CYCLE MUSIC① The Style Council 「My Ever Changing Moods」

今月から連載コラムを始めることになりました。どうぞよろしくお願いします。

「自転車で音楽がもっと楽しくなるような」エッセイを、毎月お届けできればと思っていますが、初回は自己紹介も兼ねて。

1984年2月のある日、まもなく高校2年生を終えようとしていた頃、何気なく流していた当時全盛のMTVを観るともなく聴いていて、イントロのギターのリフからとてもキャッチーな、軽快でグルーヴィーなアコースティック・ナンバーに耳が止まりました。

イギリスらしい田園風景の中を、ちょっとコミカルで微笑ましい仕草を混じえながら、ロードレイサーで走るMV。その曲を一発で気に入ってしまった僕が、すぐに12インチ・シングルを買いに、渋谷のレコードショップまで自転車を走らせたのは、言うまでもありません。それ以来、自転車通学だった僕は、登校時にくちずさむのもいつも、この曲になりました。

そんな僕の青春の1ページを彩ることになった曲の名は、The Style Councilの「My Ever Changing Moods」。The Style Councilは、1970年代後半から80年代前半にかけてモッズ/パンク・シーンで人気を極めたバンドThe Jamを絶頂期に解散したPaul Wellerが、キーボード奏者のMick Talbotと結成して、ジャズやソウルやボサノヴァの影響も受けた洗練されたポップ・ミュージック(Sophisti-Pop)を奏でたユニットですが、これはその初期、5作目のシングル。翌月に出て、僕はもちろん発売日に買いました彼らのファースト・アルバム『Cafe Bleu』には、しっとりしたピアノ伴奏のみで歌われる、ジャジーなヴァージョンが収録されています。

その後40年近くにわたって、僕は音楽性だけでなく、The Style Councilの様々なこと──ファッション/アートワーク/ライナー/MV/広告/リリース・スタイルなどに、大きなインスピレイションを得てきました。「My Ever Changing Moods」という言葉は、僕の音楽ライフに一貫して流れる、モットーやフィロソフィーのようにもなっていると思います。

Text_橋本徹(SUBURBIA)


The Style Council「My Ever Changing Moods」

https://youtu.be/rmVkOlZFF3Y?si=FW4wa28ZEknxXdeI



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC⑬
Livingston Taylor
「Don’t Let Me Lose This Dream」

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#Bicycle
CULTURE
CYCLE MUSIC⑫
Kraftwerk
「Tour de France」

この連載がスタートした当初から、自転車と音楽についてのコラムなら、いつかここぞというタイミングで取り上げようと思っていたKraftwerkの「Tour de France」。FUJI ROCK FESTIVAL 2024でのライヴ・パフォーマンスが話題を呼んでいる今こそ、という感じでご紹介します。 1970年に結成されたドイツの電子音楽グループKraftwerkは、ジャケット・デザインやヴィジュアル・イメージも自ら手がける、その存在自体がコンセプチュアルな、いわゆるクラウトロック(ジャーマン・ロック)の代表格であり、テクノ・ポップの先駆者で、YMOはもちろん、イギリスのニュー・ウェイヴ勢(特に80年代にニュー・ロマンティックと呼ばれたエレ・ポップ〜シンセ・ポップ)に大きな影響を与えました。ロボットのように感情を感じさせない、無機的で禁欲的な謎めいた印象ですが、ファンキーなリズムとミュージック・コンクレートとポップ・ミュージックの融合で、「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ」なんて言われたりもしますね。特に注目すべきは、Afrika Bambaataaを始めとするヒップホップ〜エレクトロ・ファンクや、Juan AtkinsやDerrick Mayに象徴されるデトロイト・テクノといった、ブラック・ミュージックにも多大な影響を及ぼしていることです。 Kraftwerkはメンバーがサイクリングに高い関心を持っていたことでも知られ、1983年に発表された「Tour de France」は、その経験や名高い同名の自転車競技大会から着想された名作で、ヴィデオ・クリップにはサイ […]

#SUBURBIA
EVENT
自宅でファンライド! 取材歴30年ジャーナリストはこう観る
ツール・ド・フランス2024 #03
〜伝説の上り坂、あの峠をライドする〜

※*TOP写真/ピレネーのオービスク峠 真夏のフランスを23日間かけて一周するツール・ド・フランスの取材現場より。レースの結果はタデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)がダントツの個人総合優勝を勝ち取った。 さて、3回シリーズのコラム最終回は、日本から実際に現地に行って、ぜひ走っておきたいコースを紹介。アルプス編は中級者向けでレンタカーを使えば初級者も実走可。ピレネー編は上級者向けの周回コースだ。 目次 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう2 ピレネー編 ツールマレー峠をツール・ド・フランスは絶対外さない。聖地ルルドから1日で行ける人気ルート 1 アルプス編 ツール・ド・フランス最高の舞台、ラルプデュエズ。タイムを自己計測して観光局で記録証をもらおう ツール・ド・フランス最高の舞台として知られるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズ。距離13.8kmの上り坂に世界中から熱心なファンが集まる。 ふもとのブールドワザンにある最後のロンポワン(環状交差点)でラルプデュエズという看板のさす方向に進路を取ると、しばらくして幾多の伝説を生んだあの上り坂が始まる。 上り始めていきなりの激坂が2km続く。ここからまさに「ヘアピン」と呼ぶにふさわしいコーナーがラルプデュエズ村の入り口まで21ある。数字をカウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいので、たいていのサイクリストは最初のコーナーで足を着く。 ラスト6km地点にはエズ(Eze)村のゴシック様式の美しい教会 […]

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