CYCLE MUSIC④
Georgie Fame「Happiness」

この連載コラムが始まってから、音楽を聴くときは何となく、自転車のジャケットやMV、自転車にまつわるタイトルや歌詞を意識してしまうのですが、この曲を思いついたときは嬉しかったですね。Georgie Fameの大好きなグルーヴィー・チューン「Happiness」。この曲が収録された1971年の知る人ぞ知る名盤『Going Home』の裏ジャケットには、ボア付きのレザー・ブルゾンに身を包んで自転車に乗って走るGeorgie Fameの姿が映しだされているんですね。

それにしても、この曲の素晴らしさは、どう言葉にしたらいいのでしょう。聴いていると心が元気になる、若々しく晴れやかな気分になれる最高すぎる一曲。ポジティヴな歌詞、高揚せずにはいられないメロディー展開と躍動するアレンジメント、そして軽快なリズムの疾走感。裏ジャケットに写るGeorgie Fameそのままのような音楽。

僕は1995年に、日本のレコード会社ソニーが企画したリクエスト・リイシュー・シリーズ“こんなのどうだ?”のサンプラーCDにこの曲を推薦して、次のようなコメントを寄せ、晴れてアルバム復刻が実現したときにはライナーノーツも執筆しました。

ジョージィ・フェイムの『Going Home』は、ちょうどペイル・ファウンテンズやスタイル・カウンシルに夢中だった高校から大学にかけての思い出の一枚。久しぶりに針を落としてみても、オープニングは今こそ聴かれるべきホワイト・ヤング・ソウルだし、タイトル曲はお洒落なA&M調、ケニー・ランキンのポップなカヴァーも、メランコリックなボサ風味の「Stormy」も全く色褪せていない。今回はそんな中から当時一番好きだった「Happiness」をセレクト。何度聴いてもソフト・ロック心をくすぐられる最高にグルーヴィーな曲です。ロジャー・ニコルスとか好きな人は目(耳)から鱗を落としてください。

この「Happiness」はその後2000年に、僕が“午後のコーヒー的なシアワセ”をテーマに選曲したカフェ・アプレミディのコンピ・シリーズにも収録しましたが、歌いだしから本当にポジティヴ極まりない、曲名通り幸福へと向かって突き進んでいくような、Georgie Fameだからこそ歌える眩しいくらいにまっすぐな愛の歌ですね。曲を書いたのは、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズやロイヤレッツなどを手がけ、ブルー・アイド・ソウルの名作を数多く残しているテディー・ランダッツォとヴィクトリア・パイクの名コンビです。

ルックスもハンサムで佇まいも洒落たGeorgie Fameは、1960年代スウィンギン・ロンドンのクラブ・シーン〜モッド・シーンで人気を博した、粋でかっこよくヒップなオルガニスト/シンガー。ジャズ〜ブルース〜R&B〜ラテン〜カリプソ〜ブルー・ビート(スカ)などに影響を受けたグルーヴィーな音楽を奏で、3曲の全英No.1ヒットも記録していて、デビュー・アルバムにしてライヴ録音の1964年作『Rhythm And Blues At The Flamingo』も、自由な空気感が素晴らしすぎる僕の大愛聴盤です。「Happiness」を含む彼の10作目のアルバム『Going Home』は、本国イギリスでは発売当時もチャート・インしませんでしたが、90年代の東京の未来のリスナーから前述の通り熱く再評価されたのでした。

Georgie Fame「Happiness」

https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=Q_pO7p0Hew4



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC⑫
Kraftwerk
「Tour de France」

この連載がスタートした当初から、自転車と音楽についてのコラムなら、いつかここぞというタイミングで取り上げようと思っていたKraftwerkの「Tour de France」。FUJI ROCK FESTIVAL 2024でのライヴ・パフォーマンスが話題を呼んでいる今こそ、という感じでご紹介します。 1970年に結成されたドイツの電子音楽グループKraftwerkは、ジャケット・デザインやヴィジュアル・イメージも自ら手がける、その存在自体がコンセプチュアルな、いわゆるクラウトロック(ジャーマン・ロック)の代表格であり、テクノ・ポップの先駆者で、YMOはもちろん、イギリスのニュー・ウェイヴ勢(特に80年代にニュー・ロマンティックと呼ばれたエレ・ポップ〜シンセ・ポップ)に大きな影響を与えました。ロボットのように感情を感じさせない、無機的で禁欲的な謎めいた印象ですが、ファンキーなリズムとミュージック・コンクレートとポップ・ミュージックの融合で、「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ」なんて言われたりもしますね。特に注目すべきは、Afrika Bambaataaを始めとするヒップホップ〜エレクトロ・ファンクや、Juan AtkinsやDerrick Mayに象徴されるデトロイト・テクノといった、ブラック・ミュージックにも多大な影響を及ぼしていることです。 Kraftwerkはメンバーがサイクリングに高い関心を持っていたことでも知られ、1983年に発表された「Tour de France」は、その経験や名高い同名の自転車競技大会から着想された名作で、ヴィデオ・クリップにはサイ […]

#Music
CULTURE
CYCLE MUSIC⑬
Livingston Taylor
「Don’t Let Me Lose This Dream」

自転車と音楽にまつわるちょっとしたエッセイを毎回お届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回紹介するのは、優しく心安らぐハートウォームな歌声と味わい深いギターが印象的な、フォーク系シンガー・ソングライターLivingston Taylorによる1996年作、その名も『Bicycle』です。 通称“Liv”ことLivingston Taylorは、James Taylorを始めKate TaylorやAlex Taylorも名高い音楽一家五兄弟の三男で、1970年に発表したセルフ・タイトルのファースト・アルバム以来、コンスタントに作品を発表していますが、1989年からは名門バークリー音楽大学の教授としても知られていますね。といっても彼の奏でる音楽は、どちらかと言うとアカデミックというよりは素朴な佇まいで、キャリアを通して“心暖まる”という形容が最も似合い、好感を抱かずにいられません。 そんな彼が長年のコラボレイターScott Petitoのプロデュースで1996年に発表した『Bicycle』は、矢吹申彦が手がけたアルバム・カヴァーの中心にも空に浮かんだ自転車があしらわれ、サイクリング愛好家ならずとも心惹かれるはずですが、そのタイトル・チューンもとても素晴らしい曲なので、このコラムがスタートした当初から、いつか推薦したいと考えていました。 さらに、僕が提唱したFree Soulムーヴメントが全盛期を迎えていた1996年当時、その曲の次に収録されていたのが、紛れもない「Don’t Let Me Lose This Dream」だったことに、僕は大感激してしまっ […]

#Bicycle