CYCLE MUSIC⑫
Kraftwerk
「Tour de France」

この連載がスタートした当初から、自転車と音楽についてのコラムなら、いつかここぞというタイミングで取り上げようと思っていたKraftwerkの「Tour de France」。FUJI ROCK FESTIVAL 2024でのライヴ・パフォーマンスが話題を呼んでいる今こそ、という感じでご紹介します。

1970年に結成されたドイツの電子音楽グループKraftwerkは、ジャケット・デザインやヴィジュアル・イメージも自ら手がける、その存在自体がコンセプチュアルな、いわゆるクラウトロック(ジャーマン・ロック)の代表格であり、テクノ・ポップの先駆者で、YMOはもちろん、イギリスのニュー・ウェイヴ勢(特に80年代にニュー・ロマンティックと呼ばれたエレ・ポップ〜シンセ・ポップ)に大きな影響を与えました。ロボットのように感情を感じさせない、無機的で禁欲的な謎めいた印象ですが、ファンキーなリズムとミュージック・コンクレートとポップ・ミュージックの融合で、「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ」なんて言われたりもしますね。特に注目すべきは、Afrika Bambaataaを始めとするヒップホップ〜エレクトロ・ファンクや、Juan AtkinsやDerrick Mayに象徴されるデトロイト・テクノといった、ブラック・ミュージックにも多大な影響を及ぼしていることです。

Kraftwerkはメンバーがサイクリングに高い関心を持っていたことでも知られ、1983年に発表された「Tour de France」は、その経験や名高い同名の自転車競技大会から着想された名作で、ヴィデオ・クリップにはサイクリングの映像も使われています。翌年には映画『ブレイクダンス』(原題『Breakin’』)でも使用され、ハウス・ミュージックの要人François Kevorkianのリミックスも作られていますね。

僕がリアルタイムで最初にKraftwerkを自覚的に聴いたのは1986年のアルバム『Electric Cafe』でしたが、ほぼ同時期の学生時代に、サイクリングの喜びを讃えるこの曲も聴くことができて、シンプルなエレクトロ・パーカッションに、サイクリングに関連するサンプリング音声や機械音がミックスされる、Kraftwerk独特のサウンド・メイキングに強い印象を受けたのを憶えています。メロディーにはドイツの近代クラシック作曲家Paul Hindemithの「フルートとピアノのためのソナタ」を引用していますね。

僕が大学生のときにこのレコードを購入したのは、シャープなサイクリング姿のメンバー4人にフランス国旗のトリコロール・カラーがあしらわれた鮮やかなアートワークに惹かれたからで、A面にはドイツ語ヴァージョン、B面にはフランス語ヴァージョンが収められていました。2003年にはこの曲のリテイクも収録された、ツール・ド・フランスの100周年を記念したオリジナル・アルバム『Tour de France Soundtracks』がリリースされたことも、付け加えておきましょう。

Kraftwerk「Tour de France」
https://youtu.be/rTe7U92ecX8?si=vqllUl3xezN1NYR8



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
CYCLE MUSIC⑩
NewJeans
「Bubble Gum」

4/27にこの連載コラムのエディター&アートワーク制作チームとその友人たち、さらにデザイナー&トランスレイター含む「Global Ride」の運営スタッフが集まって、渋谷にある僕の店カフェ・アプレミディでDJパーティーが開かれ、大変な盛り上がりとなり、とても楽しい時間をすごしました。僕はその日、何をかけようかと楽しみに、朝からいくつものレコードを選んでいたのですが、たまたま友人のおすすめで4/27午前0時リリースだったNewJeansの新曲「Bubble Gum」のMVを観たところ、自転車に乗るシーンが出てきて、その曲の良さも相まって、一日中ときめいてしまっていたのでした。そこで今月は、K-Popをめぐる諸事情には全く疎い自分がNewJeansについて語るのは野暮かとも思いましたが、僕がそのとき彼女たちの音楽とMVから感じたことだけを著そうと思います。 ひとことで言うならば、青春のきらめきとその儚い美しさを彼女たちが自然体で謳歌していることに、胸を疼かされたということに尽きるでしょう。甘酸っぱくて、清涼感があって、瑞々しくて、春から夏へ向かうこの季節、海辺に行きたくなるような音楽。いや、ひと夏の他愛ないけどかけがえのない思い出のような音楽、と言った方がいいでしょうか。そう、自転車に乗って、あの頃のようにどこかへ出かけたくなる音楽。 とりわけ印象的だったのは、「シャボン玉ってピースフルだな」と、あらためて感じさせてくれたこと。僕は2年前の初夏、DJ仲間とアウトドア・キャンプに出かけたときに、美しい夕陽の逆光の中で女性たちがシャボン玉を吹いていた光景がフラッシュバックして、思わず写 […]

#NewJeans
CULTURE
CYCLE MUSIC⑬
Livingston Taylor
「Don’t Let Me Lose This Dream」

自転車と音楽にまつわるちょっとしたエッセイを毎回お届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回紹介するのは、優しく心安らぐハートウォームな歌声と味わい深いギターが印象的な、フォーク系シンガー・ソングライターLivingston Taylorによる1996年作、その名も『Bicycle』です。 通称“Liv”ことLivingston Taylorは、James Taylorを始めKate TaylorやAlex Taylorも名高い音楽一家五兄弟の三男で、1970年に発表したセルフ・タイトルのファースト・アルバム以来、コンスタントに作品を発表していますが、1989年からは名門バークリー音楽大学の教授としても知られていますね。といっても彼の奏でる音楽は、どちらかと言うとアカデミックというよりは素朴な佇まいで、キャリアを通して“心暖まる”という形容が最も似合い、好感を抱かずにいられません。 そんな彼が長年のコラボレイターScott Petitoのプロデュースで1996年に発表した『Bicycle』は、矢吹申彦が手がけたアルバム・カヴァーの中心にも空に浮かんだ自転車があしらわれ、サイクリング愛好家ならずとも心惹かれるはずですが、そのタイトル・チューンもとても素晴らしい曲なので、このコラムがスタートした当初から、いつか推薦したいと考えていました。 さらに、僕が提唱したFree Soulムーヴメントが全盛期を迎えていた1996年当時、その曲の次に収録されていたのが、紛れもない「Don’t Let Me Lose This Dream」だったことに、僕は大感激してしまっ […]

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