinne Bailey Raeの「Put Your Records On」。初めてMVを観たときの瑞々しいときめきは忘れられません。若き日にフランソワ・トリュフォー初期の短編を観たときに感じたような(彼の映画には自転車をモティーフにした名シーンが多いですね)胸疼くような甘酸っぱさ。

#Column #Music
CULTURE
CYCLE MUSIC④
Georgie Fame「Happiness」

この連載コラムが始まってから、音楽を聴くときは何となく、自転車のジャケットやMV、自転車にまつわるタイトルや歌詞を意識してしまうのですが、この曲を思いついたときは嬉しかったですね。Georgie Fameの大好きなグルーヴィー・チューン「Happiness」。この曲が収録された1971年の知る人ぞ知る名盤『Going Home』の裏ジャケットには、ボア付きのレザー・ブルゾンに身を包んで自転車に乗って走るGeorgie Fameの姿が映しだされているんですね。

#Happiness
CULTURE
CYCLE MUSIC⑨
Dominic Miller
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車と音楽にまつわるエッセイを綴っているマンスリー・コラム「CYCLE MUSIC」。今回は名ギタリストDominic Millerによる、その名も「Bicycle」という曲を紹介しましょう。 アメリカ人の父とアイルランド人の母のもとアルゼンチンで生まれ、長らくロンドンを拠点に活躍して、今は南フランスに住んでいるというDominic Millerは、「偉大で穏やかなストーリーテラー」などと多くのメディアで絶賛されてきましたが、何と言っても輝かしいStingの右腕としてのキャリアで名高いですね。Stingは彼のことを「色彩豊かな音の建築家」と称賛し、やはり共演歴のあるPaul Simonはその詩情がこぼれ落ちるようなギター・プレイを「ジャズとイングリッシュ・フォークの香りがする美しい音色」と讃えている、テクニカルかつメロディアスなセンスの持ち主です。 現在は“静寂の次に美しい音”を標榜するドイツの名門ジャズ・レーベルECMから自身名義のリーダー・アルバムをリリースしていて、この「Bicycle」はECMでの2作目として2019年に発表された『Absinthe』に収録されています。そう、“アブサン”という薬草系の強いリキュールのように甘く危険で美しい、彼が魅了された20世紀フランスの印象派アーティストたちへのオマージュとなっている作品集で、僕はこのアルバムのリリースに合わせて丸の内COTTON CLUBで行われた来日公演も観に行きました。 瑞々しいギターのリフレインに、ノスタルジックな哀愁を帯びたバンドネオンや、タイトで空間性に富んだドラミングも印象的な「Bicy […]

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