CYCLE MUSIC⑧
The Smiths
「This Charming Man」

ジャケットやMVなど様々な観点から、自転車にまつわる名曲についてのあれこれを綴っているマンスリー・コラム「CYCLE MUSIC」。今月は“Punctured Bicycle”と歌いだされる、The Smithsの「This Charming Man」を紹介しましょう。

これは個人的に、連載第1回で取り上げたThe Style Councilの「My Ever Changing Moods」や、Aztec Cameraの「Oblivious」と共に、音楽に夢中になった17歳のときにリアルタイムでリリースされて虜になった3曲のうちのひとつです。

1980年代前半、パンク〜ニュー・ウェイヴの波をこえて、イギリスから新しく生まれてきたアコースティックなポップスが好きだったんですね。The Smithsと言うと、Morrisseyのヴォーカルと歌詞のカリスマ性が注目されがちですが、イントロのJohnny Marrの瑞々しいギターから衝撃を受けました。そしてメロディアスな美しい歌声に、モータウン・ビートの影響色濃い“最強のベース・ライン”と言われたAndy Rourkeによるグルーヴの推進力。FMラジオで耳にして一聴してノックアウトされた僕は、すぐに12インチ・シングルを買いに行って、ジャン・コクトー(Jean Cocteau)監督1950年のフランス映画『オルフェ(Orphée)』でジャン・マレー(Jean Marais)が水たまりに横たわるシーンを写した、そのジャケットにも魅せられたのでした。

寂れた丘で自転車をパンクさせてしまった若者と、そこを素敵なクルマで通りかかった感じのいい紳士“This Charming Man”のストーリーを描いた、ポエティックな歌詞にこめられた多面的な意味合いに気づくのは、大学生になってからのことでしたが、17歳の僕を魅了した、イギリスの緑したたる田園風景を自転車で駆け抜けていくようなその爽快感・疾走感は(「My Ever Changing Moods」や「Oblivious」もそうですね)、40年の時が経った今もフレッシュに心を躍らせてくれます。

The Smithsの楽曲では、Johnny Marrの気持ちのよいリンガラ風ギターとMorrisseyのヨーデル・ヴォイスに高揚する「The Boy With The Thorn In His Side(心に茨を持つ少年)」と並んで、現在もなお(ときには“New York Remix By Francois Kevorkian”で)DJプレイすることのあるフェイヴァリット作であることも付け加えておきましょう。

The Smiths「This Charming Man」



♬CYCLE MUSIC STORAGE♬
#01 The Style Council “My Ever Changing Moods”
#02 Cordelia “Play Pretend”
#03 Corinne Bailey Rae “Put Your Records On”
#04 Georgie Fame ”Happiness”
#05 Alulu Paranhos “Bicicletinha”
#06 Motoharu Sano “Angelina”
#07 B.J. Thomas “Raindrops Keep Fallin’ On My Head”
#08 The Smiths “This Charming Man”
#09 Dominic Miller “Bicycle”
#10 NewJeans “Bubble Gum”
#11 Tank and the Bangas “Smoke.Netflix.Chill.”
#12 Kraftwerk “Tour de France”
#13 Livingston Taylor “Don’t Let Me Lose This Dream”
#14 RM “Bicycle”
#15 Norah Jones “Christmas Calling (Jolly Jones)”


Profile

橋本徹/Toru Hashimoto(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。近年はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

Art Work_spoken words project

CULTURE
Music Cycles Around The World
③ Hawaii
Macky Feary Band “Macky Feary Band”

自転車と共に音楽で世界を走ろうというイメージで、“都市と音楽”をテーマに「Music Cycles Around The World」と題してお届けしています新連載の第3回。今回は毎年9月の第4日曜に開催される「ホノルル・センチュリー・ライド」(日本からも多くのライダーが参加する、「ホノルル・マラソン」に次ぐハワイ第2のスポーツ・イヴェントです)にちなんで、僕が愛聴してきたハワイの音楽について綴っていこうと思います(といっても、いわゆるハワイアンではありません)。 すぐに思い浮かんだのは、30年前の夏に友人が確か500円という安価で中古の日本盤レコードを快く譲ってくれて、今も心から感謝しているMacky Feary Bandの1978年のファースト・アルバム『Macky Feary Band』。なぜならこの名作を聴いた感動によって、僕のハワイ産のメロウなアイランド・ミュージックへの好奇心は決定的に火がついたからです。当時を思いだしながら、その広がりを思いつくままに挙げていくなら、まずはMacky Fearyが在籍したKalapanaの最初の2枚。Kirk Thompsonが立ち上げたLemuriaと、やはり彼が制作しBilly Kauiに捧げられた「Words To A Song」やLemuriaとの競作「All I’ve Got To Give」が素晴らしいBabadu。特に思い入れ深いLuiやTender Leafの胸が疼くようなアコースティックなロコAOR。ハワイでコーヒーハウスをやっていたMFQのCyrus FaryarがプロデュースしたCountry Co […]

#Hawaii #Column
CULTURE
CYCLE MUSIC⑭
RM
「Bicycle」

毎回ちょっとした自転車にまつわる音楽紹介をお届けしている連載コラム「CYCLE MUSIC」。今回は僕より詳しい方もたくさんいらっしゃると思いますが、韓国の大人気グループBTSのリーダーであり、ヒップホップMC/シンガー・ソングライター/プロデューサーRMのソロ曲、その名も「Bicycle」について綴ってみようと思います。 というか正直なところ、僕はBTSのことをほとんど知らなくて、申し訳ないことこの上ないのですが、「2021 BTS FESTA」の一環として発表された作品だというこの曲には、とても感銘を受けました。Free Soulファンにも薦めたいような、ゆったりとしたグルーヴを紡ぐギター・カッティングに導かれる、少し寂しげな感傷的なメロディー。「悲しいときは自転車に乗ろう」というサビのリフレインが胸に沁みる、大スターでありながら私小説的な魅力にあふれた、自転車ソング屈指の名曲ですね。 自転車に乗るといつもときめき、最も自由を感じられる時間だと語るRMは、ずっと自転車にまつわる曲を作りたいと思っていたそうですが、実際にこの「Bicycle」は、夢中で自転車に乗ってあちこちを動きまわりながら、メロディーと歌詞を完成させたといいます。とりわけ、週末に自転車に乗りながら鼻歌をくちずさみ作ったというリリックは、歌もラップも心打たれずにはいられません。シンプルな自転車のドローイングをあしらったジャケットも、味があって素敵だと思います。皆さんも、悲しいときは、自転車に乗りましょう。僕はもう、そうしています。 RM 「Bicycle」https://www.youtube.com/wat […]

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