CYCLE MUSIC⑭
RM
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車にまつわる音楽紹介をお届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回は僕より詳しい方もたくさんいらっしゃると思いますが、韓国の大人気グループBTSのリーダーであり、ヒップホップMC/シンガー・ソングライター/プロデューサーRMのソロ曲、その名も「Bicycle」について綴ってみようと思います。

というか正直なところ、僕はBTSのことをほとんど知らなくて、申し訳ないことこの上ないのですが、「2021 BTS FESTA」の一環として発表された作品だというこの曲には、とても感銘を受けました。Free Soulファンにも薦めたいような、ゆったりとしたグルーヴを紡ぐギター・カッティングに導かれる、少し寂しげな感傷的なメロディー。「悲しいときは自転車に乗ろう」というサビのリフレインが胸に沁みる、大スターでありながら私小説的な魅力にあふれた、自転車ソング屈指の名曲ですね。

自転車に乗るといつもときめき、最も自由を感じられる時間だと語るRMは、ずっと自転車にまつわる曲を作りたいと思っていたそうですが、実際にこの「Bicycle」は、夢中で自転車に乗ってあちこちを動きまわりながら、メロディーと歌詞を完成させたといいます。とりわけ、週末に自転車に乗りながら鼻歌をくちずさみ作ったというリリックは、歌もラップも心打たれずにはいられません。シンプルな自転車のドローイングをあしらったジャケットも、味があって素敵だと思います。皆さんも、悲しいときは、自転車に乗りましょう。僕はもう、そうしています。

RM 「Bicycle」
https://www.youtube.com/watch?v=6uq3P7zeYyU



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”
#13 Livingston Taylor “Don’t Let Me Lose This Dream”
#14 RM “Bicycle”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC⑨
Dominic Miller
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車と音楽にまつわるエッセイを綴っているマンスリー・コラム「CYCLE MUSIC」。今回は名ギタリストDominic Millerによる、その名も「Bicycle」という曲を紹介しましょう。 アメリカ人の父とアイルランド人の母のもとアルゼンチンで生まれ、長らくロンドンを拠点に活躍して、今は南フランスに住んでいるというDominic Millerは、「偉大で穏やかなストーリーテラー」などと多くのメディアで絶賛されてきましたが、何と言っても輝かしいStingの右腕としてのキャリアで名高いですね。Stingは彼のことを「色彩豊かな音の建築家」と称賛し、やはり共演歴のあるPaul Simonはその詩情がこぼれ落ちるようなギター・プレイを「ジャズとイングリッシュ・フォークの香りがする美しい音色」と讃えている、テクニカルかつメロディアスなセンスの持ち主です。 現在は“静寂の次に美しい音”を標榜するドイツの名門ジャズ・レーベルECMから自身名義のリーダー・アルバムをリリースしていて、この「Bicycle」はECMでの2作目として2019年に発表された『Absinthe』に収録されています。そう、“アブサン”という薬草系の強いリキュールのように甘く危険で美しい、彼が魅了された20世紀フランスの印象派アーティストたちへのオマージュとなっている作品集で、僕はこのアルバムのリリースに合わせて丸の内COTTON CLUBで行われた来日公演も観に行きました。 瑞々しいギターのリフレインに、ノスタルジックな哀愁を帯びたバンドネオンや、タイトで空間性に富んだドラミングも印象的な「Bicy […]

#SUBURBIA
CULTURE
CYCLE MUSIC③
Corinne Bailey Rae「Put Your Records On」

先々月にこの連載コラムの初回でご紹介したThe Style Councilの「My Ever Changing Moods」と並んで、自転車に乗っている映像が印象的なMVと言えば真っ先に思い浮かべるのが、1979年イギリス・リーズ生まれのシンガー・ソングライターCorinne Bailey Raeの「Put Your Records On」。初めてMVを観たときの瑞々しいときめきは忘れられません。若き日にフランソワ・トリュフォー初期の短編を観たときに感じたような(彼の映画には自転車をモティーフにした名シーンが多いですね)胸疼くような甘酸っぱさ。

#Column #Music
CULTURE
CYCLE MUSIC⑫
Kraftwerk
「Tour de France」

この連載がスタートした当初から、自転車と音楽についてのコラムなら、いつかここぞというタイミングで取り上げようと思っていたKraftwerkの「Tour de France」。FUJI ROCK FESTIVAL 2024でのライヴ・パフォーマンスが話題を呼んでいる今こそ、という感じでご紹介します。 1970年に結成されたドイツの電子音楽グループKraftwerkは、ジャケット・デザインやヴィジュアル・イメージも自ら手がける、その存在自体がコンセプチュアルな、いわゆるクラウトロック(ジャーマン・ロック)の代表格であり、テクノ・ポップの先駆者で、YMOはもちろん、イギリスのニュー・ウェイヴ勢(特に80年代にニュー・ロマンティックと呼ばれたエレ・ポップ〜シンセ・ポップ)に大きな影響を与えました。ロボットのように感情を感じさせない、無機的で禁欲的な謎めいた印象ですが、ファンキーなリズムとミュージック・コンクレートとポップ・ミュージックの融合で、「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ」なんて言われたりもしますね。特に注目すべきは、Afrika Bambaataaを始めとするヒップホップ〜エレクトロ・ファンクや、Juan AtkinsやDerrick Mayに象徴されるデトロイト・テクノといった、ブラック・ミュージックにも多大な影響を及ぼしていることです。 Kraftwerkはメンバーがサイクリングに高い関心を持っていたことでも知られ、1983年に発表された「Tour de France」は、その経験や名高い同名の自転車競技大会から着想された名作で、ヴィデオ・クリップにはサイ […]

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